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ちぇりーのバラエティ番組での発言と、その後のSNSでの炎上は、予想以上に深刻な事態を招いた。
「Starlight Wish (SW)」の仕事に、じわじわと影響が出始めたのだ。
最初の影響が出たのは、予定されていた雑誌のグループ表紙撮影のキャンセルだった。
「理由は明確です。スポンサーが、炎上中のメンバーがいるグループの起用を不安視しています。特にちぇりーさんは、今は『問題児』というレッテルを貼られてしまっている」
マネージャーの五十嵐は、メンバーたちに厳しい現実を突きつけた。
その後も、いくつかのテレビ番組への出演が「見送り」となる事態が続いた。
レッスン室の空気は、日を追うごとに重く、冷たくなっていった。
リーダーの凛は、誰よりもこの状況に焦っていた。
彼女が何年もかけて守り育ててきたグループが、たった一人のメンバーの炎上によって、デビュー直後に活動の道を閉ざされかねない。
「ちぇりー、お願いだから集中して。今日のフォーメーション、三回も間違えている。プロとして、私的な感情をコントロールできなくてどうするの…!」凛の声には、苛立ちと同時に、焦燥感が滲んでいた。
レッスン後、希と華は、ついに不満を爆発させた。
「ねぇ、このままじゃ私たち、ちぇりーのせいでデビューが一瞬で終わっちゃうよ!」
希は、悔しさのあまり泣き出しそうになっていた。
「私たちは悪くないのに、なんで仕事が減るの?なんでちぇりーだけが注目されて、そのせいで全員が被害を被るの?」
華は、希ほど感情的ではないが、静かに、しかし鋭く言った。
「ちぇりー、あなたの才能は認めている。だけど、センターの人間が、グループ全体に負のイメージを貼り付けるのはプロ失格よ。私たちはあなたの『踏み台』じゃない。もし、活動に支障が出るなら…あなたが自ら身を引くべきじゃないの?」
華にとって、ちぇりーの存在は、自身のポジションを脅かすだけでなく、自身の努力で築き上げたキャリアさえも危うくする「リスク」でしかなかった。
ちぇりーは、ただ俯くことしかできなかった。
学校で樹と鈴がくれた温かい言葉も、このプロの現場での厳しい現実に直面すると、簡単に打ち消されてしまう。
(私が辞めれば、みんなは安心して活動できる。私のせいで、みんなの夢を壊したくない…)
ちぇりーが口を開き、「ごめんなさい。私が…」と切り出そうとした、その時だった。
「待って、ちぇりーちゃん!」
サブリーダーの葵が、初めて声を荒らげた。彼女は、静かに二人の間に割って入った。
「ちぇりーちゃんが、本当に先輩たちを馬鹿にするような子じゃないって、みんな知ってるはずだよ。私たち、毎日一緒にレッスンしてるんだから!」
葵は、希と華に向き直った。
「確かに、仕事が減るのは怖い。でも、私たちが今、ちぇりーちゃんを責めて、彼女がグループを辞めたら、世間はどう思う?『Starlight Wishは、炎上したメンバーを切り捨てた薄情なグループ』って、また違う形で叩かれるだけだよ」
葵は、冷静に状況を分析した上で、メンバーたちを諭した。
「私たちは、ちぇりーちゃんが真実を伝えられなかったなら、私たちが、パフォーマンスで真実を証明すればいいんだよ。私たちのステージで、ちぇりーちゃんがどんなに真剣で、私たちとの絆がどれだけ強いかを見せつけるの」
葵は、力強く提案した。
「一週間後に予定されている大型音楽フェス。私たちはそこで新曲を初披露することになっている。事務所にかけあって、新曲のコンセプトを急遽変更しよう。この炎上に対する、私たちからの『アンサーソング』を歌うんだ。ちぇりーの才能を隠さず、5人の絆が最高に光るステージを組む!」
凛の決断:反撃、答えのステージへ
凛は、それまで腕を組み、冷ややかに成り行きを見ていた。葵の提案を聞き終えると、彼女は深いため息をついた。
「…五十嵐マネージャーの指示に背くことになる。リスクが高すぎる」
凛はそう言ったが、ちぇりーを辞めさせるという選択肢が、グループの未来を閉ざすことを理解していた。
ちぇりーの才能は、SWがトップに立つために不可欠な要素だったからだ。
「わかった」凛は、決意を込めた眼差しをちぇりーに向けた。
「ちぇりー。あなたの言葉、はもう信用できない。けど、あなたのパフォーマンス、だけは信じる。もし、このステージでミスを犯したり、炎上の重圧に負けたりしたら、その時は本当にセンターを降りてもらう」
凛の言葉は、ちぇりーにとっての最後のチャンスであり、グループ全体の命運をかけた「宣戦布告」でもあった。
「はい!やります。私、ちぇりーとして、必ず成功させます!みんなの努力を、私の炎上なんかで絶対に終わらせません!」ちぇりーは、決意を固め、涙を拭った。
その日から、5人のレッスンは、かつてないほどの緊張感と団結力に包まれた。新曲の振り付けは、ちぇりーが追い詰められた際に、他のメンバーがサポートするような、緻密なフォーメーションに変更された。
希と華も、ちぇりーへの不満を一時脇に置き、プロとして最高のステージを作るため、自分のパートを磨き始めた。
炎上というネガティブな渦は、皮肉にもSWのメンバーを、初めて真の「チーム」へと変貌させていったのだった。
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