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話しかけるたびに、怪訝な顔して慌てたり赤くなってたりとビリーくんは退屈しない子だった。それでも仕事だから、わたしの気持ちが入り込む余地はない。
ビリーくんの怒りや復讐の激情は今はずいぶんと削ぎ落とされている。結果を出すだけの事にしては、強すぎるあの気持ちはマイナスにしか働かない。
──こんな仕事ならたまにはいいかも知れない。割とあの子はいい方向に変わったと思う。
けどその時間にも終わりがある。
もう鐘は鳴らない。
ダリルには約束の飴を渡しておく。
「ありがとう」
ダリルのその言葉はその意味するところに反して、抑揚なくただの言葉でしかない。それも仕方のないことだけど。
「今夜で、わたしは……」
つい、口にしてしまう。
「全てが消える。それでも俺だけはミーナを覚えているだろう」
「……うん」
目から何かが頬を伝う。
「そうだな……望みがあるかはわからないが、細工はできる。ミーナが成してきた結果なら望みはそこまで薄くはないだろう」
パァッと笑顔になってしまった。
わたしがわたしには有るまじき言葉を口にしたのに、それに対して力を貸してくれる。まったく無愛想なのがその感情を読ませてくれないけど。
誰も居なくなった工房で、ダリルとわたしは向き合う。
ダリルに手渡されたナイフで、後ろで束ねた髪を切り落とす。
受け取ったダリルの顔には、少しの悔しげな表情が宿っている。そうだね、今回の飴はまだきみには辛いものだったかも知れないね。
「ごめんね」
そう口にした言葉が、声となったかどうかはわからない。
光とともに景色が白く、塗りつぶされていく。
それが彼にとって何度目なのかはわからない。前にチラと目にした時はまだわたしは小さかったから、ここから出られなくて、早く成長出来るようにと祈ったものだ。
その時から幾度の昼と夜を繰り返したかはわからない。
彼はそれでも足繁くこの丘のひまわりに会いにきてくれる。冬にも咲いているひまわりを不思議に思いつつ、それでもここに来てピクニックをしてくれる。
ひまわりはダリルが植えてくれた特注で、ビリーくんが来た時だけ、その役目を果たしてくれる。
彼とピクニックするという役目。
ビリーくんはとても嬉しそうで、思わずわたしも嬉しくなる。
ある日、ダリルがやってきてわたしのいる茂みに、記憶にあるものより少し小さいけど、白のシャツとかわいい下着。あと紺色のオーバーオールに可愛いブーツと、いつかの麦わら帽子を置いて行ってくれた。
なぜ気づいたのかわからないけど、ありがとうと声にならない感謝をした。
ダリルは右手を上げただけで立ち去っていく。
そしてその年の夏の午後。
ビリーくんはいつものようにピクニックをはじめて、おもむろに一本の瓶を取り出した。
ダリルがいつもポケットに入れている瓶だったと思う。
栓を抜いた瓶をひまわりの根元で中身の桃色の魔水を注いだ。
「願いの叶う魔法とか言ってたけど、なんなんだろうなこれ。ただのいたずらか? 最近少し笑うようになったのもあいつの心境の変化かなんかかな?」
ビリーくんはそんな独り言を言いながら、ひまわりを見て微笑んでいる。
いよいよと服を着て、麦わら帽子をかぶったわたしは、少し縮んだし彼は覚えていないけど──それでも彼めがけて駆け出したわたしを、驚いたビリーくんは泣き笑いの笑顔で受け止めてくれた。
こうしてわたしは、あのときのピクニックの約束を果たした。
そして──。