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「じゃあ、すみません。

ありがとうございました」

とスタッフルームを出るとき、脇田が仲間に頭を下げる。


「いやいや。

こっちが悪かったんだから。


また店長から、連絡させてもらいますね」

と言うのを脇田は断った。


「たいした傷じゃありませんから」

「いやいや、お得意さんに怪我させちゃね」


いつも見かけるイケメンだから覚えてる、と仲間は豪快に笑って言った。


スタッフルームの外に居た、蛍光灯をつけたという女の子と脇田が話し始めたので、蓮は仲間に頭を下げ、出て行こうとした。


「ああ、待って。

これ、彼氏が忘れてるよ」

と仲間が小さなビニール袋を渡してくる。


いや、彼氏じゃないんですけど、と思いながら、その袋を受け取った。


「大丈夫かい? それ」

と仲間が気遣ってくれたので、中をチラと確認した。


「大丈夫です」

と微笑む。


「ありがとうございました」

と頭を下げ、脇田と店を出た。




「脇田さん、すみませんでした」


店の外で蓮は脇田に謝った。


「なんで、秋津さんが謝るの?」

「いや、あれ、私の頭の上に落ちてくるところだったんですよね」


「でも、蛍光灯つけたの、君じゃないじゃない」


足を止め、

「実は、もうひとつ、謝ることが」

と言った蓮は、忙しげなコンビニの中を確認すると、脇田の袖を引いて、離れたところまで連れていく。


あのビニール袋を広げて見せた。


脇田の買った果物ゴロゴロのゼリーに小さいが細長いガラスの破片が刺さっていた。


「大丈夫? って訊かれたんですけど。

あんなに謝っていただいたので、なんだかもう申し訳なくて、言えなかったんです。


すみません。

脇田さんのゼリーなのに」


「ああ、いや、いいよ。

そうだね。


確かこれ、最後の一個だったから、換えもきかないし、きっとまた気にするよね」


いいよ、と脇田は言ってくれた。


実は蓮もこれが最後の一個なのは見ていたのだ。


「近くのコンビニで私が買ってきますよ」


いや、いいよ、とすぐに脇田が言ったので、もしかしたら、この近辺では、あの店にしかないのかな、と思った。


そういえば、自分もあそこで買ったし。


「脇田さん、まだ時間大丈夫ですか?」

「え」


蓮は、まるで、旦那、いい品入ってますぜ、という密売人のように、顔を寄せ、小声で言う。


「あげます、このゼリー。

うちに一個あるんです、実は」


脇田が笑った。


「いや、いいよ」


「いえ、申し訳ないので。

すぐ取って来ます。


マンションすぐそこですから」

と蓮は道を挟んで目の前にある大きなマンションを指差した。


それを見上げて、脇田が言う。


「このマンション、賃貸?」

「はい」


「あの、今の派遣のお金で維持できてるの?」


「……ブルーになるようなこと言わないでくださいよ」


ただいま現実逃避中です、と蓮はおのれのマンションを見上げ、訴えた。




マンションの外で待っていてもらうのもなんだか変なので、結局、脇田に部屋までついてきてもらうことにした。


鍵を開けているとき、ちょうど隣の奥さんと出会ったので、にこやかに挨拶をする。


先にその奥さんは入っていってしまったが、脇田が気まずそうに、


「あのー、外に立ってる方が誤解を呼びそうなんで、入ってもいい?」

と言ってきた。


「いいですよ。

どうぞ。


すぐ持ってきます。

あ、お茶でもどうですか?」

とドアを開けながら、蓮は言った。


「いいよ。

秋津さん、晩ご飯食べるんでしょ?」


「そうだ。

脇田さん、ご飯食べられました?」


どうぞ、と中に通しながら言うと、

「まだだけど」

と脇田は言う。


「じゃあ、えーと。

……コンビニ弁当半分こと昨日の残りでどうですか。


って、駄目ですね。


お礼になってないし。

なにか奢りましょうか?


食べに行きますか?」


「いや、ほんとにいいよ」

と言う脇田にとりあえず、お茶だけ出すことにした。


「どうぞ、何処でも座ってください」

と言うと、脇田はソファではなく、テレビの前のラグに腰を下ろす。


部屋の中を見回し、

「なんか落ち着く部屋だね」

とぽつりと言ってきた。


「はは。

そうですか?


きっと、バシッと片付いてないからですよ。

みんな、ダラッと出来るって言います」


ふーん、と言った脇田は、

「みんなって彼氏とか友だち?」

と訊いてくる。


「……彼氏は居ませんよ。

居るように見えますか?」


「居ないようには見えないけど」


「脇田さん、なに出しましょうか。

いや、ケーキとかないな」

と、もてなそうとすると笑い出す。


「君は意外に自己評価低いね」


「そんなことは……

珈琲でいいですか?


ああ、でもあんまり引き止めたら、悪いですよね。

奥さんとかお子さんとか、お待ちですよね」


「あのさ、僕独身なんだけど……」

「そ、そうでしたね」


だから、みんな騒いでたんだった、と思い出した。


いや、あまりに落ち着き払っているので、なんとなく、既婚者のような気がしてしまうのだ。


そういえば、秘書室の人ってみんな落ち着いてるよな、と気がついた。


「そう。

だからさ、こんな簡単に独身男を部屋に上げない方がいいよ」


そう言ってくる脇田に、

「大丈夫ですよ、脇田さんは」

と言うと、なにを根拠に、と苦笑いされる。


「いや、モテそうなんで。

あのいきなり人をはらませようとする悪霊とは違いますよ」


「悪霊?」


「今日言ってた私がお金借りた人ですよ」

とコーヒー用のポットに水を入れながら言う。


「よく考えたら、あの人、変なんですよ。

他の人が居るときには、現れないんです。


もしかして、備品倉庫に居る地縛霊だったりして」


「いやあの……社食でも会ったって言ってなかった?」


そういえば、明るい太陽の下でもあったな、と思い出す。


「そもそも、悪霊、お金貸してくれないでしょ」

と言われ、それもそうだな、と思った。


脇田と珈琲を飲んで少し話した。


普段はあまり話すことのない秘書の人なので、緊張するかと思ったが、社内のいろんな話が聞けて面白かった。


「あれ? 怪我してるね、秋津さん」

とふと気づいたように、脇田が言った。


「ごめん。

秋津さんにも破片飛んでたんだね」

と一緒にラグに座る蓮の足首の辺りを見る。


「ああ……気づきませんでした」


よく見ると、少しストッキングが破れて、赤い線が走っている。


破片が飛んで切れたようだ。


「大丈夫ですよ、このくらい」

と笑うと、何故か脇田が、


「ごめんね。

受け止めきれなくて」

と言ってくれる。


「いえ、とんでもない。

そういえば、あのとき、なにか言おうとされてませんでした?」


そういえば、脇田に呼ばれて、足を止めたんだったと気づいた。


本当はそれで申し訳なく思っているのかもしれないと思ったのだが。


「ああ……」

と言いかけ、脇田は、


「なんでもないよ。

たぶん、なにかしょうもないことだった。


忘れちゃったな」

と言う。


忘れてなさそうだが、と思ったのだが、話したくないのなら、まあ、いいかと思い、

「そうですか」

と蓮は流した。






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