テラーノベル
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眩しい光……。それが、良規の”再生”のはじまりだった。
気がつくと、彼は真っ白な病室のベッドの上にいた。
点滴の管、心電図、酸素マスク。
周囲には医師や看護師が数人、慌ただしく動いていた。
[……意識が戻りました。]
【正門良規さん、分かりますか?聞こえますか?】
彼の脳内には、まだ美咲の姿が焼き付いていた。
あの最後の笑顔。
あの声。
あの愛。
––-–––––—–『ここは、どこだ?』–––––––––––
身体は重く、声も出ない。
だが、彼は理解していた。
––––––––––『……戻ってきたんだ』–––––––––-
地獄のように甘美なあの世界から、美咲の手によって、現世へと“解放”されたのだ。
数週間の入院とリハビリののち、彼はようやく社会に戻った。
だが世界は変わっていた。
日差しが眩しい。
風が冷たい。
人の声が、遠い。
彼の心には、美咲がいた。
あの永遠の闇の中で、彼のために残った女性が。
『……生きろって、言ったけどさ』
アパートの狭い部屋。
誰もいない台所の椅子に座って、良規はつぶやく。
『生きるって、こんなに……つらいのかよ……。』
彼は毎晩、同じ夢を見る。
美咲の最後の笑顔。
自分の手から離れていった白い指先。
彼女の声が聞こえる。
–––「……またね、良規くん。約束だよ? ちゃんと生きて、ちゃんと死んで、また来て」–––
良規はその約束を守るように、日々を重ねていった。
働き、食べ、眠り、また働く。
表面上は“社会復帰”を果たした男。
けれど心は常に“地獄の入り口”にいた。
彼女の声を忘れないために、彼は日記をつけた。
写真を見返した。
夢を、メモに残した。
そして……
ある日……
彼は、死んだ。
静かに、眠るように。
誰も気づかない、孤独な最期だった。
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