目を覚ました良規は、知っていた。ここが、あの境界の世界だと。
だが、あの時とは違う。
空は、ほんのり淡い紫。
風はやわらかく、心を溶かすようだった。
その中心に、ひとりの女性が立っていた。
長い黒髪。白いワンピース。
そして、何よりも懐かしい微笑み。
「……来てくれたんだね」
美咲だった。
「待ってたよ、良規くん」
良規は駆け寄った。
彼女の手を取り、強く抱きしめた。
『……遅くなって、ごめん。』
「ううん。来てくれたってことが、何よりの“答え”だよ」
2人は、再び出会った。
もう誰にも邪魔されない、誰もいない世界の中で。
良規は言った。
『次は……俺が、きみを解放する番だ』
美咲は微笑んだ。
「いいよ。でも、もう少しだけ。今度こそ、心から“愛し合える”まで、一緒にいて?」
『……うん』
2人は、歩き出す。
朝も夜もない、永遠の世界を。
けれど……
その手は、もう縛るためではなかった。
そっと、温かく、お互いの鼓動を確かめるためのものだった。
これは、狂気の愛が、ようやく愛に還る物語。
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