テラーノベル
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それから、しばらくの時間が流れた。
彼とは、以前のように毎日会うことはなかった。
連絡を取り合う日もあれば、そうでない日もあった。
彼の家庭の問題は、簡単に片づくものでは
なかった。
私は、彼の話を聞くことはあっても、彼の代わりに答えを出すことはできなかった。
そして、彼もまた、自分の人生に向き合っていた。
私はその間、自分の生活を少しずつ整えていった。
新しい仕事について考え、家族と相談し、
できることから始めた。
以前の私なら、彼から連絡が来ないだけで、
何も手につかなくなっていたかもしれない。
だけど今は、寂しい日があっても、次の日にはまた前を向けるようになっていた。
彼を忘れたわけじゃない。
好きな気持ちがなくなったわけでもない。
ただ、彼を好きな自分も、自分の人生を生きる自分も、どちらも大切にしたかった。
そんなある日、彼から連絡が来た。
『話したいことがある』
その文字を見た瞬間、胸が高鳴った。
また、何かが変わるのだろうか。
私は、以前より落ち着いた気持ちで返事をした。
『うん。会って話そう』
約束の日。
待ち合わせ場所に着くと、彼は先に来ていた。
私に気づくと、いつものように手を上げた。
その仕草を見ただけで、懐かしい気持ちになった。
「久しぶり」
「久しぶりです」
ふたりで歩きながら、近況を話した。
少し緊張していたけれど、やっぱり彼と話すと自然に笑えた。
そして、彼は足を止めた。
「ちゃんと伝えたいことがある」
私は、彼の顔を見た。
彼は、自分の家庭の問題について、ひとつずつ話してくれた。
長い話し合いを続けてきたこと。
簡単には決められなかったこと。
そして、ようやく自分の人生をどうするのか、
結論を出したこと。
彼は、私に伝えた。
「自分の問題から逃げずに、ちゃんと向き合うことにした」
それは、私に何かを約束するための言葉では
なかった。
彼自身が、自分の人生に責任を持つための
言葉だった。
私は、静かにうなずいた。
「そっか……。話してくれてありがとう」
本当は、いろいろなことを聞きたかった。
これからどうなるのか。
私たちはどうなるのか。
でも、その場で答えを急がなくてもいいと思った。
彼が自分の人生に向き合うこと。
私も、自分の人生を大切にすること。
まずは、それが必要だったから。
帰り道、彼がふと言った。
「前より、なんか変わったね」
「そうですか?」
「うん。前より、自分の気持ちをちゃんと
言えるようになった気がする」
私は笑った。
「いろいろあったからね」
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#年の差
水無月 京
624
おむすび
5,220
彼も笑った。
その笑顔を見て、私は思った。
あの日、彼から連絡が来なくなったとき。
私は、もう二度と彼に会えないと思った。
自分の世界から、大切な人が突然いなくなってしまったと思った。
でも、あの時間があったからこそ、私は
自分自身と向き合うことができた。
彼を好きな気持ちだけでは、どうにもならないことがある。
それでも、自分の気持ちまで否定する必要はない。
私は、そのことを知った。
コメント
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第12話、読んでいて胸がじんわり温かくなりました。特に「彼を好きな気持ちだけでは、どうにもならないことがある。それでも、自分の気持ちまで否定する必要はない」という一行が響きました。お互いが自分の人生と真正面から向き合った上で、もう一度「会って話そう」と選び直す――その積み重ねに、大人の恋愛のリアルさを感じます。久しぶりに会って自然に笑える空気感、そして「前より変わったね」という彼の一言が、二人の成長を静かに照らしていて素敵でした。続きが気になります!