「実は私も偉そうに言えないのよね、拓哉と付き合う前はとても女癖の悪い人と婚約までしていたわ 」
「本当?信じられないわ」
彼女は微笑んで言った
「こればっかりは法律や教科書など参考になるものはなくてね・・・あの時ほど無力感や屈辱を味わったことないわ、でも友人の助けやカウンセリングなどを、受けて人をより良く知るようになったの、あなたもうちの事務所の心理カウンセリングを受けるといいわよ」
「そうね・・・・・ 」
私もハルの方に体を寄せた、三人でハルを挟んで川の字になってリビングに寝っ転がるのはとても気分がよかった
「赤ちゃんって・・・α波でてるわよね」
「本当に」
俊哉のあの横暴さはどんなに彼を愛しても、どんなに彼の言う事を聞いて努力しても治ることはないと思っていたけど障害だと聞かされるとなぜかスッキリした
ハルの頭に鼻をこすりつけるとミルクとベビーシャンプーの良い香りがした
こんなに純粋無垢で天使のような赤ちゃん・・・
他人を信用しきって自分の体を投げ出している・・
もしも俊哉だったら
こんなか弱い生き物をどうするだろう・・・・
応えはハッキリしていた
私はもう二度と誰かに怒鳴られたり、殴られたり、自分に危害を加えられたりしたくない
一方が力にものを言わせ、一方がただ従うだけの関係なんて愛と呼べるはずがない
「実は・・・あんまり時間がないのよね・・・」
弘美さんが大きな肌掛け布団を持ってきて、そっとハルと私に掛けてくれたそして真剣な面持ちで言う
「時間って?」
私は眠たげに聞いた、本当にハルを見ていると睡魔に襲われる
「実は私達はあなたが彼の家から逃げ出してから、彼の行動をずっと調査していたんだけど、この数週間あなたの実家にずっと無言電話がかかっているの」
私は冷やりと血の気が引いていくのを感じた、きっと私が逃げ出したことは彼の想定外だったはず
「それで?」
聞きたくはなかったけど、もう向き合う時期だった、私は彼女の言葉の続きを待った
「そして3日前にあの男からあなたの捜索願いが出ているのよ、彼は善良な夫の仮面をかぶってあなたは何か、事件に巻き込まれてしまったと、警察の前でポロポロ涙を流したそうよ悲劇の主人公になりきっていたみたいだわ」
さらに弘美さんが言った
「私は病院であなたの姿を一目見た時から、あなたを守るために最大の準備はしてきたわ・・・・でも・・・決めて戦うのはあなたよ鈴ちゃん」
ハルを挟んで握りしめられた手は
とても温かく・・・・
これほど心強い手はなかった
今まさに・・・・・
大切だと思っていた俊哉への愛が波に打たれて崩れかけていた砂の城のように、最後の波にさらわれて・・・・
綺麗に跡形もなく消え失せた
私は一滴涙を流してこう言った
「離婚するわ・・・」
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