コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「アハハハハッ! 第二王女なんかが城に攻め寄せて来るだなんて、身の程を知れ! ですこと」
シーフェル王国第一王女は優勢な場に身を置いている。第二王女とその騎士アルビン。そして呼びかけで集まった義勇兵数百弱。彼の者らは市街地を占拠。だが、城守する数千の兵士と近衛騎士によって決め手となる攻城が出来ずに攻めあぐねていた。
「――はぁぁっ、力が足りないですわね……」
「そう言うな。教会に隠れていた王子が呼びかけをしてくれなければ、さらに苦戦を強いられていた所だぞ?」
「そのリエンス王子はどこへ?」
「……あ、あぁ、それは……」
今いる義勇兵の多くは、王国の未来に憂いを抱いていた者たちばかり。王子一人だけではどうにもならないという意味でもあった。
「所詮人間の強さには、際限がありきということですわね。あたしだけではどうにもならないこと」
「おいおい、俺も含めてくれよ」
第二王女に成り代わっている水棲王女シーフェルは、放浪騎士アルビンの協力で王国を奪う算段を立てていた。しかし力を失った体では圧倒的に不利な状況なのは明白。さすがの彼女も、突破口を見いだせなくなるほどの苦しみを味わっていた。
疲れ果てていた彼女たちを嘲笑うかのように、第一王女の命令により多勢の兵士が向かって来ようとしている。
「何故あたしが人間なんかの為に……損な役回りですわね」
「……ふ、俺も関係の無い王国の為に終えるかと思うと気が重い」
「そういえばあなた、勇者の敵討ちであたしと接触をしたのではなくて?」
貴族騎士アルビンは、かつての勇者グルートの兄。彼女やアックに近づいたのは、元を正せば弟の為でもあった。
「いや、弟のことなど今やどうでもいい。そうではなく、勇者が生み出していった化け物をだな……」
「あら、そうでしたのね。それなら、こんな所にいるよりもアックさまを探しに行く方が賢いのではなくて?」
「今さら退けるのか?」
「……そうですわね。せめて水魔法が使えれば……なんて無駄な思いですわ」
体力と気力を失い、果てる覚悟を決めたその時。王城と市街地に押し寄せていた兵たちが全て姿を消していたことに気付く。
「な、何だあれは!? 黒い翼に、禍々しき気配。まさか!?」
「デーモン族ですわね。何故こんな王国に……」
「よ、よく分からぬが、兵士の姿が消え城の様子もおかしい。行くぞ、王女!」
王国の滅亡を知らせる為なのか、あるいは死神か。アルビンは興奮を隠せずにはいられない。
「どこへ?」
「城に決まっている。もちろん、王子も連れて行く! 俺の考えが合っていれば城はもぬけの殻だ」
「分かったわ。それにしてもデーモン族……まさか、あの方が――?」
兵士どころか民の姿も消え、城へはすんなりと入ることが出来た。シーフェル王女とアルビンは、勢いのまま城の内部に突っ込む。呆然としていたリエンス王子も王の間に来て初めて正気を取り戻す。
「そんな、第一王女の彼女もいなくなった? どうして、何故……」
「デーモンの仕業だけでは無さそうだな。だが、人間は一瞬で消えたりしない。一体どうなっているのか」
「ふふっ、丁度いいことだわ。リエンス、王の間にたどり着いたあなたが帝位につけばいいのではなくて?」
「ぼ、僕が? それなら、第二王女のあなたがなるべきで……」
未だ自信の無い表情を見せるリエンスに対し、
「お断りするわ。あたしは戻る場所があるもの」
「リエンス王子よ、すでに気付いていたかと思うが全てを聞くか?」
「……はい」
第二王女エドラ。今の王女は成り代わり……。リエンス王子はアルビンの話を黙って聞き続けた。
そして、
「王国を残すもよし、廃城とするもお前の判断に委ねる。俺たちは行かねばならぬ」
「……今しばらく、ここに留まり考えます。デーモン族が上空に留まっている間は襲っても来ないようですから。シーフェル王女、いえ……ミルシェさん。また会えますか?」
「そう願いますわ」
「リエンス王子。騎士をここへ集わせ、守らせることを約束しよう! 俺はここに少し残る。彼女だけ先に行かせてやれ」
「お元気で、ミルシェさん」
「あなたも。王子……いえ、陛下」
シーフェル王国に突如現れたデーモン族。
消えた第一王女と多勢の兵士。第二王女として成り代わっていた水棲王女ミルシェの役目は、一応の終わりを告げ、彼女は仲間を待つため、あの場所を目指す。