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夕方、お屋敷に戻るとエミリアさんも戻ってきたところだった。
「アイナさん、お帰りなさい!」
「エミリアさんも、お帰りなさい。
……本、凄いですね」
「大聖堂から7冊ほど借りてきたんですよー。
本当ならもっと持ってきたかったのですが、図書館からは本を持ち出せなくて」
「ふむ……。
それにしても、何だか難しそうな本ばかりですね」
タイトルを見れば、光魔法やルーンセラフィス教に関する本が多かった。
そしてその1冊1冊が、何やら重厚な雰囲気を漂わせている。
「分かりますか? 今まで少し避けてきた本を選んできたんですよ。
理解するのに時間が掛かるので、今回はちょうど良いかなって」
「なるほど。それでは私も、ぐっすりいくことにしましょう」
「いやいや! 早く起きてくださいよ!」
「あはは、冗談ですよ!
……それじゃ、今晩からお願いしても良いですか?」
「はい……っ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食後、自分の部屋で一人最後の確認をする。
使うかは分からないけど、しんどいとき用のポーション類も一応出しておいて……。
回復系とか、睡眠系とか、痛み止めとか。それくらいあれば、とりあえずは大丈夫かな?
汗なんかも凄いだろうから、タオル類も数日分は用意しておいて……。
さすがに1年分を準備しておくわけにもいかないし、これ以上はエミリアさんに補充してもらうことにしよう。
……とは言っても、1年も寝込むって決まったわけじゃないんだけどね。
私の予想では、1週間から1か月……くらいだとは思うんだけど。
せっかく王都の暮らしにも慣れてきたところだし、あまり時間は掛けたくない。
でも、こればかりはどうしようもないから、せめて出来るだけ早く目覚められることを祈っておこう。
トントントン
不意に、ノックの音が聞こえてきた。
「はーい、どうぞー」
返事のあと、部屋に入ってきたのはエミリアさんだった。
「やってますかー?
わたしもそろそろ、お引越しをしても良いですか?」
「え? 引っ越し?」
「ベッドとかテーブルを、こっちに持ってきたいんです!」
「むむむ?」
「付きっきりの看護体制ですよ!
疫病のときとは違って、今回は移るものはありませんから!」
「な、なるほど……? それはありがたいんですけど――」
そう言いながら、部屋の中を見渡す。
お屋敷をもらってから増えた物は特にないし、見られて困るものもないし……まぁ良いか。
エミリアさんは私の視線に気付いたのか、想像外の方向から話を繋げてきた。
「アイナさんのお部屋って、飾りっ気が少し足りないですよね!」
「そ、そうですか……?」
……まぁ、実際に無いんだけど。
「せっかくですし、少しくらい飾りましょう!
お店の方からガルルンを少し持ってきて……あとはあれ! アイナさんの、服のコレクションでも出しておきましょう!」
「えぇ……?
ガルルンはまだ分かるんですけど、何で服まで……?」
「可愛らしさの補充……? ほら、この前作った白兎堂の服!
アイナさんの看護をしながら、あの服に癒されたいです!」
「エミリアさんは、ああいうのが好きですからね……。
そういえばエミリアさんの服ができるのって、あと1週間くらいでしたっけ?
私に構わず、取りに行っても大丈夫ですからね」
「んー、そうですね。
アイナさんがすやすや寝ているようでしたら、お言葉に甘えましょう!」
「何なら受け取ったあと、普通に着ていても大丈夫ですよ」
「む……。
わたし一人であんな服を着ていたら、メイドさんたちに変に思われそう……」
「た、確かに……。
でも私が一緒だとしても、二人揃って変に思われるだけかも……?」
「そこはあれですね、『女は度胸』ってやつで……!」
元の世界では『男は度胸』だったような気もするけど……こっちでは違うのか、あるいはエミリアさんがボケているのか。
いや、とりあえずどっちでも良いし、ここはスルーしておくことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エミリアさんのベッドやテーブルの移動は、私のアイテムボックスであっさりと終了した。
引っ越し屋をやるなら、かなり便利なスキルだよね。きっと時給も上がることだろう。
そして今、私の部屋は――
……エミリアさんの提案を踏まえて、お店の方から持ってきたガルルンたちと、何故か飾られることになった私の服たちで彩られていた。
「服を飾るのって、微妙じゃないですかね……?」
「そうですか?
それなら服は、あれ以外はしまっても大丈夫ですよ!」
あれ……というのは、白兎堂で作ったアリス服のことだ。
「好きですねぇ……。
でも私としても、あれは着るというより観賞用に近いかもしれませんね」
そう言いながら、アリス服以外の服をアイテムボックスにしまっていく。
「それではアイナさんが寝込んでいる間、わたしはお勉強をしながら金庫の番人をしていましょう。
ばっちり任せてください!」
エミリアさんは傍らの小さな金庫をポンと叩いて、笑いながら言った。
金庫の中には錬金術師ギルドで受け取った、貸し付けを証明する12枚の証書が入っている。
「大変なことを任せてすいません。
証書がここにあるのは誰も知らないので、誰にも話さなければ大丈夫のはずです……!」
「はい! 特に誰に言うものでもありませんし、頑張ります!」
「……さて。
それではそろそろ……」
「元気に戻ってきてくださいね!」
「頑張ります!」
エミリアさんの応援を受けて、まずは杖を手に取る。
『安寧・迷踏の魔石』がセットされていることを確認してから――
……『英知接続』!!
作りたいものは――神器の剣!!
名称未定、光属性付与、光の加護付与、素体は『なんちゃって神器』の剣!!
付与効果は――
①超斬撃
②斬撃力変化
③全種族攻撃UP
④全攻撃補正
⑤全防御補正
⑥状態異常耐性UP
⑦HP・疲労回復
⑧装備限定――
――……って、あれ? 私の神器って、装備できるのを『英雄』に限定する必要ってあったっけ……?
ちょっとここは、うん、少しだけ変えておいて――
――条件設定、終了!
そしてその条件を『創造才覚<錬金術>』に流して――
……ミシィッ!!!!
身体のどこかから、軋みのような音が聞こえてきた。
どこか、から? いや、身体全体というか――
……そう思った瞬間、凄まじく強烈な頭痛に襲われた。
そして続け様に、身体の感覚をすべて奪われるような喪失感が現れた。
視界の全てが真っ暗になり、周りの音がすべて消え失せていく。
唯一感じられるのは、周囲の空気が突然水になったような……圧迫感のような、重圧感のような、そんな息苦しさのみ。
ああー、さすがにこれくらいの反動は来ちゃうのかぁ……。
前に神器を作った人も、こうだったのかなぁ……。
何だかもう、早速死にそうなんですけどぉ……。
――その辺りで確か、私の意識は途絶えたのだと思う。