コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ピアーニャとイディアゼッターが上空に向かってから、パフィ達は特に何もやる事が無く、ただただマッタリしていた。
「話長いのよー」
「まぁ偉い人みたいだし、色々あるんでしょ」
「もっと長く話してこいなのよー」
「延長希望なんだ……その間ずっとアリエッタちゃんをお触りしてるつもり?」
「当たり前なのよ。すべすべぷにぷになのよ」
「………………」
「ちょっと羨ましいって思ったでしょ」
「思ったリム」
「どっちかと言うと……アリエッタちゃんも大変だなぁって」
「?」
キュロゼーラを調理して精神的に参っていたパフィは、アリエッタにベッタリである。起こさないようにしているが、ちょっと手つきがいやらしい。
外は暗くなってきたが、寝るにはまだ早い時間。それに、バルドルからも「明日から少し忙しくなるから休んでおけ」と、小屋に籠る前に言われている。
キュロゼーラからの情報収集は他のシーカー達がやっていて、指示を出すピアーニャも今はいないので、とにかく暇なのだ。
「ところで、一応聞くけど、アリエッタちゃんって本当に女の子だよね?」
「? もちろんなのよ。一緒にお風呂にも入っているのよ。こんなに可愛いんだから、女の子に決まってるのよ」
「ムームーも一緒に入る? アリエッタが恥ずかしがってて可愛いわよ」
「ううん、そこまでしなくていいから。そっかー可愛いねー」
アリエッタの性別について疑問を持ったムームーは、それ以上何も言わず、アリエッタの頭を軽く撫でた。
何故そんな質問をしたのか不思議に思ったミューゼが、何かを聞こうとしたその時、上から叫び声が聞こえ、物凄い勢いで近づいてくる事に4人が気付いた。
「ぉぉぉぉおおおおおっ!」
「何事リムかっ!」
「この声さっきの?」
「ゼッちゃん!?」
屋根に空いた穴の方を見ると、怒りの形相で急降下してくるイディアゼッターが見えた。
そのまま着地…ではなく、人と同じ高さにふわりと止まった。そのまま4つの手を構え、寝ているアリエッタを睨みつける。
「おのれっ、おのれえええ」
その目に涙を浮かべながら、憎悪を漲らせ、黒いオーラを放出。
「成敗じゃあああああ!!」
4つの掌で空間を歪ませ、何かをしようとした時、上から大きな雲が落ちてきて、イディアゼッターを包み込んだ……というより掴んだ。ピアーニャの『雲塊』である。
「だからおちつけゼッちゃん! そいつチガウから!」
「離してくだされ! 野菜だけは、野菜女だけはああああ!!」
そのまま再び上空へと引き上げられていった。ミューゼ達4人は展開についていけず、茫然と佇んでいる。アリエッタはパフィの柔らかい枕で耳を包まれていた為、安らかに寝息を立てている。時々頭を撫でられていたからか、とても幸せそうである。
「……野菜女って何」
「パフィの事かな?」
「料理してるから間違ってはいないのよ?」
しばらく首を傾げながら空を見ていると、今度はゆっくりと雲が降りてきた。そして、
「申し訳ございません、取り乱しました」
「いやどーゆー取り乱し方ですか」
「一体、天空で何が行われていたリムか……」
初対面時よりもさらに腰が低くなったイディアゼッターが、豪華なお菓子をミューゼに差し出しながら謝ってきた。
「いやそんなベッタリ潰れなくても……」
……腰どころか全身が低くなっていた。ピアーニャも後ろで呆れている。
荒れ狂うイディアゼッターをどうやって大人しくさせたのか気になるムームーだったが、あまりの豹変っぷりにちょっと怖くなって聞くのを止めていた。
「やれやれ……とりあえずこれからは、ゼッちゃんがチョウサにくわわることになった。テンイのトウのケンチクをてつだってくれるらしい」
「へぇ、アレを創った人が手伝ってくれるなら、心強いですね」
「そういうワケだから、わちはこれからバルドルにセツメイしにいく。オマエたちは、きょうはもうジユウにしてくれていいぞ」
『はーい』
ピアーニャはイディアゼッターをつれて小屋から出て行った。
続いてムームーも、他のシーカー達の仕事を手伝いに行くと言い、シーカーの勉強がしたいラッチを連れて、小屋から出て行った。
「パフィはどうするの?」
「私はアリエッタと一緒に過ごすのよ」
「じゃああたしは……」
こうして、全員が好き勝手に動き始めるのだった。
ピアーニャはイディアゼッターの正体を、ミューゼ達に教えていない。理由はアリエッタの正体を明かしていないのと同じで、神が身近にいる事が広まると、政治や軍事で利用しようとする者が現れるだろうという事が、容易に想像出来てしまうからである。
そこまで考えて、曾祖父がイディアゼッターの正体を自分に伝えなかった理由も同じではないかと考え、殴る予定をキャンセルした。
「そんなわけだから、ゼッちゃんのコトは、アリエッタのコトをしっているナカマと、わちのカゾクにだけおしえる。それでいいか?」
「ええ、いいですとも。ワシとしても目立って崇められるのは、本意ではありませんから」
アリエッタの事を知っているのは、ネフテリアとその両親、そしてドルネフィラー。
(エインデルにカミがらみのコッカキミツがふえていくなぁ。ドルネフィラーはしかたないとして……ん?)
同じ神であるドルネフィラーの事を思い出し、そういえばまだ確認してなかった事がある事に気が付いたピアーニャ。近くにいるキュロゼーラに声をかけた。
「なんでシょう?」
「このリージョンに、あるくキのようなイキモノはいないか? なんかこう……キのねもとにドウブツのカラダがあって、ゆっくりあるくんだが」
質問したのは、ドルネフィラーから出てきた生き物の事である。木の根の部分に亀のような頭と足があり、ゆっくりと歩き回る植物。時々ドルネフィラーがその体を借りて、ハウドラントのピアーニャの実家で、母ルミルテとお茶会をしている。
「いマすよ」
「ほんとうか!?」
「以前どこかカら落ちてきタ生き物でシたが、5000年程前にネマーチェオンが吸収シて融合したといウか……」
「ああ、あのクサみたいにか」
ネマーチェオンの昔の記憶にあったお陰で、情報を得る事が出来た。しかし、
「方向ハ……下の方デすね。あノ雲とやらに乗っテ降りていけバ、数年で割と近くにいけるはずデす」
「あいかわらず、とおいな……まぁいることがわかっただけで、ヨシとするか」
流石に年単位の移動は出来ない。ピアーニャは自力での調査を諦め、キュロゼーラに礼を言った。
「このリージョンひろすぎだろう……」
「ネマーチェオンでしたね、ここは数あるリージョンの中でも特に大きい部類です。それだけに他のリージョンと干渉しやすいので、様子を見に来る事も多いですよ」
歪みの発生率はリージョンの広さに比例するようで、イディアゼッターは何度もここに訪れたことがあるようだ。
「ちなみに、スウジにすると、どれくらいなのだ?」
「難しい質問ですね。今ある数字では、この広さを表す事はできません」
「……まじか」
この次元にも長さを図る数字と単位は存在する。しかし、必要に応じて数値の桁が増やされているので、そこまで広くないハウドラントの雲面積分程度の長さしか単位が無い。
「ちなみにハウドラントとくらべると?」
ハウドラントは平面世界で、大地替わりの雲は円状に広がっており、その直径は約5000ケイメルタ(アリエッタの前世で言う5000km)である。好奇心旺盛で調査好きなハウドラント人が、飛び回って計測したのだ。
ハウドラントの大きさを知っているイディアゼッターは、少し考え、
「直径だけならハウドラント1万個……いやもっとですね。測ったことがないので細かい所まではわかりません」
「……ひろっ」
あまりの桁違いな計算に、ピアーニャは広いとしか言えない語彙力になっていた。
そんな話をしていると、いつの間にかバルドル達の居場所へと到着した。
「お? 総長どうしました。そちらの方は?」
「お初にお目にかかります。ゼッちゃんとお呼びください」
「ゼッちゃん……? えーっと……」
いきなり自己紹介をされたが、明らかにシーカーではないその存在を警戒し、同行しているピアーニャを見るバルドルと、周囲のシーカー達。その視線に応え、ピアーニャが補足をする。
「リージョンシーカーのソウリツシャのひとりで、テンイのトウのセッケイシャだ。こんかいのトウのセッチに、チカラをかしてくれるそうだ」
「微力ながら、お手伝いをさせていただきます」
『……はああええええええ!?』
スケールの大きな補足と腰の低い態度が一致せず、一瞬考えた。が、理解と同時にその場のシーカー全員が叫んでいた。
「いつも塔を安全に有効活用していただき、ありがとうございます」
「ああいえ、こちらこそ……その、素晴らしき物を御作られていただき……まことにお礼を申し上げたく候……」
イディアゼッターの腰の低さに釣られたのか、バルドルが慣れない感じで丁寧な言葉を使おうとして、色々とおかしくなっている。もちろん周囲のシーカー達は笑い、後で殴られるまでがセットである。
塔を建てる場所も、どこに行っても巨大な木でしかないのならば、もうこの場所でいいだろうと判断され、見える範囲で見つかった広い場所を使う事になった。
「ところで建材が見当たりませんが……」
「ああ、それならかんがえがあってな。いったんコヤにもどるとしよう」
「そうですか、わかりました」
話を終え、小屋へと戻ってきたピアーニャ達。中に入ると、驚くべき光景が目に入ってきた。
小屋の一部を埋め尽くす大きな物体。それはラスィーテで悪夢にうなされる事になった、ミューゼ作の天蓋付きベッドである。あの時とは違い、無数の蔦が天井から垂れ下がり、カーテンとなっている。
「な、なんで……ミューゼオラ?」
うろたえるピアーニャ。隣ではイディアゼッターが感心している。
その時、ベッドから声が聞こえてきた。
「んあ……あぁん」
「うふふ、ここがいいのよ?」
「あたしもしてあげる。ほらほら」
「め、めぇ。みゅーぜぇ……ぱひぃ……」
「そんな切ない声だしちゃって。かわいいなぁもう」
「顔が蕩けちゃってるのよ。私もう我慢出来なくなっちゃうのよ~♡」
これ以上は良くないと判断したピアーニャが、『雲塊』を大きくしながら全力で突撃した。
「なに、やってん、だあああああああ!!」
どごおおおおおんっ
『ぎゃああああ!!』
頭を撫でられ蕩けまくっていたアリエッタと、添い寝しながらその頭を撫でまわしていたミューゼとパフィは、ベッドごとまとめてぶっ飛ばされたのだった。