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スーパーで飲み物やアイス、おやつを買った私たちは、ホテルに戻って一旦休憩する事にした。
せっかく四人で旅行に来たのに、二人ずつでダラダラするのも何なので、シャワーを浴びたあとに合流する事になった。
「あ~……、クーラー浴びながら冷たいジュース飲むの、サイコー!」
「無駄に広い部屋と思ったけど、四人で集まるなら丁度いいのかもね」
恵もソファに座り、よく分からない味のスナック菓子を食べつつ言う。
「尊さんと涼さんが二人で旅行していた時って、どんな感じでした?」
私が尋ねると、彼らは顔を見合わせる。
「どうって……、もっとカジュアルな感じだったよな?」
「うん、カジュアルっていうか、テキトーね。髭も剃らずにほっつき歩くとか、ざらだったし」
「えー、想像できない……」
思わず言うと、涼さんは苦笑いする。
「そりゃあ、女子と一緒の旅行ならちゃんとするよ」
「涼さんって、外国人相手でもコミュ力爆発させてそう」
恵が言うと、尊さんはうんざりした顔で言った。
「こいつ、マジで凄いよ。いや、俺も一人旅の時はバーとかで気軽に話しかけたりしてたけど、こいつはそれ以上。なんか魂が大阪のおばちゃんなんだよな」
「ぶふっ」
私と恵は同時にジュースに噎せた。
物凄い美形で、女性が見たらほとんどの人が目をハートにする人なのに、なぜか納得してしまうからだ。
「姉と妹に挟まれると〝気が利く男〟に育つし、社交性も培われるよ。弟は俺の生き様を見て、失敗しないように学ぶタイプ」
「涼さんのお姉さんと妹さん、そんなに強いんですか?」
恵が怯えて尋ねると、彼は首を竦める。
「いやー、恵ちゃんが想像してるような感じではないと思うけど、圧はあるよ。品が良くて人を嫌な気持ちにさせない人だけど、圧がある」
「はぁ……」
「一緒に暮らしてた時は、登校前に毎朝言われるんだ。『今日の私は昨日の私と、どう違うでしょうか?』って。常に美容に気を遣ってる人だけど、大学生になっておおっぴらに化粧して良くなったら、あれこれすっごい拘り始めてね。昨日はアイシャドウがどこのブランドの何番だったけど、今日は別のブランドとか、昨日はどこのブランドの何番だったけど、今日は微妙に違う何番とか……。そういうのに付き合ってたから、否が応でも女子のメイクに詳しくなったよね……」
「涼さんのお姉さんと、話が合いそうだけど、私より知識がありそうで恐い……」
思わず呟くと、恵に肩をポンと叩かれた。
「私なんてコスメの知識まったくないから、始めて火を発見した原人戦法でいこうと思ってるよ」
「なーん、私の知る限り、色々教えてるじゃーん」
トリャトリャと恵をつつくけれど、彼女は難しい顔をしたままだ。
「どうしよう……。出会った瞬間『どのブランドのアイシャドウをつけてるか分かる? とか、何の香水つけてるでしょう?』クイズが出たら……。一発で叩き出される」
「そんな事しないから、安心してよ。あれは一種の弟いじめだったから。ま、いじめというより、じゃれだね。基本的にうち、兄弟喧嘩はしないし」
涼さんに言われ、恵は少し安心したように肩を下げる。
「それならいいんですが……。でも、三日月家の嫁になるには、利きお茶とか、利きワインをできないと駄目とか、なんなら香道とか、華道、お琴、お花、習字に刺繍、|長刀《なぎなた》、|流鏑馬《やぶさめ》……」
「待って? 恵ちゃん、武士の娘?」
涼さんが目を丸くして突っ込みを入れ、私はすかさずフォローを入れる。
「多分、出された物を何でも『美味しいです!』って言ってれば大丈夫だよ」
「…………涼さんも朱里も、ちょっと黙ってて……」
とうとう恵は両手で頭を抱え、難しい顔をしてしまった。
「中村さん、涼の家族にビビる気持ちは分かるけど、そう緊張しなくていいと思うよ。俺は何回も会った事あるけど、みんな凄くいい人だ。むしろ、事情がありすぎる俺の家族をクリアした朱里の言う事が、結構真理なんだよな」
尊さんの言葉を聞き、私は自分を指さす。
「怜香みたいな意図的に悪意をぶつける奴はともかく、普通の感覚のご家族なら、出された物を『美味しい』って食べて、ニコニコしてりゃなんとかなる。それに涼と中村さんが結婚する訳だし、馴れそめは聞かれるとしても、色んな事を根掘り葉掘り聞く事はねぇだろ。明らかに行き過ぎた質問や話題は、涼がストップしてくれるはずだ」
「それは任せて! 絶対恵ちゃんを守るから。信頼と安心の三日月です」
涼さんが最後に付け加えた言葉を聞き、彼女は「……胡散臭い……」と呟いて、体育座りをした膝の上に顔を伏せてしまった。
「天岩戸になっちゃった」
私はトントンと恵の腕をノックし、「もしもーし」と声を掛ける。