【nb】
さっくんが構ってくれない。
せっかく2人でいるのに、録り溜めたアニメを見るとか言って、もう1時間が経とうとしている。
「さっくん」
「ごめん、もうすぐ終わるから」
名前を呼んでも振り返ってさえくれない。
…もう帰っちゃおうかな。
そしたらごめんって引き留めてぎゅってしてくれるかな。
「翔太」
そんな考えを見透かされたように急に名前を呼ばれる。
不貞腐れた声でなに、と返すとやっと振り向いてくれた。
「くっついてていいから、もうちょっと待ってて」
おいで、と手招きされたけど、それで機嫌が治ると思われてんの?
心外だよ…全然俺のこと分かってないじゃん。
そんな簡単に絆されないから!
俺は怒ってるんだぞってそっぽを向くと、ふはっと笑ってまた背中を向けられてしまった。
なんで!!
負けるもんかと俺も後ろを向いてダイニングチェアに座って、スマホをいじる。
時々さっくんが声を漏らす度に俺はちらっと振り返っているのに、あっちは俺の様子を気にする素振りもない。
さすがに悲しくなって項垂れる。
「翔太、俺背中寂しくなってきちゃった」
バッと顔を上げる。
さっくんの方を見ると、ずりずりとソファの上で動いて自分の背中の後ろを空けていた。
そっか、さっくんが寂しいんなら仕方ないな。
にやつきそうになる顔をなんとか堪えてさっくんの元へ向かう。
無言のまま後ろに回り込んで座ると、すぐに俺に体を預けてきた。
子供みたいにあったかい体温にほっとする。
後ろから抱き締めるとふふっと嬉しそうに笑う声が聞こえて、さっきまでの寂しさが一瞬でどこかに行ってしまった。
幸せを噛みしめてうとうとし始めた頃、さっくんが急に立ち上がった。
「よしっ、終わった!お風呂入って寝よ!」
「なんで!やっといちゃいちゃできたのに!」
「翔太がなかなか来なかったからでしょ」
何も言い返せない。
変な意地なんて張らなきゃよかった。
でもそもそもは構ってくれなかったさっくんが悪いわけで…
納得がいかなくて、俺も立ち上がってもう一度抱き締める。
「もー動きづらいじゃん」
「やだ、このまま行く」
「一緒にお風呂入るの?」
うんっと力強く頷く。
「あまえんぼだなー」
「さっくんが悪い」
はいはい、と流しつつも嬉しそうに笑ってくれる。
今は笑ってるけど本当に朝まで離れないから!
アニメにばっかり夢中になってたら恋人が面倒くさくなっちゃうってこと今日で覚えてね。
「俺に寂しい思いさせたら許さないから」
「翔太さみしんぼなのにハードル高くない?」
普段からハードル上げといてよ。
さっくんは俺だけ見て俺の機嫌だけ伺っとけばいいの。
ケラケラ笑うさっくんに更に強くしがみついて、お風呂に向かおうとする足を無理矢理寝室に向ける。
もー!とぶつくさ言いながらも俺に押されて歩みを進めるさっくんに、愛されてるなって自惚れちゃう。
お風呂は後でゆっくり入ろうね。
着いてこようとするツナシャチにごめんねをして、そっと寝室の扉を閉めた。
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