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MIGI♡SAKU

第8話 - 【💛＋💜】歪

2025年04月19日

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cham

【sk】

今日は照とふっかが一緒の現場にいるらしく、仕事が終わったら３人で飲もうとふっかから誘われた。

俺にとって気掛かりなメンツではあったけど、照が行くなら断ることはできない。

俺も今日は個人の仕事があったから、少し遅れて店に着いて、案内された個室の部屋の扉を開けた。

「おつかれー」

先に２人で飲んでいるものと思っていたのに、そこに照の姿はなく、呑気に挨拶をするふっかが俺に向かって手招きをしていた。

「…照は？」

「来ないよ」

不気味なほど綺麗な笑顔を向けるふっか。

嫌な予感がして、今すぐここから離れないといけない気がした。

「…帰る」

目を逸らして部屋を後にしようとしたが、ふっかの一言で体ごと固まって動けなくなる。

「照と付き合ってるの？」

冷静な声。

なんの感情もこもっていないただの問いかけ。

ただそれだけなのに、答えに詰まって何も返すことができない。

「そうなんだ？」

「…だとしてもお前には関係ない」

やっと出た声は震えてしまって、きゅっと唇を噛む。

振り返ることもできないまま俯いていると、背後からははっと乾いた笑い声が聞こえた。

「同じメンバーなのに関係ないはひどくない？」

なんでこの状況で笑ってられんの？

こいつの考えていることが全然分からない。

「あ、違うか。メンバー以上の関係なのに…かな？」

「深澤！」

その続きを言わせないように大声で名前を呼んで振り返る。

「今更蒸し返してどういうつもりだよ」

「佐久間が一方的に終わらせたつもりでいるだけでしょ？俺は認めてないし」

デビューするよりもっと前、俺はふっかと付き合っていた。

期間で言えば１年にも満たなかったけれど、どうしようもないほどこいつが好きで、何度傷付けられても好きでいることをやめられなかった。

「あれだけ俺のこと裏切っといて何言ってんの？」

「俺は裏切ったつもりなんてないよ」

「その価値観が違う時点で無理なんだよ」

何度も繰り返された浮気。

その度に好きなのは俺だけだと言われて言いくるめられてきた。

裏切りの回数を数えることも諦めた頃、どれだけふっかのことが好きでも、一緒いたら幸せにはなれないと見切りをつけた。

縋りつかれることもなく簡単に切れた関係に、自分で決めたことなのに惨めで悲しくて、やっぱりその程度だったのかと涙が涸れるまで泣いた。

もう誰も好きにならない、誰にも何も求めないとまで思い詰めていた俺がやっと前を向けたのに、今になって認めてないなんてどの口が言ってんだよ。

「佐久間は俺のことなんにも知らないから」

「は？」

「ううん、佐久間はそのままでいてよ」

本当に何を言いたいのか分からない。

いつも大事なことは自分の中で勝手に完結させて、俺には何も共有してくれないところがすごく嫌だった。

「分かり合えなくても、想い合うことはできるよね？」

「…お前じゃ無理」

さっきから全然噛み合わない会話が気持ち悪い。

何を言っても煙に巻かれて、俺の思考を鈍らせてくるのはこいつのいつものやり口。

でも、これだけは間違いなく言える。

いくら俺が想ったって同じものは返してくれないのに、想い合うなんて馬鹿みたいな話あるわけがない。

「照なら佐久間のこと幸せにしてくれるって？」

こくりと頷く。

「じゃあ照のことは誰が幸せにしてあげるの？」

「…何が言いたいんだよ」

ふっかが言おうとしていること。

その先を聞いちゃいけないのに、返す言葉がなくて聞き返してしまった。

俺が幸せにするってすぐに口に出せなかったことさえ見透かされているようなふっかの目に背筋が冷える。

「気持ちがないのに、佐久間の幸せのために利用されて照が可哀想だなって」

「ちゃんと好きだから！」

「“ちゃんと”ってなに？」

自分で自分を納得させるためにそう言わないと不安なんでしょ？

何も言われていないのに、そう言われている気がした。

「お前が俺達のことに口出す権利なんてない」

「ほんと馬鹿だね、それともわざと？」

おもむろに立ち上がったふっかが俺に向かって歩みを進める。

「こっち来んな」

「嫌なら逃げれば？」

逃げ出したいのに体が動かない。

戸惑っている間に目の前まで来たふっかが俺を見下ろす。

胸が着きそうなほど近い距離に、心臓が壊れそうなほど早く脈を打つ。

「何がしたいんだよお前…」

「俺の目の届く範囲でそんなことしたらこうなるって分かるでしょ？」

そう言って、これ以上ないくらい優しく抱き締められた。

懐かしいふっかの匂いに包まれて胸が苦しくなる。

いつもこうやって抱き締めてくれていた。

大切な宝物を扱うように、壊さないように、多分ふっかなりに大事にしてくれていたんだと思う。

でも、俺が本当に欲しいものは決してくれなかった。

「…離せよ」

「離せば？」

離れたいのに離れられない。

分かっていて俺に選択を委ねる残酷な人。

いつだって俺が振り回されて、何度も傷付けられた。

俺だけを見てくれる照には、そんな思いはさせたくない。

「俺は照を大切にしたい」

「うん」

「照がくれるものと同じものを俺も返したい」

「そうだね」

さっきまでが嘘みたいな優しい声。

ここでちゃんと終わらせないと次へ進めない気がした。

「俺はお前みたいにはならない」

「そうした方がいいよ」

顔は見えないけど、ふふっと笑う声が耳元で聞こえた。

「俺の心は全部佐久間にあげる」

なんだよそれ。

今まで俺が欲しいものは全然くれなかったくせに。

「だから、俺の分まで幸せにならなきゃ駄目だよ」

俺が昔諦めたみたいに、ふっかも諦めようとしているのかもしれない。

ふっかは俺のことそこまで好きじゃないと思っていたけどそうじゃなかったの？

「…ふっかは？」

「俺はこのままでいーの」

ぎゅっと強く抱き締められてから、そっと体を離された。

やっと解放されたことにほっとして顔を上げた瞬間、全身が硬直して寒気が走る。

至近距離で俺を見つめるその表情は、俺が想像していたものとは全く違うものだった。

固まったまま動けずにいると、綺麗な手がふわりと俺の頬を包んだ。

さくちゃん、と懐かしい呼び方で俺の名前を呼ぶ優しい声。

「幸せになってね」

その言葉にそぐわない感情の読み取れない真っ黒な瞳。

口元は微笑んでいるけど、優しい声や手付きとは裏腹な冷たい視線に今日一番の恐怖を感じた。

何も言えずにその瞳を見つめていると、にっこりと笑ったふっかの顔が近付いてきた。

ひとつも抵抗できないまま、ちゅ、と静かな音を立てて首筋にキスをされる。

「ふかざ…」

「もう帰っていいよ。照は今日のこと何も知らないから多分心配してる」

俺の言葉を遮って背中を押される。

「ごめんね、佐久間があんまりにも警戒するから意地悪したくなっちゃった」

そう言って笑うふっかの瞳には光が戻っていた。

さっきまで見ていたのは夢だったんじゃないかと思うほどいつも通りなふっかに困惑を隠せない。

本当に帰ってもいいのか分からなくなって動けずにいると、扉を開けて部屋の外まで押し出されてしまった。

「ばいばい、さくちゃん」

何故か涙が滲んで視界がぼやける。

伸ばしかけた手はなんとか引っ込めて、かけるべき言葉を探した。

「…ありがとう」

この言葉が合っていたのかは分からない。

扉が閉められる瞬間ふっかはどんな顔をしていた？

笑っていたような気もするし、切ない顔をしていたようにも見えた。

まだ頭はぐちゃぐちゃなままだけど、とにかく今すぐ照に会わなきゃと思った。

ぐらついている今の気持ちを、照の深くて優しい愛情で全部掻き消してほしい。

“利用してる”

さっきふっかに言われた言葉が頭を過る。

確かにそうなのかもしれない。

でも俺には照が必要で、照も俺を必要としてくれてる。

お互いに求め合ってるんだから、これは愛でしょ？

混乱する頭を冷やしたくて１人でひたすら夜の町を歩く。

火照った体を冷ましてくれる冷たい風が気持ちいい。

頭も少しずつクリアになっているのに、キスされた首筋はまだ熱を持っていて、そこだけが焼けるように熱かった。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

首筋へのキス：執着

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