TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する


「へっ?」


突如として発せられた淫猥な雰囲気のする言葉に麗は驚いた。

見つめてくる明彦の瞳が、ゾッとするほど艶っぽくて、麗は頬に血が集まり、赤くなっている気がした。


「な、何で、そないなこと言うん……?」

両手で顔を隠そうとすると、いつの間にかソファから下りていた明彦に両手を捕まれ、顔から剥がされる。

至近距離で、麗の頬だけでなく顔全体が熱くなる。


「それはっ………俺が、麗を……だな」

何となく明彦の顔も赤くなっているように見えた。

「うん」

続きを促すように頷くが明彦は何も言わない。

「麗が、……だからな」

全く中身のない言葉が続くので、やはり結婚の理由は言えないことなのだろう。


会社はどうなるのだろうか?

じっと明彦を見つめていると、ゆっくりと明彦の手が離れ、そのままソファへ戻っていった。


「………………ところで、麗、新婚旅行はどこに行きたい?」

「新婚旅行?」

予想の斜め上から来た明彦の話題に麗は目を丸くした。


「ああ。急な結婚で、ドレスや指輪、それに、俺の家に住むことだって勝手に決めただろ? 慌ただしい思いをさせたし、新婚旅行くらいは好きなところを言っていい。とはいえ、そんなに長くは休めないから、あまり遠くには行けないがな。で、何処に行きたい?」


麗は混乱した。

新婚旅行、ハネムーン、確か坂本龍馬とその妻が日本で初めて行ったやつ。結婚したてのラブラブの二人が寄り添って行く旅行。

(それをアキ兄ちゃんと行くの? 二人で? 政略結婚なのに?)


「私は行かんでええよ。お留守番しとくし、明彦さんは楽しんできて」

明彦の満足するような旅の費用など、麗一人分ですら、逆立ちしても出せない。


麗の給料は安い。本当に安い。

社長令嬢なのだから、ちょっとくらい色をつけてくれてもいいのに、と甘えたことを考えたこともあるレベルだ。

元々父は麗の入社を嫌がっていたので、あり得ないとわかっているが。


「新婚旅行だと言ったろう? 何故一人で行かなければならない。あれか? 俺は一人で観光地で写真を撮り、一人で隣にいない妻の肩を抱き、一人で乾杯をし、一人で誰もいない空間に甘い言葉を囁くのか?」


すかさず麗の脳内で、世界遺産を前にピースをしながら自撮り棒で自撮りをしている明彦や、海を前に右腕を広げ、左手でグラスを傾け、足を組みながら夕焼けの街に向かって、君の瞳に乾杯と口説き文句を言っている明彦の映像が浮かんだ。

明彦の顔が無駄に良いだけに、その間抜けな様子に思わず笑いそうになって、変な咳が出た。


「……っん、いや、そうやなくて。他の誰かと行ってきたらええんちゃうかなー、と思って」

麗は顔の前で手を振り、自分は遠慮すると伝える。


「妻と新婚旅行に行かずに誰と行けと言うんだ」

「えー」

麗は今お付き合いしている人はいないのかと聞きかけ、流石に口をつぐむ。


明彦は父のような不倫男ではない。


「いや、いい。この事に関しては麗が信用できないような生き方をしてきた俺が悪かった」

「生き方が悪いだなんて、そんな大層な」

明彦が女性を取っ替え引っ替えしていることは麗も昔から知っていた。

それも、美人でグラマラスな女性ばかりを。

ただ、それぞれの美女達の期間が被っていたことはなかったはず。

だからこそ、麗は明彦と父を重ねずに懐くことができたのだから。


(ああでもここ数年は、アキ兄ちゃんのカノジョ、紹介されてなかったな……)


「兎に角、新婚旅行は俺と麗で行く。何処がいい? 国内だと温泉地か沖縄のリゾートホテルという手もある。どうせ、パスポートを持っていないだろう?」


明彦の言葉に麗は得意になってフフンと笑った。

「それが、私持ってるねん」


麗は海外に行ったことがないので、それまでパスポートは必要なかった。

だが、いつかアメリカに姉のお世話をしに行きたいと思っていたので、取得しておいたのだ。

確か名字が変わっていても航空券と名前が一致すれば問題なかった筈だ。棚橋に嫁ぐと決まったときに調べた。


「でも、国内の方がええかな。あんまりお金ないし」

「お金があったら何処に行きたいんだ?」


「アメリカ! 絶対、アメリカ! 姉さん、そろそろお味噌汁が恋しくなってるころやと思うねん。作ってあげに行かないと」

喜ぶ姉を想像し、うっとりする麗に明彦が大きなため息をついた。


「……ほかには?」

「せやねー。ヴェネチアに行ってみたいな。姉さんがゴンドラから見る街並みはそれは綺麗やったって言ってたから。それに、バルセロナでサクラダファミリアも見てみたいわ。姉さんが荘厳でありながら緻密で圧倒されたって褒めてたから」


姉は学生時代、高給の塾講師や単価の高い単発のアルバイト、そして明彦と共同で事業を起こして稼ぎ、そのお金で世界各地に旅をしに行っていた。

麗は姉から土産話を聞く事が楽しみで、いつも姉が帰って来るのを今か今かと指折り待っていた。

「あ、そやそや、あとはエジプト。姉さんが……」


「もういい。麗音が関係のないところで行きたいところはないのか?」

明彦が目頭を揉みながら、質問を重ねてくる。


「うーん、なら、台湾かな? こないだテレビで台湾の旅行番組やってて、料理が美味しそうやったから」

芸人と大御所女優とオカマの3人が出演していた旅行番組はタイトルに食い倒れと書かれていただけあり、美味しそうな料理を沢山紹介していた。

麗は芸人が旨い! と唸っていた小籠包が本当に美味しそうに見えたので、記憶に残っていたのだ。


「よし、台湾で決定だ」

「決定? え? 決定っ!?」

政略奪結婚 〜姉の身代わりのはずが、何故かイケメン御曹司に溺愛されています?〜

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

57

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚