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五年生の初夏
それからというもの、辛い日々が続いた。
私は小さな仮面を被る。
私は鏡の前で口角を上げる練習をするようになった。
話を工夫したり、自分が魅力的に映るように振る舞った。
しかし、現状は変わらない。
毎日消耗する日々。
陽キャの扱い方が判らず、陰キャのように振る舞ったり。
やはり、陰キャの私には到底不可能なことであった。
考え方も状況も陽キャとは程遠い。どうすればいいのか。
どうすれば陽キャにみえるのか。
常に陽キャならどう振る舞うかを考えて動いた。
私はずっと陽キャになることに囚われていた。
気づいたら私は好きだった蒼太くんのことなんてとっくに頭の中から抜けていた。
ただ陽キャになることに固執していた。
そんなときに転機が起こる。
まさかただの席替えで運命が変わるだなんてそのときの私には到底わからなかっただろう。
私は窓際の一番後ろの席になった。
そして前の席は…机を蹴ったり、友達に暴力を振るったり、授業中に寝たり、遅刻常習犯で怖いガタイの良い陽キャの男子を泣かせた私からしたらブラックリストにでも載っているような怖い男子だった。
(怖い…近寄りたくない… どうして私がこの人の後ろの席に… )
頭の中でそんな言葉ばかり巡った。
学校生活もう終わりだ。
ネガティブな考えだけが初夏の晴天とは反対に募っていった。
席替えをして少し経った後、この生活にも少しずつ慣れてきた。
彼の椅子はいつも斜めだった。
授業中は相変わらず寝るし、名札のピンを自分の皮膚に差して遊んでいたときはさすがに心配でみていられなかった。
そんな怖くて、おかしな彼から私は何故か視線を逸らすことができなかった。
ある日、運命が変わる。
さくや「今日、薬物乱用教室じゃん。」
授業中、彼が冗談を言う。
ともか「それ薬物乱用しちゃってるじゃん。(笑)」
それにつられて私が笑いながらツッコミをする。
男子とは全く話したことのない私が、よりによってこの人に話しかけてしまった。
ああ、どうして、どうして話しかけてしまったのだろう。
さくや「ぷっ…ははは(笑)」
彼が私のツッコミに笑った。
私はとても驚いた。
彼が、まさか、私の言ったことに笑って返してくれるなんて…。
この瞬間から私は彼のことを受け入れるようになった。
そして、彼もまた私を受け入れた。
授業中ずっと私と彼は冗談を言い合うようになった。
さくや「今日の授業だるくね?」
ともか「めっちゃだるいじゃん!今日の授業中絶対なんかして暇潰そーっと!」
さくや「お前、毎回授業中なんかしてるじゃん。」
ともか「授業中寝てるさくやくんに言われたくないし!」
さくや「最近は寝てねえから!」
時には物を勝手に物色されたり、いたずらされたりと彼は本当に自由奔放だった。
毎日が目まぐるしくて本当に、本当に楽しかった。
消耗した心が浄化されていくようだった。
それから彼は授業中あまり寝ることはなくなり、前よりも随分と人を寄せ付けやすくなったなった。
さくや「雪でスノー(笑)」
ともか「うわ、さっむ…さくやくん、なに言ってるの?(笑)」
先生に叱られてばかりだった彼が、クラスの空気を明るく変えるような冗談でよくみんなを笑わせるようになった。
その眩しさが、
私の理想像の陽キャとは違うけれど、
目指すべき『本物の陽』に見えた。
ある日、いつものように授業中に他愛のないことを話していると彼が不意に黙った。
6秒くらいだろうか、私と彼は見つめ合った。
その時、今まで感じたことのない、胸の高鳴りとは違う沸々と沸いてくるような暖かさを覚えた。
ともか「まじで迷惑~!」
彼がいたずらをしかけてきた。
私の机の上で紙を切り刻んでばら撒くという中々な悪戯をしてきたのだ。
そんなとき、担任の先生がそこを通りがかり
先生「なにやってるんだ。さくやは早く片付けなさい。」
と叱った。
さくや「…はーい」
紙くずを彼が片付ける。
先生の声が遠くで響く。
普通なら、迷惑だから早く辞めてくれと思うだろう、でも私は片付けてほしくなどなかった。
私は普通じゃない。なんてこと考えてるんだ。
そして、私は気づく。
“私は彼に恋をしているのだと。”
ともか「うっわ、さすがにばかすぎでしょ(笑)」
さくや「はあ?お前に言われたくないしー」
私は彼のようになりたくて、彼を真似て、皆の前で冗談を明るく言うようになった。
皆が私のことを少しずつ認識し始める。
それに気づいた瞬間、今までの努力が少し報われたような気がして心が温かくなった。