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森川さんの言葉を数回反芻してから、ようやくその意味が分かった頃にエレベーターが来て、扉が開く



森川さんと私の他にスーツ姿の男性二人と、一緒にエレベーターに乗った



……部屋で着替えてもらうって、このホテルの部屋だよね⁈



森川さんの隣で私は心臓をバックバックと波打たせ、頬を赤らめながらエレベーターの床を見つめた



……部屋ってことは、今から行くんだよね



それってもしかして、森川さんが部屋を取ったってことだよね



今日で会うのは二度目なのに、どうして部屋を取って着替えさせてまで、高級そうなレストランに連れて行くんだろう



その前に、何に着替えるんだろう?



それから私と食事をしたって、森川さんにはなんにもメリットはないのに



私、何も喋らないからつまらない女だし



森川さんに迷惑かけたのに、逆に森川さんにしてもらっている



このまま、森川さんのペースに身を任せて甘えそうになっている



……いや、甘えちゃダメだ



でも私はそういう気持ちとは裏腹に森川さんと居たい気持ちが勝り、地上25階で止まったエレベーターを降りて森川さんについていく


足音が立たない真紅のふかふかで足が取られそうになる廊下を進み、ある部屋の前で止まった


森川さんは、部屋のドアに取り付けてある機械にジャケットから取り出したカードを読み取らせる


……えっ、カードでドアのロックを解除出来るの?


鍵で開けなくてもカード一枚で……、すごい


ハイテクなドアに驚いていると、森川さんはドアを開け、一歩脇に避けると先に入るよう促した


森川さんを横切り、ふかふかの赤い絨毯が敷き詰められた床を踏みしめながら部屋を進む


巨大なガラス張りの窓の前で止まると、見たこともない景色が広がっていた



……うっわ〜……!


街が小さく見えるってことは今、すごい高い場所にいるんだ



巨大なベッドを横切り、吸い寄せられる様に窓辺に近づいた



巨大なガラス窓の向こうに広がる夜景は小さな金色の光が無数にきらめき、ゆらめいている



ここから名駅が見えるんだ……


ふと窓に映った自分を見るとあんぐりと口を開けて、なんとも間抜けた顔をしていた



……こんな顔、見せられない


真顔になんとか戻した私は夜景から視線を外し、後ろを振り返る


森川さんはベッドの傍に立ち、黒っぽいワンピースを手に持ちながら私に手招きをした


近づくと森川さんが持っていたワンピースは、よく見るとネイビーだった



「これ、藍璃ちゃんに。 俺は外で待っているから」



そう言ってから森川さんは、ドアの方に踵を返す



ワンピースを両手で持ち上げて、上から下までまじまじと見る


七分袖はシースルーで、裾元が透けているマキシ丈のウエストを細い紐で絞るワンピースで、背中側を見るとチャックが付いていた


改めて確認しなくても、事前に森川さんが私の為にワンピースを用意したのだろう


私の為にわざわざ……突然の思いもよらないサプライズに一瞬たじろぐけれど、森川さんと会うのは2回目なのにこんな急展開を簡単に受け入れた私は、手の込んだプレゼントに嬉しくなる



「あの」


ドアに手をかけようとした森川さんを、呼び止める



「ん? どうしたの?」



「これ、チャック付いているのですが」



おずおずと言うと、森川さんはこちらにゆっくりと踵を返した



「あ、そっか。一人じゃ着れないね」





「これ、藍璃ちゃんに。 俺は外で待っているから」




そう言ってから森川さんは、ドアの方に踵を返す



ワンピースを両手で持ち上げて、上から下までまじまじと見る




七分袖はシースルーで、裾元が透けているマキシ丈のウエストを細い紐で絞るワンピースで、背中側を見るとチャックが付いていた




森川さんと会うのは2回目なのにこんな急展開を簡単に受け入れている私は、プレゼントに嬉しくなる





「あの」




ドアに手をかけようとした森川さんを、呼び止める




「ん? どうしたの?」




「これ、チャック付いているのですが」




おずおずと言うと、森川さんはこちらにゆっくりと踵を返した




「あ、そっか。一人じゃ着れないね」



……どうしよう……



森川さんの目の前でなんて絶対に無理だけど、一人では着れない



ワンピースを持ったまま、まとまらない思考を巡らせていると森川さんはバスルームらしき部屋に向かった



「俺、ここで待つからチャックを閉める時になったら呼んで」



森川さんはバスルームに入っていくと、磨りガラスになっている扉を閉めた



森川さんの影が見えないのは、気を遣って着替える姿を見ないようにバスルームの奥の方で待っていてくれているからだ



私は心を熱くし、半分がっかりしている気持ちに小首を傾げながらTシャツとタイトのジーパンからワンピースに着替えた



「森川さん、着ました」



着替え終え、髪を整えてから見えない森川さんに呼び掛ける



森川さんは扉をゆっくりと開けると顔だけ出して、状況を確認すると部屋から出た


背中を開けている私に近づくと、私の後ろに立ってワンピースのチャックを閉める


「失礼するよ」


その合図の言葉とともに、ゆっくりとチャックが引き上げられる


一瞬だけ森川さんの指が私の背中の肌を掠めて、森川さんに背中を向けているのにこんなにも恥ずかしい


森川さんの指が掠めた肌には、その感触がずっと残っている


心臓は胸を打ち破る勢いで激しく高鳴り、身体が木の葉のように小刻みに震えている


こんなにも息が苦しくて、身体が熱い……そして、下腹がきゅっと切なく痛くなる


何故?


「良かった。サイズが合っていて」



私の身体にフィットするワンピースのサイズがぴったりで私は、森川さんに驚きを隠せなかった


なにもかも周到な森川さんは私の足のサイズに合ったヒールの靴まで用意していたらしく、私はスニーカーから履き替えた



「思った通り、良く似合っている。準備も整ったし、レストランに行こうか」


森川さんに目を細めて優しい笑顔で褒められた私は、昇天寸前だ


さきほどとは全く違うお洒落な格好の私は、森川さんと30階行きのエレベーターに乗った



また、私は床を見つめることしか出来ない



互いに無言で機械音だけが微かに響いているエレベーターの中で下を俯いていると、突然毛先を軽く持ち上げられた感覚がした



えっ、えっ?



森川さんが私の髪に触れている?



目を見開いて驚きながら、森川さんを見るとやや伏し目がちだった森川さんが上目遣いで見つめ返してきた



「絡まっているよ。今、解くからじっとして」



森川さんはまた伏し目になり、手先の作業に集中し始めた



見つめられているのは髪なのに、なんでこんなに頬が熱くなって鼓動が早くなるの?



長くて節の高い綺麗な指がゆっくりと丁寧に、絡まっている私の髪の毛先を解いた


痛くならないように髪を切らないように、慎重な手つきで森川さんは私の髪に触れている



……う……ん



ずっと毛先だけでもいいから、触れていてほしい……



自分の願望に気付いた時、私は我に返った



なにを私は思っているの?



森川さんに触れていてほしいなんて図々しいことを思える自分に呆れているうちに、森川さんの手が私の髪から離れた


あっ……



途端に、何故か物足りない気持ちになる



あと、もう少しだけ触っていてもらいたかった



「ちゃんと、ブラシを使わないと。 部屋にもあったのに。せっかくの綺麗な長い黒髪なのに勿体無いよ」



森川さんがそう言ってからすぐに、30階に着いた


綺麗な黒髪と言われただけなのに胸が一杯になり、キュッと痛む



平静な森川さんに促されるまま、浮き足立ちになっていた私は高級中華レストランに入った



このレストランからも、目前に夜景が一望出来た


一番綺麗な夜景が眺望出来る特等席らしき、窓辺の円卓テーブルに森川さんと向かい合う



見たこともない食材を使った、食べたこともない料理


この時もあまり食欲はなかったけれど、森川さんと食事をするのがあまりにも温かくてゆっくりと箸を進めた



今夜は、森川さんが私に自分の話を少しだけしてくれた



債権回収会社の仕事の出張で私が住む街、名古屋に来ているらしく、滞在期間は一カ月で実は今日はその最終日なんだと私に森川さんは告げた



「森川さん、じゃあ明日には東京に帰られるんですか?」



私はフカヒレスープを食べていた手を休め、森川さんに訊いた



森川さんは、紹興酒というお酒を傾けてからグラスを置く



「明日の昼には帰るよ。本社に戻って色々な仕事の始末もあるから、ここでの仕事が終わっても名古屋には長居出来ないんだ。藍璃ちゃんと会うのも今日が最後だね」



……明日東京に出発するなら、今こうしてお酒を飲んで私に高級中華料理を食べさせている場合ではないのでは



わざわざ森川さんは、『そのうち連絡する』という守らなくても良い約束を果たすために、私に連絡をしてくれた



その上に、会うのは2度目の素性も知れない女の私にサイズぴったりのワンピースとヒールまで用意して、高級中華料理を食べさせてくれている



どうして、森川さんからしたら子供で迷惑をかけた私にそこまでして食事に誘ったり、繋がりを持ちたいなんて言うんだろう?



してもらう理由も義理も、私にはないのに……



でも、やっぱり会えなくなると思うと淋しい気持ちになった



今夜が最後で、本当はもっと沢山お話ししたくて、森川さんの色んな表情が見たくて、森川さんの低音で優しい声を聞きたかった



私は途端に食事が喉を通らなくなり、森川さんには申し訳ない気持ちだったけれど料理を残してしまった



中華レストランを出て、森川さんに『ちょっと、付き合って』と言われた私は一緒にビル屋上の摩天楼みたいな展望所に行った



夜は深く冷やっとした秋の風が吹いて、身震いをすると森川さんがスーツのジャケットを脱ぎ、私の肩にかけた



森川さんは、寒そうにワイシャツとネクタイ姿で胸の前で腕を組む



「私、寒くないです。森川さんが着てください」



森川さんは、優しい笑顔で首を振った



「俺のことはいいから。藍璃ちゃん、ちゃんと着て」



森川さんにやんわりときつく言われ、私は大きなジャケットに袖を通した



大きい……



肩も袖も余っていてぶかぶかだけど、あったかいな


それに森川さんの匂いがして、なんかすごく安心感に包まれる


まるで、まるで……森川さんに抱き締められているみたい


前を合わせ閉じてジャケットに鼻先を埋めると、そっと深く匂いを吸い込んだ



……良い、匂い……



わずかにスッキリ系の香水の香りと、森川さん自身の匂いをすんすんとする



「もしかして、臭い?」



森川さんは、いつまでも森川さんの香りを堪能する側から見たら変態な私に心配そうに言った



「っ、い、いえ臭いとかじゃなくて、良い匂いがするなって……」



森川さんの匂いは好きだけど、嗅いでいたのがバレて羞恥を一気に感じた






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