テラーノベル
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たとえば、俺がこの世界から放り出されたとして、確実に人間ではない何かへとなり果てるばかりだろう。
そんな俺を救うサービス。あるわけがないと今まで信じてきたが、今の自分に問うてみても、どうにもあるわけがないとまで言い切れない。
街の各地に跋扈した人間とハリボテの心臓がある。絵空事みたいなロスサントス市が淡々と存在し続けているのは、誰のおかげでもなく神のせいだった。
想い描いて、虚像の23年。真実の✗✗ヶ月。生まれ落ちてから、そういうキャラクターだった自分にとっての救済処置、神とやらはどうにも自分にそっくりに生きていた。
今のように、腕を脱力させて寝転がる自分にとっての救済である。 ソレが来ることばかり願っていて、他にどうにもできないのだから、空っぽな脳みそで文字を書くことをしている。
人にはそれぞれの世界がある。各個人にとって見えている世界がまるで違っていて、構造も中身も、感じることの全てが皆ズレている。
本来は存在する物に対しての重要度が、自身の脳のフィルターを通して世界に現れている話なのだが、言葉そのままに実現させてみればどうなるだろう。
俺には他と違う世界が見えていて、大いなる神が後ろを支える。全ての回路と電気信号と、電波が交差したロスサントス市で、酷使されたモーターになっている。
体が動かせなくて、寝転がっているわけではない。大きすぎる存在を目の当たりにして、脳がおかしくなっている最中だ。
人のいない空港。世界と接続されなかった待機画面だけが永遠に流れ続ける。
本来描写されない空港内で、開かない扉をゆるく叩きながら右往左往として、何年経ったか分からないまま過ごす。
そして今日、世界から放り出されたのだ。後ろを見れば、それら全部がただの液晶だった。
一つ、他のヤツよりも出っ張ったヤツの脳みそが叩き直されるのとは全く違った形で、他のヤツよりも何個か多く知ってしまった自分は、ロスサントスから弾き出された。
もはや、仮想世界の住民でも現実世界の住民でもない。人間でも、また死神でも。
酷く内省的になってしまって、自分は何者になったのかを考える。つぼ浦匠という名ばかりの空虚なソレは、まったく形を失った気がする。
ただ理解したのは、理解した気でいた程遠い宇宙が、俺の眼前にまで迫ってしまった、という事実だった。
大きくあくびをした。こんな場所では、気を遣う相手すら姿を消している、ということが唯一嬉しい。
世界から捨てられた、といおうか。俺は完全に、一匹狼よりも寂しいようになった。そもそも他の生物がいないのだから、「一匹」という単語すら必要としないだろう。
努力して手に入れた名声も、地位もとっくに無いもの。もはや現実世界とはいえず、なにやらVRの世界のような気がする。
パラレルワールド、並行世界。区別がつかないが、とにかく止まったのがココだった。
十年未満に膨れ上がった功績を愛おしく思う。
1にならない視聴者数、止まった人口。ついには昼夜まで消え去り、ただ藍色の籠になっているばかり。ついには、好きだった天体や宇宙までもが偽物に見えて仕方ない。
開かない扉。開きっぱなしの窓。物置を彷彿とさせる棚。すべて現実だろうか。現実だと信じてきた全ては、何なのだろうか。
だらりと脱力した自身の尻尾。配信アプリを開くことすら億劫になる。
けれども、生きがいがソレ以外見つからない。現実ではなく、仮想世界でもなく、ただ人も世界もない部屋でゲーム画面を垂れ流す。
思えば以前と変わらないかもしれない。
デスクに寄りかかって、パソコンを操作した。何十万かけて用意した機材、思わず笑みがこぼれて、機材を指で撫でた。
頭の片隅に、ただ存在した壺浦匠。ふと様子が気になって、ロスサントスは動いているかも、という期待を胸にゲームを起動する。
サーバーに接続する最中の長いロード画面は、最後にみた綺麗なファンアートなどではなく、平凡な黒い画面だった。
キャラ選択画面をいじる。そうして、現在地からスタートすれば、いつも通り動くのだ。
メガネの位置を少しばかり調整した。だんだん眉間に力が入る。
パソコンの液晶は、確かに映していた。しゃがみ込む体格の良い男と、空港。困惑を隠せない、このゲームで見たことがないしゃがみ方だ。
「どうなってんだァ、これぇ…。」
思わず声を漏らせば
「久しいな。もう、このゲームは壊れたぞ。」
と、自分と同じ声で返ってくる。
それはパソコンからだった。あたりを見ても、当然誰もいない。
とうとう、幻覚もいいところまで来てしまった。いや、幻聴も含むだろう。とにかく、自分はなにも、キーを押していない。
夢に近いだろう、そうとしか思えなかった。いつの間にやら気絶でもしていて、ただ悪い夢を長い間感じている。でなければ、こんなに奇妙なことがあっていいわけがない。
「聞こえなかったか?」
それでも、壺浦は声をかけてくる。
「…聞こえたかも。」
答えれば、満足そうに頷いた。
先刻の、「ゲームは壊れた」がどうにも気がかりで、前進させた壺浦を介してロスサントスの道路を見回す。
車もNPCもいない、廃れた街だ。
壺浦は口を開く。
「アンタが来たおかげで、やっと空港からでれるぜ。」
もはやキャラクターではない。一人の人間みたいだ。収録されたボイスもない、声帯すらないし人工知能が組み込まれたわけではない。簡単に言えば、おかしい。
「そりゃあ、良かった。」
とだけ返した。
誰かと話すのは久しぶりだった。
カレンダーすらめくっていない部屋で、一人延々と喋るだけ、喉は声を出すのに慣れていたが、脳みそは誰かと会話することを恐れていた。
スケボーに乗って警察署にやってくると、旧本署であるその姿がいつも通りのよう堂々としていて、不思議な感覚になる。
これまで大人しく操作されていた壺浦が、不意に振り向く。
「SNSにも心有りなんていなかった。こんな街に来て、何がしたいんだ。」
「…同じ者同士、仲良くしよう、な。」
今度の彼は、怪訝な表情をしている。
いつまで経っても、街は静かなままだ。犯罪通知もなく、警察GPSもマップに表示されない、いかにも壊れたゲームだ。というより、誰もいない。
期待した街とはかけ離れ、寂れたロスサントス市。濃く、脆い期待はとっくに砕かれ、もともと弱かった精神が複雑に切り刻まれていく。
それでも、発狂しなかったのは、ロスサントスに対話可能な知的生命体未満の何かを発見したからだ。
ゲームという隔たりはあるものの、それが俺を安定させる最も頼もしい存在になるのは、己にも分かることだ。
署内のソファに座った壺浦は、俺のことなんか気にせずくつろいでいる。いつでもこうやって、心が廃れることなく呑気に過ごしているのだろうか。
「壺浦に自我あるの、おもれぇな。」
呟いた言葉は、まんまと壺浦に届いた。
「笑い事じゃねぇぜ。」
一蹴される。されど笑い事にすぎない。
☻Smile☻
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グリムナ
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コメント
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うわ、この2話めちゃくちゃ引き込まれました…。自分と同じ声で返ってくるキャラクターと対話する展開、読んでて背筋がゾクッとしました。「ゲームは壊れた」って台詞がすごく怖いし、現実と虚構の境界があいまいになっていく感覚が丁寧に描かれていて、続きが気になって仕方ないです!