体育座りで、スケッチブックを太腿に置いて、絵を描く私。そんな私の肩にもたれ掛かって、私の作業をただ見るまふゆ。この距離にも慣れてきた自分がいる。
しかし暇なのか、私の左手で遊んでいるが。
「そういえば絵名っていい匂いするよね。何だろう、落ち着く匂い?」
「そう」
「……ちょっと、退かすね」
「え?」
私のスケッチブックを取り上げて、地面に置いたまふゆ。それから私の膝を伸ばして、その上に乗った。
「ちょっと、今集中してたんだけど」
「…………」
まふゆは無言のまま、そのまま倒れ込んできて、私の背中に手を回した。
「ちょ、ちょっと、まふゆ!?」
「うん、落ち着く。」
「は、ちょ、何、」
「私、絵名の匂い好きだよ。落ち着くから。寝るときも、一人でも安心できる」
「…………」
こいつは、何を、言っているんだ。
一つ一つの言葉が頭を通り抜けていく。意味が理解出来なくて、何とか考えるけど、恥ずかしくなって思考を放棄してしまう。
何故、私は抱き着かれている。そして、何故、匂いを嗅がれている。
ああそうか、落ち着く、だったか。そんな理由で。私は余らせた手を回すことも出来ず、ただ宙に浮かせている。
「絵名?」
問い掛けるようなまふゆの視線。見つめ返すことは出来るが、それ以上は出来ない。少し遅れて、そういえばあのカーディガンはその様な使われ方をしていたな、と恥ずかしく思う。
「私のカーディガンも、すっかり絵名の匂いになっちゃったね」
「う、ん……」
身体が一気に熱くなった。
何だろうか。言い回しのせいかめちゃくちゃ恥ずかしい。別にただ普通のことを言っているだけなのに。
まふゆは私のカーディガンのボタンを一つ一つ外していた。そして半分ほど開けきったところで、その隙間に手を入れて、私のワイシャツに直接触れて抱きしめた。それから流れるように顔を埋める。
「ま、まふゆ?」
「なに?」
「なに、じゃなくて……」
まふゆはまだ飽きてないのか、隙間に入れていた手を出して、私の髪へと手を伸ばした。
「……っ」
それから髪の毛の匂いを嗅いで、首元へ。疲れる体制だったのか、またカーディガンとシャツの隙間に手を入れて私を抱きしめた。
「まふゆ……?」
「寝てもいい?」
「……まあ、好きにすれば」
私はそこで漸くまふゆを抱きしめ返した。
それからそっと、頭を撫でてあげていると規則的な寝息が聞こえてきたので、私も目を閉じた。
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