テラーノベル
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こちらは、某実況者様のお名前をお借りした二次創作になります。
以下に書かれた注意書きを必ずお読みください。
・登場人物等、全てにおいて捏造
・ご本人様とは一切関係がございません。無断転載、晒し、その他のご本人様にご迷惑をお掛けするような行為は絶対におやめ下さい。
・誹謗中傷の意は一切ありません。
・公共機関での閲覧を禁止します。
以上のことに理解していただける方のみ、お進み下さい。
・rbsha
・付き合ってません
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「おい、シャオロン!!」
部屋中に響き渡った怒声に、シャオロンは思わず「げっ」と小さく声を零した。扉の方を見れば、予想通りの男がこちらを睨み付けながら仁王立ちしている。全く、その小さな体躯のどこからそんな声量が出ているのか。
「このふざけた書類はなんや!!」
そう言って、ロボロが突き付けた書類には見覚えがあった。小難しい内容に途中で飽きてしまい、「まぁどうせトントンが直してくれるやろうしええか」と適当に書いて提出した書類だ。まさか、ロボロの検閲が入るとは。
「えー、だって意味わからんかったし飽きたんやもん」
「お前なぁ……。仕事やぞ、こんな子供の落書きみたいな書類ありえへん!再提出や!」
ロボロが書類をひらひらと振り回しながら、文句を並べ立てる。いちいち細かいやつやなぁ。
「じゃあロボロも手伝ってや」
「なんで俺がお前の書類手伝わなあかんねん。……ていうか、またお前んとこの小隊の奴らに泣きつかれたで。シャオロンさんが自由すぎますって」
「おかしいなぁ、俺真面目にやってるのに」
「阿呆ぬかせ、模擬戦で大暴れしてカオスやったって聞いたわ。ほどほどにせえ言うたやろ」
やいのやいのと言い合う二人に、他の面子は慣れきった様子である。毎度、似たような口論が繰り広げられる光景はもはや日常と化していた。
「はいはい、書類やっけ?書き直せばええんやろ」
「……シャオロン」
低い声にびくり、と肩を揺らす。その反応だけで何か隠していると言っているようなものだ。案の定、確信を強めたらしいロボロが鋭い眼差しを向けてくる。
「歩き方がおかしい。お前、右脚痛めとるやろ」
「ちょっと着地ミスってもうただけやって」
「医務室は?まさかそれで訓練参加したんちゃうやろな?」
「こんなん大した怪我やないし。訓練には支障出てないんやからええやろ?」
「いいわけあるか。無理して悪化したらどうすんねん」
シャオロンの悪びれない返事にロボロが眉をひそめた。別に、この程度の怪我どうってことない。必要以上に気遣われるのは弱いと思われているようで気に食わなかった。
「あぁ〜もう!いっつもうるさいねん!小姑かお前は!」
ロボロの手から書類をひったくる。すると、呆れたような深い溜息が返ってきた。
「……調子悪いのを無理して隠すんは勝手やけど、それで効率落ちてるようじゃ話にならんやろ。周りに迷惑かかんねん」
淡々とした声音だった。マゼンダピンクが冷ややかな眼差しでシャオロンを見つめる。
「はよ医務室行けよ」
それだけ言い残すと、ロボロは部屋を出ていった。パタン、と扉が閉まる音が静かに響く。
「……なぁ〜〜んかロボロって俺にだけ当たり強くない?」
「日頃の行いやろ」
シャオロンが漏らした不満をゾムがばっさりと切り捨てた。他の奴らも否定することなく頷いている。
「でも、たしかにロボロって内ゲバんときも真っ先にシャオロン狙いにいくよな」
「この前なんか、俺らには「気ぃつけや」だけやったのにシャオロンには十分くらい説教しとったし」
「会議でも毎回シャオロンの隣だけ避けて座っとるよな」
「部屋の前に立ってるのがシャオロンって分かるなり、勢いよくドア閉めて鍵まで掛けてたの草やったわ」
次から次へと飛び出す証言に、シャオロンの口元が引き攣っていく。
「……なにアイツ、俺のこと嫌いなん???」
すると、ショッピが「嫌われてはないと思いますよ」と珍しくシャオロンの肩を持った。
「まぁ、シャオさんを見つけた瞬間、廊下引き返したのには笑いましたけど」
「シャオロン見つけたら溜息つくんおもろいよな」
否。援護に見せかけた後方射撃だった。
「……へぇ〜〜〜〜??クソチビのくせにええ度胸やん。これからは今までの五倍、アイツのこといじったろ」
「そこで嫌われてるかもって落ち込むんじゃなくて逆に構いにいくんがシャオロンらしいわ」
ゾムがけたけたと愉しそうに笑う。強がったつもりはなかった。ただ、ロボロに嫌われているのかもしれないと思うと少し気分が沈む。
突き放すような声。冷たいマゼンダピンクの瞳。さっきのロボロの表情がなぜか頭から離れなかった。
◆ ◆ ◆
「失礼しまぁーす」
シャオロンが管制室の扉を開くと、小柄な体にはやや大きい室長席に座り、点々と光るモニターに向き合うロボロの姿があった。ロボロは画面へ向けていた視線を上げ、こちらへ振り向く。
「あぁ、シャオさんか。何かあったん?」
「夜遅くまで仕事してるロボロくんに差し入れ」
そう言って、湯気の立つマグカップをデスクの上へそっと置く。甘いココアの香りがふわっと漂った。
「まじ?ありがと」
ロボロがカップに手を伸ばしたのを見て、シャオロンはにんまりと口角を上げた。
・
・
・
「はぁ〜〜〜〜ッ!気ぃ悪ッ!!」
喫煙所に入ってくるなり、苛立った様子でそう吐き捨てたのは鬱だ。胸ポケットから煙草とライターを取り出しながら舌打ちを零している。
「えらい荒れとるなぁ」
「さっき女に今日の予定ドタキャンされてん。「彼と付き合うことになったからもう会えない♡」って。チッ、散々人のこと都合良く利用しやがってあの女……!」
眉根を寄せて、鬱が煙草の吸い口を噛む。まぁ、どうせそんなことだろうと思っていた。こういうときの鬱は大抵女絡みだ。
「あーあ、せっかく”これ”使おうと思っとったのに」
「……なにそれ?」
鬱が懐から取り出したのは、薄紅色の液体が入った小瓶だった。シャオロンが小首を傾げると、彼は得意げに液体を揺らす。
「ふふ、惚れ薬やで」
「惚れ薬ぃ?」
あまりにも突拍子のない言葉に、シャオロンは胡散な目つきで小瓶を見つめた。
「くられ先生特製で超効果抜群なんやって」
「へぇ、またモルモットになったん?」
「んなわけないやろ。男しかおらんのに死んでも嫌やわ」
冗談交じりに尋ねると、鬱は露骨に顔を顰める。そして紫煙をくゆらせながら、小瓶をこちらへ差し出してきた。
「シャオちゃんいる?」
「いや、」
いらんわ。そう言いかけた口を閉じる。なぜなら、とある男の顔がシャオロンの脳裏に過ぎったからだった。
——ロボロにこれを飲ませたら一体どうなるんだろう?
そんな好奇心が顔を覗かせた。いつも説教ばかりしてくるロボロが、自分の後ろを尻尾でも振るようについて回る。「シャオさん!シャオさん!」と懐いてくる姿は想像するだけで愉快だ。惚れ薬を使えば、今より少しは優しくなるかもしれない。なにより、一生揶揄うネタになる。
「……貰うわ」
「え?」
予想外の返答だったのだろう。鬱が目を丸くした隙に、シャオロンは小瓶をひょい、と奪う。最高のおもちゃを手に入れた気分だった。シャオロンの顔には悪どい笑みが浮かんでいる。
「……シャオロンに渡すのはまずかったか…………」
悔いるような鬱の呟きは、もうシャオロンの耳には届かなかった。
・
・
・
というわけで、このホットココアには惚れ薬が入っている。効果は個人差があるが、おおよそ三日ほどらしい。
「……変なもん入ってへんやろうな?」
「えっ!?や、やだなぁ、純粋な善意やんか!まったく失礼しちゃうなぁ〜」
ギクッ、と心臓が跳ねた。白々しく否定するシャオロンをロボロは怪訝そうに見つめていたが、なんとか誤魔化せたらしい。ロボロはマグカップを口元へ運んだ。
——こくり。
喉が小さく上下した。シャオロンも合わせて息を呑む。
「……ん、うまい」
唇に残ったココアを舌先で拭いながら、ロボロが呟く。ぱっと見た限りでは何も変わらない。
「ロボロ」
「ん?」
「ええっと……なんか変なとことかない?」
「ないけど」
きょとんと首を傾げるロボロに、いつもと違う様子は見当たらなかった。
……やっぱり、眉唾だったか。惚れ薬なんてあるわけない。本気で信じていたわけではないが、ほんの少しだけ肩透かしを食らったような気分になる。
「……じゃ、俺もう寝るわ」
「おやすみ〜」
いつも通りのやり取りを交わして、シャオロンは管制室を後にした。
◆ ◆ ◆
眠りの底へ沈む意識の向こうで誰かの声がする。最初は夢の続きのような、ぼんやりとした雑音だった。
「…………オロン」
名前を呼ばれた気がして、意識がゆっくりと浮上していく。どこかで聞き覚えのある声。
「シャ〜オロン、朝やで〜っ」
耳元で弾むような声がして、ゆっくりと瞼を持ち上げた。見慣れないマゼンダピンクが眼前に広がっている。
「……ん」
「おはよ、シャオさん」
窓から注がれる朝の光を受けて、声の主はにっこりと笑みを浮かべた。
「…………ろぼろ?」
「おん、ロボロやで」
微睡みの中、ぽやっとした眼で瞬きを繰り返す。シャオロンのベッドに腰を掛けたまま、ロボロがこちらを見下ろしていた。
「……なんでおんの?」
「お前を起こしにきたに決まってるやろ」
いや、なんで??頼んだ覚えはないし、なにか特別な予定が入っているわけでもない。シャオロンが朝食を食い損ねると思ったのだろうか。休みの日は気が向いたときに適当なものを食べているから必要ないのだが。
欠伸を零しつつ上体を起こすと、ロボロは自然な手つきでシャオロンの跳ねた髪を整えた。
「ふふ、すごい寝癖やな」
さらり、と指先で優しく髪を梳かされる。
「今日はフレンチトーストやって」
「うぇ〜っ、朝からおもっ……俺いらんわ」
「あかん。また最近痩せたやろ、お前。そうやってすぐ朝抜くから体重が増えへんねん」
いつもの小言。しかし、頭をぽんぽんと撫でるロボロの手に違和感が膨らんでいく。
「ほら、起きたんやったら顔洗ってきぃや」
ロボロはそう言ってベッドから立ち上がると、勝手知ったる様子でクローゼットを開いた。どうやらシャオロンの服を見繕っているようだ。
(…………え????)
ロボロが、おかしい。
・
・
・
今朝から続く、余りにもロボロらしからぬ言動。目の前にいるのはロボロの皮を被った別人なのではないか、とシャオロンは真剣に考え始めていた。そうでもないと、この変貌ぶりに説明がつかない。
「……シャオさん、食べへんの?」
「えっ!?」
シャオロンが頭を悩ませていると、不意に声を掛けられる。そうだ、二人で朝食を食べに来たんだった。ロボロはフレンチトーストを一口大に切り分けたあと、その一口をシャオロンに差し出してきた。
「ほら、あーん」
あまりの衝撃に言葉を失う。恥ずかしげもなくフォークを構えるロボロは、シャオロンが食べるのを待っているようだった。数秒の葛藤の末、ぱくり、とフレンチトーストを口に入れる。
「美味しい?」
「……うん」
有り得ない。絶対に有り得ない。シャオロンのよく知るロボロは絶対こんなことしない。
「お前、なんか変なもんでも食べ……」
そこまで口にして、ようやく思い出した。
俺、ロボロに惚れ薬飲ませたわ。
(……ん?待てよ?つまり…………)
ここまでの出来事を振り返る。ロボロとは思えない振る舞いや意味の分からない行動の数々。パズルがどんどん嵌っていくような感覚だった。
「んふふ、そんな顔してどうしたん?」
まるで割れ物でも扱うように触れる手と、砂糖を溶かしたような甘ったるい声。ロボロは、宝石でも覗き込むような目つきでシャオロンを見つめている。普段なら決して向けられることのない柔らかな笑み。
「まじか……」
どうやらロボロは、俺に惚れてしまったらしい。
◆ ◆ ◆
カチカチ、と無機質な音が響く。ゲーム画面のキャラクターをコントローラーで操作しながら、隣で本を読んでいるロボロにもたれ掛かった。肩からじんわりと伝わる体温と穏やかな空間は居心地が良い。
シャオロンはよくロボロの部屋に入り浸っていた。いつもならそろそろ「いつまでおるつもりや」と鬱陶しそうに言われる頃合だが、今日は何も言わないあたり薬の効果は覿面らしい。
ふと喉が乾いて、コップに手を伸ばす。
「……あ、もうないやん。ロボロの飲んでいい?」
「ん」
空のコップを机に置いて、すぐそばにあったロボロのコップに口をつけた。そのままジュースを飲んでいると、隣からなにやら視線を感じる。ロボロが本を開いたまま、こちらをじっと見ていた。
「……シャオさん」
「……」
「俺とキスせえへん?」
「ぶッッッ!!!!」
その瞬間、思いっきりジュースを吹き出した。
「ちょっ、きたな!」
「ッ……ごほっ、お前が変なこと言うからやろうが!!」
眉をひそめるロボロに咽せながら声を荒らげる。コイツ、今なんて言った???
「えっ……な、なんで?」
「いや、なんかしたくなって」
至極真面目な顔でロボロが言う。残念ながら冗談ではないらしい。さっと血の気が引いて、思わず一歩分ほど後ろへ退いた。
「…………」
そっと立ち上がり、扉の方へ向かう。すると、ドアノブを握る手をガシッと掴まれた。
「どこ行くん?」
「うわぁッ!そんなん逃げるに決まっとるやろ!!男とキスする趣味はない!!掘られる!ロボロに掘られるッ!!俺の貞操の危機や〜〜〜ッ!!」
「ちょ、声でかいわ!!誤解されるやろ!!!」
お前の方がでかいわ、というツッコミは一旦飲み込む。あと、どこが誤解なのか教えて欲しい。
ぐぐ、と力を込めてもドアはビクともしない。振り向くと、思ったよりも至近距離にロボロの顔があって息を呑んだ。無意識に後ずさると、トンッと背中が壁にぶつかる。後ろは壁、目の前にはロボロ。逃げ場はもうない。
うなじに添えられた手にぐっと力が籠り、顔を引き寄せられる。
「……シャオロン」
「っ、ろぼ……」
「嫌なら殴れ」
鼻先が触れるほどの距離で、マゼンダピンクの瞳がシャオロンを捉えた。彼の形の良い唇が近づき、吐息がぶつかる。どうすることもできず、シャオロンは震える瞼をゆっくり閉じた。
「……んっ」
その数秒後、柔らかい唇が触れ合う。感触を確かめるように何度か繰り返していると下唇を食まれ、微かに開いた隙間からロボロの舌が潜り込んできた。
「は、…っん……ふ、ぁ……んんッ」
互いの息遣いが絡み合い、鼻にかかったような甘い声が漏れる。とんでもなく恥ずかしい。ていうか、童貞のくせになんでこんなキス上手いねん。
「……っ……は」
「ん…ッ、ふ……ろぼっ、…は……んぅ…ッ」
執拗いくらいに上顎や歯列をなぞられ、舌を吸われる。頭がふわふわしてきた。身体に力が入らず崩れ落ちそうになり、キスを続けようとするロボロから逃げるように顔を背ける。
「ま、まって……っ」
「ごめん、嫌やった?」
肩で息をするシャオロンを見て、ロボロが不安そうに問い掛けてきた。
「嫌、とかじゃなくて……その、腰が抜けそうで……」
「立ってられへん……」と小声で付け加える。恥ずかしさに俯くと、腰をグイッと抱き寄せられた。下半身に何か硬いものが押し付けられる。
「……勃ったわ」
「は!?」
思わず顔を上げると、熱っぽいマゼンダピンクの瞳と目が合った。どさり、と床に押し倒される。そのまま服の下に手を滑り込ませようとしてくるので、シャオロンは慌てて肩を押し返した。
「ちょ、ちょっ!待て待て待て待て!!」
「なんやねん」
ロボロが明らさまに不機嫌な表情を浮かべる。しかし、今のロボロは惚れ薬が効いている状態。本人の意思ではない以上、流石にこんなことをする訳にはいかない。
「……何もないなら続けるで」
「ちがっ、待って!流石にあかんってこれは!」
「大丈夫、優しくしたるから」
「ん、あっ……み、三日!!ロボロ、三日待って!!!」
引く気がないと察したシャオロンがそう提案すると、ロボロは怪訝そうに片眉を上げた。そう、惚れ薬の効果は三日間。それさえ過ぎれば正気に戻るはずだ。
「……なんで?」
「い、いや、急すぎるというか……。ほら、心の準備とか色々あるやん?」
しばらくロボロは納得いかない様子だったが、やがて諦めたように溜息をついた。
「……まぁ、言質は取ったしな」
そう言い残してロボロが身を引く。張り詰めていた糸が切れたように、シャオロンは深く息を吐いた。
「三日後やからな。覚悟しとけよ、シャオロン」
そう言って、ロボロが愉しそうに唇の端を吊り上げる。その笑みにシャオロンは思わず身震いした。
◆ ◆ ◆
「なぁ大先生、元から自分のことが好きな人間に惚れ薬を飲ませたらどうなると思う?」
「え?なにそれ」
「例えばの話や」
「うーん……そりゃまぁ、元から惚れてるんやから惚れ薬飲んだところで何も効果はないんちゃう?」
「やっぱそーよなぁ……」
鬱の答えにシャオロンはがっくりと項垂れる。
図らずして、ロボロはシャオロンのことが好きではないということが確定してしまった。まぁ、元々分かりきっていたことではあるが。
こんなことなら飲ませなければ良かった。完璧に葬ったはずなのに、中途半端に意識させられたせいでロボロへの恋心が再び頭をもたげてきているのを感じる。
「……」
自身の唇を指先でなぞる。望んでいたロボロの反応だというのに、こんなにも胸を締め付けられるような思いをするなんて。
「鬱くーん」
すると、聞き覚えのある声がした。談話室の扉から、顔の上半分を狐面で隠している怪しげな白衣の男がひょっこりと現れる。
「くられ先生、どうしたんすか?」
「いやぁ、ちょっと実験を手伝ってもらおうと思って」
くられは軍と親交の深い秘密結社に所属する科学者だ。科学をこよなく愛するマッドサイエンティストでもある。
普段はそれぞれ別の所轄で活動しているため、関わる機会はそう多くない。だが、鬱とは何かと縁があるらしく、危ない実験や検証の手伝いを頼んでは、彼を研究室へ連れていっている。軍で「青いモルモット」といえば、鬱のことを指す。
「ふぅ、良かった。研究室から勝手に薬を持って行ったのがバレたのかと思いましたよ」
「あ、やっぱり鬱くんか」
「やべっ……いや、違うんです!くられ先生!これには山よりも高く、海よりも深い事情が……!」
鬱がだらだらと冷や汗を流しながら必死に弁明している。シャオロンは呆れきった溜息をついて、ポケットから小瓶を取り出した。
「もしかしてこれですか?」
「それです。……あれ?どうしてシャオロンさんが?」
「いや、はは……」
「大先生から貰ったんですけど……返しましょうか?」
シャオロンが小瓶を差し出す。しかし、くられは首を横に振った。
「いえ、それほど貴重な薬品ではないので大丈夫ですよ。特に意味の無い、ドッキリ用の薬みたいなもんですし」
「……へ?」
「まぁ、惚れ薬の試作品なんかを持っていかれると困りますけど」
「えっ!?」
その言葉に、シャオロンと鬱は大きく目を見開く。
「これ、惚れ薬じゃないんですか!?」
「そうですよ」
くられは、あっさりと頷いた。
「他の薬と入れ替えておきました。鬱くん、諦めてなさそうだったから隠しとこうと思って」
「……おまえ……」
もはや呆れて声も出ない。シャオロンはゆっくりと鬱へ視線を向ける。そこに浮かんでいたのは、呆れを通り越した軽蔑だった。
「ま、待ってシャオちゃん!これにはほんまに事情が……」
慌てて弁明する鬱を横目に、くられが白衣の内側へ手を入れる。
「ちなみに、本物はこちらです」
取り出されたのは、シャオロンが持っているものとよく似た小瓶だった。中には同じような薄紅色の液体が入っている。たしかに、見た目だけでは区別が付かない。
「メチレンジオキシ環を持つ恋愛成分に発情ホルモン様ペプチルドを加えたものですね。まだ研究段階なんですけど」
「じゃあ……俺が持ってるこれは?」
シャオロンは小瓶を持ち上げて、恐る恐る尋ねる。
「あぁ、それは皆さんにお渡ししている薬の改良版です」
「改良版?」
「はい。薬の作用としては、いわゆる自白剤に近いですね。ただ、記憶や意識を混乱させたりするような作用はありません」
お面の奥から覗く目が、狐のように細められた。
「簡単に言えば——”素直になる薬”です」
「あ、シャオさん。ここにおったんか」
聞き慣れた声にビクッと身体が跳ね上がる。そのとき、談話室に現れたのはロボロだった。
「うぐ……っ!?」
反射的に、隣に座っていた鬱の首根っこを掴んだ。そのまま思いっきり引き寄せ、逃げられないよう両腕でがっちりと固定する。そして、鬱の肩口に深く顔を埋めた。
「ちょっ、シャオちゃん!?」
鬱が焦った声を上げるが、構っている余裕などない。
絶対に、今の顔をロボロに見られるわけにはいかなかった。
「……は?」
ロボロが低く唸る。耳元からひっ、と引き攣った鬱の声が聞こえた。
「シ、シャオちゃん!お願いやから離して!このままやと僕がロボロに殺される……っ!!」
「嫌や」
「おねがい離してぇ〜っ!!」
必死に抵抗する鬱にしがみついていると、後ろからベリッと引き剥がされる。誰かなんて確認するまでもない。どうせロボロだ。
「……シャオロン、」
「無理!!」
そう叫んで、窓際のカーテンの裏へ逃げ込んだ。逃げたところで何も解決しないのは分かっている。それでも、今の自分の顔を見られるくらいなら隠れていた方がまだマシだ。
「……俺、なんかした?」
「なるほどねぇ」
何もかも見透かしたように鬱が言う。その声音は明らさまに楽しそうで、アイツのにやけ面が目に浮かぶようだった。……おい、大先生。絶対余計なこと言うなよ。
「照れてるだけやから大丈夫やで、ロボロ」
「なんで?」
「だーいすきなロボロが急に現れたからに決まってるやん」
シャオロンは心の中で鬱を恨んだ。あとで覚えてろよ。そんなことを考えている間にも、カーテンの向こうから足音が近づいてくる。
「シャーオさん」
そして、呆気なくカーテンがめくられた。
「……ふふ、顔真っ赤やん。かわいー」
目の前に現れたロボロはシャオロンの顔を覗き込むようにして、マゼンダピンクの瞳を柔らかく細めた。
「照れてるん?」
「照れてへん」
「ふはっ。そんだけ顔赤くしてんのに、照れてないは無理があるやろ」
「……ロボロ嫌い」
「そう?俺は好きやで」
さらりと返されて、シャオロンは言葉を失った。
分かっているくせにわざわざ聞いてくるあたり、タチが悪い。でも、本当にタチが悪いのは今のロボロが口にする言葉、そのひとつひとつが、紛れもない本心ということだった。
コメント
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shaさんが照れるの好きなんですけど貴方様の書くshaさんって、いたずらして、ちょっと色々あって、そこから勘違いしてて、最終的に照れるっていう過程がすっごい好きで...!!!要するに貴方様の書くrbshaめっちゃ好きなので次回も待ってます!!
rbrとshaの絡みが可愛くて好きです。両方どんくさくて素直でとても可愛くて、語彙力ないですがとにかく大好きです。
うわー、面白かった!ロボロが急に甘々になるギャップがたまらんですね。特に「俺とキスせえへん?」でシャオロンが吹き出すシーン、思わず声出して笑いました(笑)惚れ薬かと思ったら「素直になる薬」っていうオチも綺麗で、くられ先生の「簡単に言えば——"素直になる薬"です」で全部の伏線が回収される感じが気持ち良かったです。ロボロの「俺は好きやで」が本心ってのがもう…にやけますね。続きが気になります!