渡辺side
めめの腕の中で泣いた夜から、驚くほど心の中は凪いでいた
ずっと心の底に鬱々と溜まっていた重苦しい淀みがなくなって、気分も視界も晴れ渡った
自分の気持ちを素直に掃き出さずに溜め込んできたことが、どれほどに自分自身の首を締め付けていたか実感する
仕事をしていても家にいても、うまく呼吸が出来ていないような感覚があったのに、今はどこまででも走れそうな気分だ
「翔太、いいことあったの」
「ん?なんで?」
「……そんなに穏やかな顔、ずいぶん久々に見たよ」
「…………確かにそうかも」
「今の方が、翔太らしくていいじゃない」
「そうなのかな」
「そうだよ」
長年隣にいる幼馴染は、やっぱり何かを感じ取るみたいで、安心したお兄ちゃんみたいな顔をして、嬉しそうに声をかけてきた
あべちゃんと佐久間が仲良さそうにしているのを見ると、まだ時折ちくりと失恋の痛みに刺されるけど、以前のように押しつぶされそうな悲しみが襲うことはなかった
穏やかに2人の仲睦まじさを眺められるようになったし、純粋に2人のこの先の幸せも願える
もう思い出にできる準備が整ってきている
それに暗い気分になりそうな時でも、目を瞑っておでこを触ると不思議と気分が落ち着いた
あの朝の、安心したように穏やかに笑う顔が思い出されて、元気をくれる
「おまじないが効いてるのかも」
「おまじない?」
「うん、元気になれるんだ」
「そっか、良かったね」
「うん」
よく分からないような言い方だったのに、俺の気持ちは分かったのか、涼太はそれ以上は詮索せずに笑ってくれた
コメント
1件
