目黒蓮side
どうしようもなく、この人の心の平穏を守るのは自分でありたいと、強く願った
あの朝、目が覚めた時、翔太くんは俺の方を向いて、まだ穏やかに寝息を立てていた
そっと頭を撫でたら、ゆっくりと瞼が弧を描き、キレイな瞳に光が入って俺が映り込んだ
「ん…めめ?…おはよ」
憑き物が落ちたようにすっきりとした顔で、ふわっとなごやかな花笑みを見せる
その優美さに惹かれて、思わず白くて丸みのあるおでこに口付けをした
「え、なに?」
「翔太くんが元気になれるようにね、おまじないだよ」
「ふふ、なにそれ。でも、ありがとう」
「久しぶりにすごく穏やかな顔をしてる」
「そんなの、めめのおかげだ。…なんか、めめがいてくれたら、おれ頑張れそう」
「俺はいつだって傍にいるよ」
「うん、嬉しい」
そういって起き上がり伸びをすると、洗面台借りるなー、と言って軽やかに寝室を出ていく
次に仕事で会った時には
「おまじない効いてるみたいだ」
なんておでこを触りながら嬉しそうにしていた
あんな、とっさの衝動をごまかすために言ったことを、すごく大事そうに
だからつい、もしかしたら、なんて欲が出た
その心の揺れは、だけど、素直に好きとも言わせてくれず、でも、未練がましく意味深な言葉を贈らせる
分かって欲しい気持ちと、分からなくてもいい気持ちとがないまぜになる
なんてことない言葉を簡潔に綴った手紙の隅、心が溢れて記してしまった二言を、消してしまおうとする手が、なんども宙を彷徨う
迷って迷って迷って
蓋をしたはずなのに溢れ出した期待に負けて、俺はそのままにした手紙をプレゼントに忍ばせた
「しょっぴー、これあげる」
「どうしたの?」
「なんでもないんだけど。元気になってくれたらなって思って」
「そんなの、いいのに…。でも、ありがと」
「帰ってから見て」
「ん、わかった。楽しみ」
プレゼント自体には特に意味合いはなく、あげたのは小さなハーバリウムだ
たまたま入った雑貨屋さんで目についた
ものの少ない翔太くんの家で、その瞳が眺める先に、少しでも彩りが出ればと思わず手に取ったものだった
コメント
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はあ。ほんとによい…