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残酷の花
序章
雨の日のぬいぐるみ
私らは闇の言葉を聞いた。誰も愛してはいけない。誰も信じてはいけない。そこに答えはある。この謎の答えはなんだろうか。ただ言えることはソファにぼそっと置かれていたぬいぐるみが、悲哀にしっとり濡れたような雨の日を映すかのような暗い部屋にひとつたたずんでいたことだ。 部屋の異質な空気に誰よりも早く気づくにはあのメモより他はなかった。誰か私に気づいて。お願い。残酷に散った花びらが集合し頼りなく枯れてゆく…。息をゆっくりのむようにただしずかに。
相沢裕之は刑事捜査一課として再び捜査に出ることになっていたのだ。過去の事件の捜索だった。一軒家の少し古い庭の植木と金色の古びたガラガラと鳴るドアが印象的だった。はい。こちら警察のものなんですが。刑事さん?はい。少しお暇させてもよろしいですかね。どうぞ。部屋は物数が少ないのと、質素な暮らしなのが見てとれた。
森で殺され亡くなったのは娘さんでしたね。はい。素っ気ない母の表情から見て取れるのは今だに後悔と引きづりを隠せない様子だった事だ。心あらずの母を見て心配すら感じた。刑事の緊張が少し高まる。お子さんはどうやらお病気だったようですね。ええ。 私は必死で介護してたんですが。と、いうと。相沢の目が光る。あの子私に恨みとばかりに暴言を言ってきたんです。あとは、私なんか生まれてくるべきじゃなかったって。そうですか。特に事件と関わりのあるものはないですかね。それが。小宮山しずこ(亡くなった娘の母)は答える。こんなメモがあって。これは。メモは不気味にも見てとれた。誰も信じるな。何も答えるな。正解はいつも遠くにある。そう書かれていた。これは筆跡を見るに、他の人のものですね。どう見ても子供の書いた字ではない。ふつつかなことを聞きますが事件と奥さんは関与してないでしょうか。いいえ。犯人の桑田さんと同じ教会に通っていたそうですが。聞きにくい部分を聞く。これこそ刑事の大変な役割だ。あまり追及しないでください。そうですか。ではそろそろ時間なので。はい。手がかりになればいいんですけど。ええ、もちろんですよ。それとあなたのことも覚えておきます。小宮山しずこさん。刑事である私相沢は踊らされるものかと少し睨みつけ自信の持った表情で答えた。なぜかといえば、刑事内でもこの女は共犯の疑いがかけられていた。病気で介護が困難で犯行に加わったものだと。
ちょうどその頃。なす術もなく立ち尽くす男、警視庁の死んでいった人を考えるといたたまれない。
汝をもて叫べば、汝さらば開かれん。勇気持て。魂の赴くままに。ただその行き先に。何かをあると信じて行くものなり。毎日生きる希望持て。儚い生命の温もり。幸せの日々思い出す。生命(いのち)を愛し尊べば、そこに未来はある。ただその力によって勇猛に進み行き死んでいったものたちに神の哀れみあれ。
祭壇を讃えた墓の前で思った。この世に正義なんて存在しない。脆弱な正義は脆く、無視されやすい。なんでこんなに冷めてるんだ。愛も、喜びも。このポジティブにも聞こえる讃える祈りの言葉も、愚かで嘘の塊に思えた。ただその握りしめたハンカチの濡れた部分が、震えた手を伴って小刻みに揺れる時、何かに嫌われていると感じた。この世の支配者か。神や天使なんていない。きっとこの世界は誰かのものなんだろう。病気と相なってこんな声がした。支配者になりたいか。なら神の子羊を信じるんだ。と。人の中で覚醒が起きるように、何かを変えるように渉の人格は変化した。その時から。言葉遣いから変わるようになっていったのだ。先駆者になるということは自分に絶大のリスクを負わせる厄介事でしかない。そういいながらも震えた手をとって社会に激昂し、反旗を翻そうと企むのであった。