テラーノベル
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突然、ポケットの中のスマホが震え、怜治さんからLINEが入った。
【さっちゃんごめん。急に仕事が入っちゃって、今日、送れそうにないかもれしない。申し訳ないんだけど、今日だけ一人で帰れそう?】と。
画面を見た瞬間、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。
けれど、急なお仕事なら仕方のないことだし
何よりここ最近は、怜治さんが毎日完璧に送迎してくれていたおかげで
あの不気味なフードの男の影なんて街のどこにも一つも見かけなくなっていた。
(もう、あのストーカーも僕のことを諦めて、どこかへ行ったんだろうな)
そんな風に、身体の微熱のせいで判断力が鈍り
心に大きな余裕を持っていた僕は、すぐに画面の上で指を滑らせて返信を打ち込んだ。
【了解です、仕事なら仕方ないです!もう最近は変な人も全然見かけなくなりましたし、まだ外もそんなに暗くないので】
その後に、三毛猫が前脚でグッジョブをしながらキメ顔をしているコミカルなスタンプを付け足して送る。
「よし」と小さく呟き、僕はスマホを制服のズボンのポケットにしまい込んだ。
通学カバンのストラップを肩から掛け、その根元をギュッと握りしめると
なるべく足取りを軽くして、久しぶりに徒歩で学校の校門を後にした。
いつもの通学路を歩きながら、僕は周囲の景色を見渡す。
(なんか久しぶりだなぁ…こうやって歩いて帰るの)
しかし
ここから僕の家への帰り道には、普通の大通りを歩くルートと
住宅街を突っ切る「近道」のルートの二種類が存在していた。
今の僕の身体は、ヒート特有の気怠さのせいで
一刻も早く自室のベッドに横たわりたいと悲鳴を上げていた。
まだ外はそんなに暗くない。
時計を見てもまだ6時前だし、大通りじゃなくてあっちのルートでも大丈夫だろう――。
僕はそうやって、近道をしたいがための身勝手な理由を自分自身に言い聞かせ
人通りの極端に少ない、薄暗い裏路地へと足を踏み入れてしまった。
――その、瞬間だった
ぞわり、と背中の中心に、凍りつくような冷たい『視線』を感じる。
心臓がドクリと嫌な跳ね方をする。
(……まさか、ね。気のせいだよね、最近見なくなってたんだし…)
胸の奥に湧き上がってきた畏怖感を強引に誤魔化すように、僕は後ろを振り返ることすらできず
ただひたすらに歩くスピードを上げた。
しかし、その直後だった。
アスファルトの硬い地面と、ザラついた靴底が激しく擦れ合う
───ズサッ、という低い摩擦音が、僕の耳元で冷酷に弾けた。
黒星
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コメント
1件
第21話、読み終えました……最後の「ズサッ」という音、本当に心臓が止まるかと思いました。怜治さんが来られないと知ったときの「胸の奥が少しだけチクリ」という描写に、もう既に不穏な空気が漂っていて。それなのに「最近は変な人も見かけない」と自分に言い聞かせて近道を選んでしまう心情、すごくリアルでした。ヒートの気怠さで判断力が鈍っているのも切ない……。読んでるこちらの背中までゾワっとしました🤍