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「あのっ。杜若様のご都合が良ければ、私と一緒にこのお菓子を食べませんか?」
なんだかんだで、私と杜若様がゆっくり会話する機会はなかった。
今が良い機会だと思ったのだ。
すると杜若様は一瞬だけ、びっくりしたかのような表情をして、私を少しだけ見つめてから口元を緩めた
「分かった。菓子を食べる時間ぐらいならある。一緒に食べよう」
「ありがとうございます。嬉しい。そうだ、私、お茶を淹れますね」
その場から立ち上がろうとすると、今度は杜若様が私の手を掴んだ。
「茶ぐらいなら俺が淹れる。環はじっとしていろ。部屋で待っていてくれ」
強めに手を握られ、触れ合った杜若様の指先から断るのは許さないと言った感情が伝わって来た。
私はそれがなんだか嬉しくて。大人しく、はいと返事をするのだった。
※※※
それから私は広い机がある居間に移動して、座布団を整えたりして、大人しく待っていると。
上着を脱いだ杜若様がお盆にお茶を二つと、小皿にキャラメルやキャンディ、ラムネ菓子を乗せて戻って来た。
背筋よく、机の上にお茶を置く杜若様の様子は、お茶の先生みたいな姿勢の良さだった。
目の前に置かれた湯呑みを見れば、中に揺蕩う緑茶の色は鮮やか。
良い香りが湯気と一緒に立ち昇っていた。
「杜若様って、なんでも出来るんですね。凄いです」
「そんなことはない。昔、習ったものを覚えていただけだ」
杜若様はくすりと小さく笑って、私の向かいへと座った。
頂きますと言ってから湯呑みをそっと口元に運ぶ。
一口、口に含めば、爽やかで緑茶らしい青みも感じて暖かな緑茶は美味しかった。
さて何から話そう。
引き止めてしまったのは私。
話したい話題はたくさんある。
この三日間のこと。土蜘蛛のこと。杜若様が私を助けてくれたこと。
頭にいろんな話題が上がるのに、また一口。緑茶を口に運んでしまった。
きっと杜若様だって、私に聞きたいことは山ほどあるのではないか。先にそちらを聞くべきか。
迷っていると湯呑みを持つ指先にじわりと熱が広がって来たので、ゆっくりと湯呑みを机に戻した。
すると、ゆったりとした声で杜若様が喋り出した。
「こうして、ゆっくりと熱い茶を飲むのは良いものだな。気持ちが落ち着く。そうだ。三日前、差し入れのいなり寿司。美味かった。ありがとう」
「いえ、あんなことがあったのにちゃんと、食べてくれただけで嬉しかったです」
土蜘蛛襲来でドタバタしたのに、宇津木様達がしっかりと、杜若様に差し入れのことを伝えてくれていたと聞いていた。
そのおかげで、無駄にならなくて良かったと思う。
「本当だったら、会議が終わったあとゆっくりと環と食べたかった。また今度作って欲しい」
その言葉に首を縦に振って微笑む。
すると杜若様がほんの少し、視線をそらした。
「あと、気にはなっていたのだが、あの日──」
とうとう、土蜘蛛のことを聞かれると思って姿勢をピンと伸ばして杜若様の声に集中する。
「あの日。あの庭で環が雪華家の者と令嬢達に出会って、なにか言い合っていたと報告を聞いた」
「あ」
「しかも、そのときに環の顔に傷が付いたとか、本当だろうか」
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