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「あっ、そうだ。ちょっと待ってて」
「ん?」
まだある物を渡せていないことに気付いて、その場所まで取りに行く。
「はい。これ」
「えっ・・・何?」
「婚約指輪的な?」
この日のために用意していた指輪の入った小さな箱を透子に手渡す。
「これ。うちの新ブランドで作ってもらった透子だけのオリジナルの婚約指輪」
「えっ・・・これわざわざ作ってくれたの?」
「うん。これ婚約指輪ではあるんだけど、このプロポーズした記念に忘れずにずっとつけててほしいなって作った指輪」
「嬉しい」
「今日プロポーズしようって決めてたから。その時やっぱり婚約指輪は必需品でしょ。わざわざ新ブランドの発表会のあとだし」
「そこまで考えてくれてたんだ」
「ずっと透子につけてもらいたくて透子のこと考えて作った。このデザインなら普段からずっとつけてられるでしょ」
「うん。素敵・・・」
「ちゃんとこれからそれつけて、ずっとこれ見る度にオレ思い出してほしい。透子はオレのモノだって印」
これはブランドが立ち上がると決まった時、いつか来るこの日のためにその時から準備していた物。
「うちの新ブランドのAngraecum<アングレカム>はさ。もちろんこのブランドを手にする人たちが幸せになってほしいって願って立ち上げたブランドではあるんだけど。でも一番はオレにとって一番大切な透子がいてくれたから、そんな透子を想って、出来上がったブランドなんだ」
「私のことを想って?」
「そう。透子がREIジュエリーを愛してくれたようにさ。オレもそんなジュエリーをたくさんの人に届けたいと思った。昔から母親が作るジュエリーへの愛情はずっと見てきてたけどさ。透子の話聞いてさ、本当にそれを手にすることで、勇気づけられたり力になったり、希望や幸せを届けられてるんだなって知って、心動かされたというか。一生残るその人にとっての宝物だったり、想い出だったり、幸せだと感じられる存在として、そんな商品を届けられるのって素敵だなって」
「うん。それだけの力あると思う」
「もちろんそれを自分で買うことで宝物にもなるし、またそれを大切な人から送られたモノなら更に大切にしたくなる宝物になる。このブランドの名前と同じ”ずっと一緒にいたい”という願いや、ずっと身につけて大切にしてほしいという祈りを込めて、そういう想いをたくさんの人に届けられたらなって」
「うん。すごく素敵だと思う」
「だからこの指輪もそんな想いが込められてる。オレから透子へ贈るこの指輪がこれからは透子の宝物になってほしい」
「うん。大切にする」
ずっと母親がジュエリーに愛情を持って作品を作って来たのを見てて、まだその時はオレ自身それに対して特に興味もなかった。
だけど、透子に出会ってから、ただのジュエリーに見えても、その人その人それぞれに寄り添ってくれて支えになる物になることもあるのだと知った。
きっと透子がいなければ、オレ自身がジュエリーに関わる事なんてきっとなくて、誰かを想って何かを届けたいだなんて、そんなこと考えもしなかったと思うから。
透子に出会えたことで、親父が作った会社の商品も、母親の作るジュエリーも、いろんな人を幸せに出来る価値がある物なんだと知ることが出来た。
今では、それぞれがお互いの商品を愛情持って届けていることを、誇りに思う。
透子のおかげで二人の息子でよかったと、オレがオレでいることが出来てよかったと、初めてそう思えたから。
「透子。指出して」
「はい」
そして透子から箱を受け取って指輪を取り出し、差し出されたその指に指輪をはめる。
「綺麗」
指輪をはめた指を見つめながら嬉しそうに呟く透子。
オレにとってはその指輪より、その指輪をはめる細くて長い指や、嬉しそうに幸せそうに微笑んで見つめている透子の方が、何倍も綺麗だけどね。
「ホントにありがとう」
「これからもずっと透子輝かせ続けるから」
「うん」
「だからずっとそうやってオレの傍で笑ってて」
「うん。もちろん」
「ずっとオレと一緒にいて」
「ずっと樹と一緒にいる」
そう嬉しそうに答えた透子がオレの首にしがみついてくる。
「これからもよろしく」
「こちらこそよろしく」
「すごい幸せ」
「オレも」
そしてオレもそんな透子を力強く抱き締め返した。
ようやく手に出来た二人での幸せ。
透子のこの表情から、抱き締め合うこの腕から、透子の気持ちが伝わって来る。
こんなにもオレを好きになってくれてありがとう。
一緒に幸せを感じてくれてありがとう。
ずっと待たせてごめん。
ずっと待っててくれてありがとう。
透子はオレにとって、こんなにも愛しい人で人生を変えてくれた大切な人。
人を信じられなくて、誰も好きになれなかったオレが、こんなにも深く愛した人。
その想いは一緒にいても、離れていても、何一つ変わらなくて。
それどころかどんな時もオレにとって必要な人なんだと実感する。
いつでもオレの心に寄り添ってくれて力をくれる。
どんな時でも大丈夫なんだと支えてくれる。
例えどれだけ離れても、一緒にいる運命を諦めたくなくて。
どんなに障害があっても、絶対その運命をなかったことにしたくなくて。
きっと今までのオレなら絶対諦めようとしてたようなことも。
透子は諦めたくなくて、その運命を信じた。
だけどこれからは一緒に作っていく運命。
ここからはオレが透子を誰より幸せにしてあげる。
今まで辛い想いをした分、寂しい想いをした分、たくさん幸せを透子にあげる。
今よりももっと幸せを感じられるように。
もう不安なんて感じることなんてない幸せな毎日を感じてもらえるように。
だから透子もただ変わらずオレを好きでいてくれればいい。
ただオレの傍にいてくれればいい。
そうすればオレはずっと一生幸せだから。
ここから始まる永遠の幸せを、二人で一緒に・・・。