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聖壱さんに姫抱きされたまま、タクシーに乗せられてしまい恥ずかしくてどうにかなってしまいそうよ。
私は背が高いし決して軽い方ではない、それにちゃんと歩けるのだから降ろしてくれればいいのに。そう思うのに私を抱いて嬉しそうな顔をしている聖壱さんに「降ろしなさいよ!」とも言えなくて……
しばらくするとタクシーの窓には見慣れた景色が……ああ、ちゃんと【ローズ・ヒルズ・ビレッジ】に戻ってくることが出来たのね。やはり不安もあったんだと思う、自分の居るべき場所を再確認してちょっとだけホッとしたの。
けれどタクシーは私と聖壱さんの部屋があるレジデンスではなく……なぜかオフィスビルの前に停車する。そのまま聖壱さんがカードで会計を済ませるとタクシーのドアが開けられる。
私を抱いたままオフィスビルの中へと歩いて行く聖壱さんに私は「降ろして欲しい」と頼んだけれど、彼は笑うだけで少しも私の言う事を聞いてくれないのよ。
「……沖名、頼んでいたものはどうなった?」
ロビーで立っていた沖名さんに聖壱さんが声をかける。沖名さんは聖壱さんに抱き上げらた私をチラリと見たが何も言わない。職場の人にこんな姿を見られるだなんて……次からどんな顔をして仕事に行けばいいのよ、聖壱さんの馬鹿!
「これでいいんですよね? 凄く大変でしたよ!まったく……今回だけですからね?」
「ああ、サンキューな。じゃあ今日は帰ってゆっくり休んでくれ」
頼んでいた物って、聖壱さんが彼と電話で話していたことよね?
沖名さんから何かカードのようなものを受け取ると、聖壱さんは沖名さんにお礼を言って今度はエレベーターへと向かった。
エレベーターに乗り込んで押された階数は五十二、それは高層フロアで、私達の働いているオフィスゾーンとは違う。じゃあ高層フロアにあるのって、確か……
エレベーターの扉が開くと同時に、速足で歩き始める聖壱さん。入口の受付も一言で済ませて、目的の場所でであろう一番奥の客室のドアを開ける。
そうだ、オフィスビルの高層フロアの半分はホテルだったんだわ。でもここはセレブや有名人なんかに大人気で半年先まで予約でいっぱいだと聞いたのに。
聖壱さんは窓の傍のベッドにそっと私を降ろした。高層フロアから見える【ローズ・ヒルズ・ビレッジ】周辺の夜景に、私の目はくぎ付けになる……このビルには展望台もあると聞いていたが、これだけ美しい夜景が見れるのならきっと評判もいいでしょうね。
「けれどこのホテルの部屋を聖壱さんはどうやって……?」
「ああ、さっき沖名に頼んだって言っただろ?アイツはこのホテルの経営者の関係者だからな。まあ、さすがに急すぎて怒られたが」
聖壱さんは笑っているけれど、このホテルの部屋を取るのが簡単じゃないことくらい私だって分かる。値段だってセレブの間でも、それなりなんだと聞いたことがあるもの。
「私みたいな性悪女にそこまでしなくても……」
いいのに、という言葉の続きは温かな彼の唇に塞がれて言わせては貰えなかった。背中に回された腕も力強くて……
「……するよ。香津美はそれだけの事をする価値のある女だ、俺にとってはな」
そっと離れた唇、私を見つめる真剣な聖壱さんの眼差し。彼は本当にそう思ってくれているようで、私はこれほどまでに聖壱さんに愛してもらっていいの?
「聖壱さんって、本当に女性を見る目が無いのね。いつか後悔しても知らないんだから」
私はずっと多くの男性は、妹や月菜さんの様に可愛くて従順な女の子を好むんだと思っていた。
選ばれるのはいつもそんな子ばかりだと。だけどこの人は違った、こんな私の事を可愛いと……何度も特別だと言ってくれるの。
そういう貴方の事、私も決して嫌いじゃないわ。
「残念だな、香津美。こう見えても俺は人を見る目には自信がある、今まで後悔なんてしたことは一度も無いんだ」
そんな風に自信満々に言わないでよ。そんな風に私を特別扱いされたら、甘えてしまいたくなる……貴方無しじゃいられなくなってしまう。
だって私はずっと、こうして私だけを大事にしてくれる相手が欲しかったのだから……
「狡いのよ、聖壱さんは。そんな事言われたら……もう逃げられないじゃない。」
この人に目を付けられた時から、私の運命は決まっていたのかもしれない。こんな自信家で俺様な人、絶対好きになんてならないって思っていたのに。
けれど聖壱さんがこんな風に私の揺れる心を見逃してなんてくれるはずも無くて。
「……なあ、香津美。俺はもうお前しか見ていない、香津美しかいらない。」
ほら、こうやって私をじりじりと追い詰めていくの。貴方のその表情とその声、そしてその言葉に……私はもう完全に捕らわれてしまっている。
「だから、香津美も俺だけを欲しがってほしい。香津美の全てを……俺にくれないか?」
私を射抜くような真剣な眼差し、きっとここまで私を想ってくれる人には2度と出会えない。私もこの人以上にこんな風に愛おしいと思える人には出会いないはず。
きっと彼との未来を選んでも、もう後悔することなんてきっとない。だから……