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どんなに手を伸ばして触れようとしても、あなたはいつも私の手を取ってはくれない。
フレディの手元に置かれた新聞の見出しが、目に飛び込んでくる。
7年前、遠征に行って行方不明となっていた隊員が発見保護されたと。
ずらりと並ぶ名前の中に、私の元夫であるアーサーの名前もある。
━━生きていたのだ。
あれは7年前、隣国との諍いが絶えなかった頃。アーサーも国境付近の警備強化の為、駆り出されたのだ。緊張状態が続いて、隣国に捕虜として捕えられたり、殺された者もいる。1年後、和平条約が無事に結ばれて、徐々に兵士達も戻ってきた。
が、戻ってこない者もいた。アーサーもそのうちの一人。捕虜として連れて行かれたのかも不明。遺体を見た者もいなかったので、人目につかない場所で息絶えたのかもしれなかった。
2年、3年、4年と何の音沙汰もなく月日が流れた。この国では、配偶者が5年行方不明の場合は、離縁が認められる。
そんな5年目のある日、フレディから結婚の申し出を受けた。
「リディアが、いつまでもアーサーの帰りを待てるように結婚してほしい」と。
いつまでも、行方しれずの夫の帰りを待つかわいそうな妻。
実は浮気され夫に捨てられた妻、
妻が怖くて逃げたした夫、など、
世間では色々と噂されていた。
そんな世間の目から守るように、フレディは契約結婚の提案をしてきた。
「絶対に、あなたには触れません。白い結婚を貫きますから!」と。
リディアとアーサーは、私の大切な友人だからと。
リディアとフレディとアーサーは、学園の同級生だった。
アーサーは騎士科、フレディとリディアは文官科だった。そのためリディアは、図書室でフレディと一緒になることが多かった。
リディアには、お気に入りの席があった。
窓際で陽当たりもよく、入口からも遠いので他の生徒もあまりこない席だった。
落ち着いて調べ物もできるので、いつもその席に座っていた。
そんなある時、いつものようにお気に入りの席に向かうと、そこにはフレディが座っていた。
仕方なくリディアは別の席を探そうと立ち去りかけた時に、「いつもここに座っている方ですよね? 隣に移動しますのでどうぞ」と、声をかけられたのだ。
人見知りで、一人でいることが多かったリディアにとって、声をかけられたことが何よりも嬉しかった。
自分のことを気にかけてくれる人がいる。
こんなにも至近距離で男性と話したことのないリディアは、恥ずかしくてはにかむように微笑むことしかできなかった。
それから自己紹介して、少しづつ話すようになるうちに、フレディの友人のアーサーとも話すようになった。
それからは、学園では3人でいることが多くなった。
アーサーは、図書室へ来ることはなかった。
本の匂いが苦手だからと。
そうして、忘れもしない運命の卒業式の日を迎えた。
勤め先もそれぞれ決まっていて、晴れやかな気分だった。
フレディ、私ね、あの時、ずっと胸に秘めていた想いを、あなたに伝えようと決心していたのよ。
あなたなら、図書室へ立ち寄ると思っていたから。
私のお気に入りの席の隣の席が、フレディの定位置だったものね。
式を終えて、あちこちで別れの挨拶をしている生徒達の横を通り過ぎて、私は急いで図書室へ向かった。
いつもあなたが座っている場所へ、後ろからゆっくりと近づく。