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精肉処理施設の蛍光灯は、朝でも容赦なく白かった。
イーサン・クロウは白衣を羽織り、
無言で手袋を二重にする。
この時間帯に必要なのは気合じゃない。
手順だけだ。
金属台の上に、今朝回収された死骸が置かれている。
大型犬。
首の付け根が、妙に整っていた。
ナイフを入れた瞬間、
指先に嫌な感触が返ってくる。
「……切り方が違う」
獣を相手にした雑な裂け方じゃない。
迷いがない。
人間を切る前提で覚えた手つきだ。
内臓を取り出すと、
小さな金属片が転がり出た。
歯の詰め物。
血はほとんど残っていない。
洗われ、処理され、
ここに混ざるためだけに用意されたみたいだった。
トレイに置いた瞬間、
奥から同僚のマークの声が飛んでくる。
「また道路のやつか?」
「ああ」
「最近多いな」
それで終わりだ。
誰も深掘りしない。
この町では、それが正解だった。
昼前、役所の職員が書類確認に来る。
女は床も作業台も見ず、
「異常は?」とだけ聞いた。
「ない」
イーサンは即答した。
理由は考えなかった。
考えた瞬間に、戻れなくなる気がしたからだ。
女はうなずき、
何事もなかったように去っていく。
作業終了間際、
冷蔵庫の奥で小さな袋を見つけた。
中に入っていたのは、
人間の指の骨。
切断面は古い。
だが、あまりにも丁寧だった。
イーサンは袋を閉じ、
冷蔵庫の扉をゆっくり閉める。
この町には、
殺す人間よりも先に、
処理に慣れた人間がいる。
そして自分は、
もうその一員になりかけていた。