テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それを見た陰陽師は胸元から扇子を取り出し一杯に開いた。すると扇子の上に光のパネルのような物が現れた。陰陽師はまるでパソコンのキーボードを叩くような手つきで光のパネルの上で指を素早く動かす。
最後に「ピッ」という音がすると、フーちゃんのタイムマシンの動きが少しおかしくなった。それでも、何か見えない手を振り切るかのように、タイムマシンはその場の空間からかき消えるように姿を消した。どうやら、かろうじて時間航行に入ったらしい。
陰陽師はしばらく扇子の上の光のスクリーンのような所を見つめていたが、やがて「よし」とつぶやいて道具を全て服の中に仕舞い、上皇の傍の廊下に戻りあらためて腰をつき頭を下げた。
「お上、ご無事でいらっしゃいますか?」
上皇は腰が抜けた様子で、女官に左右から抱えられながら部屋の隅の脚を投げ出して座る。
「そ、そちは陰陽師であるか?」
「御意にござりまする。このお屋敷の方角からただならぬ怪しい気配を感じ、お上が急に病を得られたと聞きおよび、もしやと思ってはせ参じた次第。いや危ないところでござりました」
「で、では、朕の病は、あの妖怪の仕業であったと申すか?」
「さきほどお上の懐から取り出しましたあの玉、あれの呪いであったに相違ございません。あの娘の正体、方々もその目でご覧になったはず」
ようやく立ち上がった武者たちが陰陽師の言葉にうなずきながら口ぐちに言った。
「わしも見た。あれは白い狐のように見えたが」
「いや、あんな巨大な狐は見た事がない」
「しかも、確かに九本の尾が延びていたぞ」
彼らにはフーちゃんのタイムマシンが巨大な狐に見えたらしい。後方に伸びていたウィングを尻尾だと思っているようだ。
次の瞬間、陽菜と玄野と明雄は刀と短い槍を構えた十人の武者たちにぐるりと取り囲まれた。その刃先は陽菜たちの方を向いている。武者の一人が怒鳴った。
「おのれらは、あの妖怪の連れの者であったな! お上、この場で成敗したしますか?」
陽菜は全身から血の気が引いて行くのを実感として感じていた。この連中はフーちゃんを、上皇の命を狙った妖怪だと思い込んでいる。ならば陽菜たちもその仲間だと思うのは当然だ。
「待ちなはれ。仮にもここは院のお庭。血で汚しては畏れ多い」
意外な事に陰陽師はそれを止めた。廊下から庭先の陽菜たちを順番に見つめ、そして首をかしげながら上皇に話しかける。
「妙やな。この者たちからは妖気をかけらも感じませぬ。何か仔細があるのやもしれませぬな。お上、この者たち、この阿倍泰成に取り調べさせては下さりまへんか? どこぞに蔵のような場所があれば、そこで」
上皇は無言でうなずき、武者たちに「庭の北の石蔵へ連れてゆけ」と命じた。陽菜たちは刀と槍の刃先に追い立てられて、半分地下になっている石の壁の倉庫のような場所に閉じ込められた。
十分ほどして、さっきの陰陽師が扉から入って来た。扉を外から閉めさせ、床に座り込んでいる陽菜たち三人を見下ろすように立ち、言葉を選んでいるようだった。
「さて、そちたちの……」
だが明雄が陰陽師の言葉を遮った。
「あなたは……未来人だな?」
陰陽師は扇子で顔の下半分を覆いながら驚きの声を上げる。
「な、何の事じゃ? われは陰陽寮に仕える……」
だが明雄は自分の言葉をたたみかけた。
「最初に聞いたあの音、あれは放射線探知機の音だな? なぜ、そんな物をあなたが持っている? いや、なぜ、そんな物がこの時代にある?」
「いや、あれは我が一族の秘術……」
なおもそう言い続ける陰陽師に明雄が自身ありげな表情でさらにたたみかける。
「それに、あなたがこの時代の人間ではない根拠がもう一つある。上皇の部屋に向かって駆け出した時、あなたはこう言った。『いかん! 鳥羽上皇が』と。あなたがこの時代の人間なら、なぜあの人の諡号(しごう)を知っている?」
そこまで聞くと陰陽師はもう口を閉ざして反論しなくなった。明雄が言葉を続ける。
「ナニナニ天皇、ナニナニ上皇という呼び方は『おくりな』とも言って、その人物の死後になって初めて決定されるはず。一人の天皇の代に何度も年号が変わる事があるこの時代では、おくりなを推測する事すら不可能なはずだ。もしあなたがこの時代の人間であるのなら」
「ククク……」
陰陽師は扇子の下で含み笑いを漏らし始めた。やがて扇子を顔からはずして急にひとしきり高笑いになる。
「ははは、あははは、いや私とした事が。そんな初歩的なミスを犯していたとは……時間航行管理局にばれたら減俸ものだな」
陰陽師の語彙がいきなり21世紀の現代語に近くなった。彼は明雄の正面にどかっと胡坐を組んで座り込み、やや声を落として言った。
「その通り、私は22世紀から来た未来人だ。タイムマシンを悪用しようとする同時代人を取り締まるのが任務。君たちには『タイムパトロール』とでも言えばイメージが湧きやすいかな?」
陽菜は感心して明雄の横顔を見つめた。さすが東大出のキャリア官僚。よく気づいたものだ。玄野も呆気に取られて声も出せない様子だった。その陰陽師、いやタイムパトロールの男は続けて言った。
「あの妖怪の影はホログラフィという立体映像だ。ああいう場合にこの時代の人間を納得させるには便利な手でね。さっき光線銃で止めようとしたのだが、バリア発生装置を奪われてしまった。あの笏は実は危険から身を守る電磁障壁を張るための機械なんだ」
「フーちゃんは……フーちゃんはどうした?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!