テラーノベル
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作戦決行は、明日の深夜と決まった。
「段取りをおさらいします」
燕花が卓の上に古びた巻物を広げ、低く抑えた声で確認を始める。煌と白虎が左右に並んでその手元に耳を傾ける中、朱雀だけが長椅子に肘をついて、どこか退屈そうに欠伸を噛み殺していた。
「朱雀様が南棟の枯山水で、無防備な瞑想状態に入ったという情報を、今夜のうちに静遠殿の耳に流します。情報を掴んだ静遠殿、あるいは裏で糸を引く氷嵐が動けば、必ず明日の深夜、現場へ刺客を送り込んでくるはず。私と白虎様が物陰に潜伏し、現行犯で押さえます」
「俺の役割は?」
煌が身を乗り出すと、燕花は巻物から顔を上げてまっすぐに煌を見た。
「童殿は、朱雀様のそばに」
「……それ、完全にただの置物じゃねぇか」
前線に出て拳を振るう気満々だった煌は、盛大に不満を顔に貼り付けた。だが、燕花の表情は真面目そのものだ。
「緊急時の離脱補助です。朱雀様が万が一、穢れの影響で神力を制御できなくなった場合、童殿がその場で調律することで最悪の事態を防ぐことができます。立派な役割ですよ」
「……要するに、お守り役か」
「言い方の問題です」
煌はちっと舌打ちをして、腕を組んだ。
(お守り役なんてくそくらえだ。そもそも、あのクソジジイが自業自得で弱ってるのが悪いんだろ)
心の中でそう悪態をついてみるものの、脳裏をよぎるのは四日前の夜、白い単衣一枚で疲弊しきっていた朱雀の姿だ。あんな姿を見せられたあとに「万が一」なんて言葉を聞かされれば、嫌でも胸の奥がどろりと重く沈む。
そんな煌の硬い表情を見て、横から白虎がニカッと能天気な笑みをかけてきた。
「いいじゃねぇか。煌、朱雀のそばにいられるんだし」
「うるさい、黙れ」
「あら」と燕花が小さく口元に手を当てた。
「白虎様、あまり童殿を焚き付けないでください。ただでさえ、ここ数日お二人の空気は冷え切っているのですから」
「わかってるって。たく、何を喧嘩してるのか知らんが……お前らがイチャイチャしていないと気持ち悪くて適わん」
「は? 別にイチャイチャなんてしてねぇだろ。それに、喧嘩してるわけじゃねぇ……。どうしても、俺はコイツが許せないだけだ」
「たく、そう意地張んなって。朱雀が何やらかしたかは知らねぇが、明日は本番なんだぜ。お前がそんなツラしてっと、作戦の成否に関わるだろ。なぁ、朱雀からもなんか言ってやれよ」
白虎はそう言って、今度は矛先を長椅子の主に向けた。
いつもなら、ここぞとばかりに「そうだな、煌が冷たくてわしは寂しいぞ」とでも乗っかってくるはずの神様だ。しかし、朱雀はふっと自嘲気味に口角を上げただけで、白虎の言葉を軽く受け流した。
「これは、わしと煌の問題だ……。お主には関係なかろう」
「おいおい、冷たいな。お前らがぎくしゃくしてるとむず痒くて仕方ねぇ」
白虎は呆れたように肩をすくめるが、その視線はどこか二人の「いつもと違う距離感」を測っているかのようだ。
朱雀は白虎からゆっくりと視線を外すと、今度は正面にいる煌へとその眼差しを向けた。
冷酷だった神の瞳が、煌を映した瞬間に、熱を孕んだ酷く真摯なものへと切り替わる。その変わりようが、煌の心臓を無駄に跳ね上がらせた。
「煌」
「……なんだよ」
身構えながら睨む煌に、朱雀はいつものような傲慢な笑みを消し、どこか縋るような影を帯びた声で囁く。
「明日の夜は、本当に……わしのそばにいてくれるのだな?」
「っ……仕事だって言ってんだろ、何度も! 燕花に頭下げて頼まれてっから、仕方なく残ってやるんだよ。勘違いすんな」
「そうだな。お主は優しいからな」
また、その言い方だ。
煌の刺々しい言葉を、今のあいつは静かに、まるで宝物でも受け取るように甘受する。
それが煌には、いつもの嫌味やからかいより、何倍も、何十倍もたちが悪かった。
(なんなんだよ、マジで……。そんな大人しい顔すんなよ、調子狂うだろ……ッ)
あいつの手の平の上で転がされている不快感とは違う、もっと泥沼のような、自分の本心をじわじわと侵食していくような焦燥感。
もうずいぶん経つのに消える気配のない首筋の『痕』が、朱雀の視線にさらされて、再びじくじくと熱を帯び始める。
煌は胸の奥のうるさい鼓動を隠すように、ぎゅっと奥歯を噛みしめ、朱雀から逃げるように視線を逸らした。
コメント
1件
えっと…っ、第45話読み終えたんだけど、まず朱雀様が「そばにいてくれるのだな?」って縋るような目と声で言ってくるとこ、心臓ギュッてなった!!😭💕 冷え切ってた空気なのに、煌が逃げるように視線逸らすのも、首筋の痕が熱を持つ描写も、全部エモすぎて叫ぶわ…。お守り役って言いながら実はめっちゃ大事な役目だし、煌の本心がじわじわ侵食されてく感覚がたまらんのよ…🫠💘 明日の作戦、どうなるんだろう…ドキドキが止まらない!!
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