───ガシャンッ……‼
何かに当たって、ガラスが割れる音がした。そこで、ハッと目が覚めた。
音の原因は、手元にあった花瓶。──血の付いた、花瓶…。
足元に伝わる、生暖かい液体の感触。目眩を連れてきた耳鳴り。
なんだか、喉が乾いてる気がする。何か叫んだのか。
生暖かい液体の正体を確かめようと、足元を覗いた。
──誰かが、倒れている。頭から血を流しながら。
…死んでる。多分、俺が殺したんだ。
記憶がない。何があったんだっけ……。どうして殺してしまったんだ。
あれ、?殺した……?
もしかして……これ、俺がやったのか…?
思考がそこまで行って、焦りが込み上げ始めた。
死体を抱えて、花瓶と一緒にクローゼットへ押し込む。近くのタオルで床に広がった液体を拭き取る。
風呂で、真っ白な髪に付いた血を洗い流す。服を、真っ黒なパーカーに着替える。そして、深くフードを被って、マフラーを巻く。
……ここから、逃げなくちゃ。
最低限に荷物を持って、外へ飛び出した。……行き場なんてないけれど。
なんとなくスマホを開いて、指名手配犯のサイトを開く。
結構、多いんだな。何十年も前に指名手配された人がたくさんいた。
連続殺人犯に、テロリスト。重犯罪だな。
ふと思う。俺のやったことは、軽犯罪なのではないのか。
こんなにたくさん、殺人している人もいるんだから。
スマホを見ながら、店と店の隙間へ歩いていく。
思ったより真っ暗なそこは、シンと静まり返っていた。
「君、何をやっているんだい?」
思わぬ場所から声がして、ビクッと肩を跳ね上がらせる。
もしかしたら、警察かもしれない……。
声の正体を確認しようと、キョロキョロと視線を巡らせる。
すると、後ろからポンッと肩を叩かれる。
後ろ……?なんで?
クルッと勢いよく振り返ると、サングラスをかけた長身の男がタバコを吸いながら、俺を見つめていた。
………この人…どこかでっ……!
手に持っているスマホを、チラッと覗き見る。
──間違いない。指名手配犯だ。
彼も、俺の持っているスマホをまじまじと見つめた。
「あぁ、俺か。知ってるんだ。俺のこと。」
この人の罪は、連続殺人、と記載されている。
もしかして、俺……殺され…。
「君も、人を殺したの?」
サングラスから覗く、濃い紫色の瞳がキランと輝いたように見える。
「俺には分かるよ。俺と同類だ。」
「はい…?同類…?」
訳が分からない。何を言ってるんだ。この人は。
少なくとも、俺には、彼が悪い人には見えなかった。