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週末。
向井は、しばらく眺めていたスマホを、ぎゅっと握った。
画面に表示されている名前。
[阿部亮平]
(今さら、って思われるやろな)
でも、他に頼れる人がいなかった。
意を決して、短く打つ。
【今夜、少しだけ話せませんか。】
送信。
すぐに既読がついて、数分後。
【いいよ。会社の近くで大丈夫?】
向井は、胸の奥がきゅっと縮むのを感じた。
夜の自販機の前。静かな公園。
「……久しぶりだね」
阿部はいつも通りの声で言った。
「すんません。急に」
向井は頭を下げる。
少しの沈黙。
「それで」
阿部が先に切り出す。
「何か困ってる?」
その一言で、向井の中で張りつめていたものが、ふっと緩んだ。
「……俺」
言葉を選びながら、向井は続ける。
「どうしたらええか、分からんくて」
阿部は何も言わず、待つ。
「ふっかさんが……」
向井は一度、目を伏せた。
「俺のこと、たぶん勘違いしてはるんです」
阿部の眉が、わずかに動く。
「優しくしてくれて」
「距離、詰めてきて」
「俺が離れそうやと思って、必死になってる」
向井は苦笑した。
「……ちょっとしんどくて」
「……それで」
静かに、聞く。
「なんで俺に言いに来たの?」
向井は、少しだけ迷ってから、はっきりと答えた。
「阿部さんやからです」
阿部の心臓が、強く跳ねる。
「俺」
向井は顔を上げる。
「ほんまは、まだ言わんつもりでした」
向井は拳を握りしめる。
「俺が好きなんは……阿部さん……です」
夜の音が、すっと遠のいた。
「ふっかさんちゃいます」
向井は続ける。
「最初から、違います!!」
阿部の胸が、強く痛んだ。
(……俺も勘違いしていた?)
「せやけど」
向井は目を伏せる。
「俺、ふっかさんも傷つけられへん」
深澤の顔が浮かぶ。
優しくて、必死で、間違っている。
「阿部さんしか、止められへん思って」