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春の連休。
海と蔵馬は旅行に出かけた。
目的地は温泉。
天気予報では雨の確率は少なく、良い旅になりそうだ。
「晴れて良かったね」
「そうだね、空気も綺麗だし」
カーデッキからは海の好きなボサノバが流れている。
昼食は途中に見つけた手打ちそばの店で取ることになった。
2人でセットのざるそばを食べ、海はご機嫌だ。
「さっきのお店、穴場だったね」
「うん、今度家族でこよう」
家族・・・お母さんたちとかな?
と考えていると、目的の宿についた。
その先には小さな湖がある。
部屋に荷物を置き海は
「この辺、見てこようよ」
と蔵馬を誘った。
「そうだね」
と言い、2人は湖のほうへ向かった。
「凄い、魚が見えるくらい綺麗」
「来てよかっただろ?」
「うん」
「この上にも小さな湖があるみたいだね」
「え?見たいな」
「駄目だよ、その靴じゃ。滑るよ」
海の履いていた靴は、デート用に買ったお気に入りの靴。
しかし、この時ばかりはスニーカーを履いてこなかったことを後悔した。しかも服もワンピース。
とても山を登るどころではない。
「もっと詳しく調べておくんだった」
海が残念そうに言う。
「まぁ、いつでも来ようと思えば来れるんだし」
「そうだけど・・・」
代わりに帰りはーと、遠回りして旅館に戻る。
「わ~、お布団がひいてある。嬉しい~」
と、海は早速布団の上に横になった。
「とりあえず、ご飯の前にお風呂に入ってくる?」
「うん!」
そういうと荷物をまとめる海。
「お風呂なら、部屋についているよ。ここ家族風呂だから」
「家族風呂?」
部屋の障子を開けると、そこには小さな露天風呂があった。
「ええ~、凄い。高いでしょ?」
「まあ、折角の旅行だからね」
「じゃあ、蔵馬が先に入ってきて。私、後からでいいよ」
蔵馬はキョトンとして
「一緒に入るんでしょ?家族風呂なんだから」
「え?でも、私達は家族じゃないよね」
「恋人同士じゃいけない?」
「いや、やっぱり先に入って!」
海が真っ赤になっているので、蔵馬はため息をつき支度を始めた。
(なんでいきなり???いくら小さいころお風呂一緒に入っていたからって、やっぱり蔵馬は分からない~)
と、海がのたうちまわっている間に蔵馬はお風呂から上がってしまっていた。
「飲み物、頼みたいものある?サワーもあるけど」
「う~ん、アルコール入ってお風呂もなんだから、ソフトドリンクにします」
「オレンジ、りんご、ぶどう、グレープフルール、コーラ。どれ?」
「オレンジジュース」
「分かった」
そう言って蔵馬は電話をかけた。
やがて食事とともに、飲み物が運ばれてきた。おかずはこのあたりで採れたとみられるイワナや山菜の天ぷらなどもある。
「「いただきます」」
2人して手を合わす。
海は山菜の山胡桃和えが、気に入った。
(いいなあ、昔住んでいるところに胡桃の木があったなぁ)
「昔住んでいたころを思い出すね」
「うん!蔵馬沢山採ってくれたよね。胡桃」
「海は木登りが下手だったからな」
「木登りが得意な狐のほうが珍しいと思うけど?」
「狩りをするのも下手だったし」
「蔵馬よりは走るの早かったもん」
「それより、転ぶ方が多かった」
「そんな子供のころの話を蒸し返しても」
と、海はふくれた。
「人間になった時はどうだったの?」
「え?」
「中学のときとか、高校のときとか」
「運動は得意だったよ。部活には入らなかったけど。蔵馬は?」
「オレ?」
にこっと笑った蔵馬。
それを見た海は
「そうでしょうね。さぞ得意だったことでしょうね」
と、言った。
「オレは部活入っていた。必須だったからね」
「へぇ~。進学校だから免除かと思ったわ」
「何部だったと思う?」
「運動系でしょ?」
「残念でした。文科系です」
「吹奏楽部?」
「残念、生物部」
「えー、何やっていたの?ウサギとか飼っていたの?」
「まさか。まあ、想像にお任せします」
生物部・・・生物部・・・。なんか試験管の中でマクロファージと炭粉の実験とかやってそうな。
海が考えを巡らせていると、蔵馬に
「ご飯覚めちゃうよ」
と言われた。
「そうね」
そう言って海はお吸い物を飲み込んだ。
食事が終わると、客室係が食器を下げに来た。
「お風呂、入るでしょ?」
「・・・入るよ?」
「背中流してあげよっか?」
「結構です!」
そう言って、海は荷物をまとめて障子を閉めた。
家族風呂とはいえ、足をのばして入るお風呂尾はやっぱり気持ちがいい。
そして今夜は新月。
星が綺麗に見える。
(そういえば魔界っていつも雷ばっかり。天文学上、どうなっているのかしら?)
なんてことを考えてた海はのぼせてしまった。
布団に臥せる海に蔵馬がうちわで扇ぐ。
「そんなになるまで入らなくても、明日の朝にもう一回入ってもいいのに」
「だって、星が綺麗だったんですもの」
「水、飲める?」
「うん、ありがとう」
海は冷蔵庫のミネラルウオーターをごくごく飲んだ。
「もう、大丈夫?」
「うん、なんとか」
蔵馬がお得意の耳いじりを始めた。
「辞めてよ。眠れない」
と言っても一向に辞める気配はない。それどころか足に手が回ってきた。
なので背中をパンパン叩いて抗議。
「海、初めてだよね?」
「何が?」
「男とこういう仲になるの」
そう言って浴衣の中に手を入れられて、海は思わず叫びそうになった。
「やだ・・・」
「なんで?」
「だって・・・赤ちゃんできたら困るもん」
「オレは困んないけど?」
「結婚してないと嫌」
「・・・もしかして、オレ結婚するまでお預けさせれるの?」
「当たり前でしょー。蔵馬のバカッ」
「それは知らなかった」
蔵馬はそう言って背を向けて寝てしまう。
(そんなことで気を悪くしなくても・・・)
海は困ってしまった。
そして更に困ったことに、蔵馬の機嫌は翌日まで戻らなかったのである。
仕事はじめ。
海は満員のバスに乗る羽目になった。
蔵馬が迎えに来なかったのである。
小さい海にとって満員のバスは最大の敵。
まず、つり革を掴むのがつらい。
そして、痴漢が出没する。
さっそくお尻に手が当たった。
海は逃げるようにバスを降り、タクシーで会社に向かう羽目に・・・。
「海ちゃん、具合悪いの?」
先輩職員が海の様子を見て言った。
「痴漢が出たんです~」
と答えると
「そんな奴、針で刺してやればいいのよ。撃退用の針、貸してあげようか?」
「いえ、明日から早いバスに乗ることにしました」
「そんな奴のために時間を無駄にしなくてもいいのに」
と、先輩は言うが嫌なものは嫌である。
帰りは本屋で時間をつぶすことにした。
丁度、海がよく読む料理雑誌の発売日。
何か作れそうなものはないかなーと手に取っていると、上から本を取られた。
「蔵馬・・・何しているの?」
「何ってこっちのセリフだよ。いつものところで待っているのに来ないと思ったら」
「いいの。今日はバスで帰る!」
「送っていくって」
「いい、ずっと送んなくていいから」
海がそういうと、腕を掴まれ本屋から出された。
「オレに触らせないで痴漢ならいいってどういうこと?」
「なんで知ってるの?」
「オレの耳は特別」
「?」
「妖怪だから聞こえていた、今朝の会話」
「・・・・」
「ほら、ちゃんと明日から迎えに行くから。他の男に体を触らせるのは辞めてくれ」
「私が頼んだわけじゃないって」
その後、蔵馬によって無事に家まで届けられた海だった。
次の日の帰り
「ちょっとデパート寄っていくから」
といきなり言われた。
言った先は宝飾店コーナー。
海にとっては未知の世界である。
「お母さんへの贈り物?」
「違う、海へのエンゲージリング。ダイヤモンドかタンザナイト!ーで、いいだろう?」
「え?まだそんなのいいよ」
と言っているすきに店員が。
「ダイヤモンドとタンザナイトをお探しですね?」
と言い、ショーケースを開け始めてしまった。
「当店は色石にも力を入れておりまして、ただいまタンザナイトはこのような石が入っております」
そう言い取り出したのは、大きいサファイヤ。
蔵馬はそれを受け取り
「グリーンのタンザナイトは入らない?」
「は?グリーン・・・。グリーンなんてありましたっけ?」
と慌てて、タブレットで検索しだした。
「あ・・・それは~博物館ものですね」
ははは・・・と乾いた笑いが出た。
「それならダイヤで裸石からおつくりしましょうか?」
「いくつか見せてください」
「えっとですね、こちらと、こちらですね。どちらも4C、滅多にない代物ですよ」
「・・・もっと不純物少ないのは?」
「え・・・」
「タイプⅡダイヤモンドとか」
「いや・・・それはハリーウイストンさんとかカルティエさんになりますね・・・」
店員も流石に引き始めた。
「いいって。まだいらない。もうデパート閉まるよ」
と海が腕を引っ張ると、蔵馬はため息をついてやっとついてきてくれた。
「なんでいきなり指輪なの?」
「それは海が形から入りたいって言うからだろう?」
「だとしても、唐突すぎるよ。それに私と石とは同じものなの?」
「・・・じゃあ何が欲しいの?」
「・・・なんもいらない」
「いつまで待たせるの?」
「結婚しなくてもいい」
「え?」
「いいよ、結婚しなくて」
「今からでもいいってこと?」
「それは駄目。ピル貰ってから」
「オレ、避妊はするけど?」
「それでも、飲まなきゃヤダ」
「・・・分かった。今度産婦人科に行こう」
そう言われ、海はほっとした。
蔵馬に送っていってもらった後、涙がとめどなくあふれてくる。
こんなにも気持ちが違うものなのか、蔵馬は本当に自分が好きなんだろうか?
自分が死んでからも生き続けている蔵馬の女性関係などなど、悪いことばかり考えてしまう。
(実は奥さんがいたら、どうしよう・・・)
土曜日の朝。
目覚ましが鳴る2時間前に海の目は覚めてしまった。
今日は蔵馬が遊びに来る日。
いつもなら楽しみなはずが、今日は死刑台に上る死刑囚のような気分だ。
一応は知識として知っているが、まさか自分がする羽目になるとは思わなかった。
今日は勝負下着!!ーという余裕もなく、冷酷にも約束の時間は来てしまう。
ピンポーン
とチャイムが鳴る。
海がドアを開けると、そこにはいつもの蔵馬がいた。
「夕食、どこに行くかリクエストある?」
蔵馬のためのコーヒーを落としていたら、そんなことを聞かれた。
「ううん、特には」
「どうしたの?食欲ないの?」
「うん、あんまり」
「じゃあオレが何か作るね。作れるものは限られるけど」
「蔵馬、作れるんだ。知らなかった」
「昔、母さんが長期で入院したことがあるって言っただろう?」
「ああ、確か霊界のなんたらって鏡で治したって話のことね?」
「そう、その時は自炊もしたし母さんの好きなものを作って持って行ったりしてたから」
あの時会ったお母さんが、そんな大病にかかっていたとは思えないくらいだ。
もの凄い魔法の鏡があるものだなぁーと話を聞いたときは思ったものだ。
蔵馬は冷蔵庫の中のものを見て、「買い物に行こうか?」と言った。
じゃがいも、トマト、ブロッコリー、鶏肉・・・ときて、最後にカレールウをかごに入れた。
「夕食はカレー?」
「当たり、ってこれで外れる人もいないけどね」
と、かごの中のカレールウの箱を見て言った。
家に帰って玉ねぎの皮をむき始める蔵馬。
結構手際がいい。
あっという間にカレーは煮込むだけになってしまった。
「あと、これはデザート」
と言って取り出したのはヤマモモだった。
「え?人間界のヤマモモってこんなのなんだ」
「食べてみて?」
海は一粒食べてみた。
「おいしい」
「それは良かった」
いつもの優しい蔵馬。
それを見てほっとする海。
「今日は蔵馬、家に帰るでしょ?」
「なんで?勿論泊まっていくけど」
「ええ?駄目だよ。帰らないと蔵馬の家族にばれちゃうでしょ?」
「・・・海、オレ達年末から正月明けまでずっと一緒だったし、帰らないのも今日が初めてじゃない。もうオレの家族はとっくに海とオレとはそういう仲だって思っているから」
「え・・?家に泊まらせてもらったときも、そう思われていたの?」
「勿論」
(まさか、あの蔵馬のお母さんにそんな目で見られていたとは!!)
動揺して赤くなる。
「ちゃんと、説明してくれたらいいのに。まさか弟さんとかも思っているんじゃないでしょうね?」
海がそう言うと
「秀が一番関心を持っていると思うよ?お年頃だし」
お年頃・・・海が高校生の時、クラスの男の子はそんな話はしていなかった。漫画雑誌を読みまわしていたり、テレビゲームやスポーツ番組の話ばかりしていた。
一方で女子は好きな先輩に告白するだとか、部活の試合の応援に行くだとか、小さなメイク道具の話をしていた。
そういう記憶がある。
「私達の時代って、そういう話。出なかったよね?弟さん、進みすぎなんじゃない?」
そう海が尋ねると「男が女子の前でそういう話をすると思う?」と反論される。
そういえば、先輩に告白されたことはあったな・・・。あの時の先輩もこんなことを考えていたのだったのか?と思うと混乱してくる。
「昔、付き合っていたやつのことでも思い出した?」
「つきあってたというか、いないというか・・・」
確かに海は高校の時に先輩に告白され、付き合った。
ーとは言っても、朝と帰りに話す程度でお互いのことをあらかた話した時点で、先輩は受験勉強で忙しくなり自然消滅。そんな感じであった。
「付き合っていたの?」
「多分、おつきあいごっこみたいな感じだった。一応進学校で予備校とかで忙しくなってそれっきりだし」
「ふ~ん」
「そういう蔵馬は何人も彼女いたんでしょ?」
「オレはいなかったけど?」
「でも、魔界で暮らしていたことはいたんでしょ?お付き合いした女の人の一人や二人」
「いない。お仕事が忙しかったの」
ーお仕事。
海には言っていないが、勿論盗賊である。しかも極悪非道妖狐蔵馬ーと、まぁ長い名称で呼ばれるくらいには有名になったという。
「あ、でも。好きな人はいたんでしょ?ほら、宝石屋さんで凄い知識もっていたじゃない」
まぁ、それも”お仕事”の範疇・・・なのだが。
「宝石鑑定のお仕事もしていたからね」
と蔵馬が応じると、海は「そういえば昔、凄い宝石持ってきたことがあったね」と妙に納得していた。
「もうそろそろ、カレーもいい具合に煮えたかな?」
そう言うと、蔵馬は立ち上がって、ガスコンロに向かった。
そう言えば、部屋にはカレーの匂いが充満している。
「お腹すいたら言って、よそうから」
「あ、うん。ありがとう」
時計を見ると、17時を回っていた。
「蔵馬、料理上手だね。同じ材料なのに私と味が全然違ってた」
「それは良かった。また作るよ」
「うん、楽しみにしている」
それから2人は小説が原作の推理ドラマを見た。
それが運がいいのか悪いのか、その推理ドラマは特集で2時間の構成。
海は内容が面白かったのか、ドラマに夢中である。
「物理って難しいと思ったけど、数学って考え方が凄いのねぇ。宝石とかなんとかって・・・。6時間も同じ問題を永遠に解いていていて楽しいだなんて・・・・。頭のいい人ってどういう脳の構造しているのかしら?」
「リーマン予想は今はもう、決着はついているんだよ。ただ、慎重な学者が多くて”正しいとされる”という位置に置かれているけどね」
「蔵馬、数学得意だったの?」
「割と。海は?」
「私はどちらかというと、文系だったかも」
そうつぶやき、海は
「蔵馬の高校に海藤優って人、いなかった?」
と、思い出したように言った。
「いたよ。クラスメートだった」
「嘘!サインとかもらった?」
「貰わない。別にオレはあいつのファンじゃないし」
「そっか~、うちの学校でも有名だったんだよ。海藤君。うちの学校に来ない!とか先生たちが慌ててたっていう噂があったもの」
「オレの学校でも有名だった。そういえばオレの正体を知っている人間の一人でもあったな」
「え?霊界探偵とかだったの?」
「いや、簡潔に話すと魔界に穴が開いちゃったときに、近くに住んでた人間が特殊な能力を持っちゃたんだ」
「へぇ、それで?」
「海藤もその一人で、オレと対決したわけ」
「ええー、蔵馬が喧嘩したの?」
「いや、喧嘩って言っても、あいつの能力は決められた言葉を口にしたら魂を抜くって能力だったから、物理的なものじゃなかった」
「凄い危険な能力だね。んで、抜かれちゃったの?」
「・・・なんでオレが負けるって思っているわけ?」
「いや、相手は言語のスペシャリストでしょう」
「まぁ、こっちのルールでやらせてもらったから」
「え?そんなのありなの?」
「向こうが同意すればね」
「よく同意したね。私だったら絶対に嫌だな」
「海が相手じゃなくて良かったよ。あいつは乗ると思ったから。まあ乗ってくれなくっちゃ勝負がつかなかったんだけど。幽助が人質に取られてたしね。早く済ませたかったんだ」
「ええ?どうやったらあの幽助君が人質になるの?そんなに強い人がいたの!」
「いや、相手の能力が影を踏んだら動けないってやつで、やられたわけ」
「? 幽助君って強いんでしょ?」
「でも、その時は相手にそんな能力があるとは思ってなかったから簡単に捕まえられたんだよ」
「ええ?・・・でも、一体どーやったら中学生の男の子一人運べるの?」
「この対決を仕込んだのが、幻海師範でオレ達の性格を分かったうえでの罠だったんだよ」
「凄い人だね・・・。流石年の功。んで海藤君に勝ったんだ。それも凄いけどなんで海藤君は生きているの?」
「師範がすぐ魂を体に戻したから」
「へ~、結局、その師範のおばあさんの思うつぼだったわけね?」
「オレはうすうす分かってだけど?」
「そうなの」
海の言い方が軽かったので、蔵馬は”オレだけは引っかからなかった”を強調しておいた。
「でも、飛影さんも海道さんに勝ったよね?ずっとみんなで示し合わせて黙ってたんでしょ?」
「いや、飛影はタブーの最初の”あつい”で魂抜かれたよ」
「・・・?なんで?」
「そのまんま、暑いと言ったらどうなるんだ?って言ったから」
「? 純粋な人なの?それとも男らしいっていうの?」
「まあ、その判断は海に任せるとしてー」
「桑原君は大丈夫だったんでしょ?確か凄い頭のいい大学にいっていたよね?」
「それが、アとツとイをくっつけて言ったら駄目だというもので、ジュースを飲むときに言っちゃったんだ」
「なんか、実はこんなルールもありましたって・・・後だしじゃんけん的なものじゃない?でも、なんでジュースなの?」
「あ、ついでにストローもつけてな。氷も入れてくれよ。で、ア、ツ、イ」
「凄い!海道君って頭いいね~。だれもそんなこと考えないよ」
海が笑った。
「ちなみに、ぼたんもそのまんま言った」
「・・・うっかりものなのね」
「まあね」
「それで、幽助君は助かったの?」
「いや、最後の3人目の能力がコピーだったんだ」
「コピー?」
「触れた人間の姿形から思考までコピーできるってやつ」
「ええ、ちょっとうらやましい能力ね」
「海の考えていること丸わかりだけどね。それで偽物を思いっきり殴れば終わりってな終わり方をしたわけ」
「随分ひどい方法じゃない?殴られた人、生きてた?」
「まあ、大丈夫だった。幽助もそんな乱暴に殴っていないし」
「そう、やっぱりみんな仲良しだったのね。で、ついでに海道君と友達になれたし結果オーライだったんだ~」
「そんなところだね」
気が付いてたら、テレビの推理番組はとっくに終了していた。
「ああ、結局最後どうなったのか見れなかった~」
「もう、小説化しているんだから図書館で借りられるんじゃない?」
「あ、そっか。明日借りてこようかな?」
「じゃあ、明日は図書館に行こう」
「町のおっきいところがいいな」
「うん、分かった」
「あ、蔵馬。もうこんな時間。帰らなきゃ」
「いや、今日は泊っていくって言ったでしょ?」
「言ったっけ?」
「うん、言った。今日の目的忘れてないよね?」
(目的?)
改めて考えた海は、しぼんでいった。
「シャワー浴びてくる?」
蔵馬に聞かれ、海は頷いた。
浴室に入ってシャワーを出して、これからのことを考える海。
(えっと、髪の毛洗って。体・・・2回洗おう。あと触られるところって)
コンコン
浴室のドアがノックされる。
「まだ?」
「・・・もうすぐっ」
浴室から出てきたとき、蔵馬はベットに座っていた。
「蔵馬もシャワー、浴びてくるよね?」
「うん、借りる」
蔵馬が浴槽に入っていったあと、海は電気を消して服を脱ぎ、急いでベットにもぐりこんだ。
(これで大丈夫だよね?)
ドキドキして待っているとすぐ、シャワーの音が止まってドライヤーの音が聞こえてきた。
(蔵馬、髪の毛長いから乾かすのに時間かかるよね?)
という思いも意外に空しく、ドアが開く音。
「海?なんで電気つけてないの?」
「点けないで!もう服脱いじゃったから」
「そう?」
ギシ・・・
ベットに蔵馬が座る音。
海はミノムシのように布団にくるまっていた。
「そんなにされたら、できるものもできないじゃない?オレも布団に入れてくれない?」
「・・・・」
「いいの?勝手に触っても?」
と、布団の外から蔵馬の手が海の頭を撫でた。
少し安心していると、布団がめくられる。
「痛くしないから。体、障らせて」
と、手は頭から肩。背中へと這っていった。
そして臀部へ移る。
(蔵馬のエッチ~)
と海が思ったのもつかの間。
指は股の間に入っていく。
「蔵馬、そこはヤダ!触らないで!」
「ここ、じっくり触っておかないと、上手くできないから」
そう言って手を放そうとはしない。
そして仰向けにされ、耳をいつものようにいじりだす。
「蔵馬、こそばいって」
「~~~」
だんだん、言葉にならなくなってきた海。
耳をいじっていた蔵馬の口が首をつたって胸元まで降りてきた。
海は抗議の声をあげるも蔵馬は聞いてくれない。
蔵馬の指はとうとう、海の膣に侵入して動き出した。
濡れていくのを感じる海は、パニックになっていった。
「ヤ・・・メテ」
それでも、動きは止まらずとろとろになっていく。
海の目から涙がこぼれた。
(怖い!)
と思ったらことは終わっていた。
「海、電気つけてもいい?」
「だ・・・だめ」
「いや、薬作りたいんだけど」
(薬?傷んだところにつけるんだろうか?)
「分かった、つけていいよ」
と言ったら、電気が点いた。
おそるおそる蔵馬を見ると、耳を押さえている
「耳、どうかした?」
「自分でやっておいてそれはないだろ・・・。これ、海にかまれたの」
見ると、蔵馬の耳から血が出ていた。
「妖狐の時じゃなくて良かったよ」
そう言いつつ、床から生えてきた草をむしって手でこねている。
「ごめんなさい。でも待ってって言ったよね?」
「海の言う通りしていたら1日たっても終わらないでしょ」
蔵馬は器用にガーゼを使って自分の耳を手当てをした。
海のほうも下半身は不快だわ、シーツは汚れるわで散々。
(まさか同じことされるとは・・・)
蔵馬は昔の失敗を思い出していた。
「頭の耳の傷つけたやつって、恐ろしい死に方をするんだろうな」
そう、部下が話していたことがある。
極悪非道と称される妖狐蔵馬の片耳は裂け目がある。
それを見た者は皆、敵にやられたのだが復讐するまで治さないのだろう。そう、思っていた。
その当時の蔵馬は確かに傷を治そうと思えば、治せた。
だが、あえて治そうとは思わなかった。
傷をつけたのは、同居していた妖狐。樹利亜だったのだ。
幼いころは感じなかったが、成長するにしたがってお互い、体形が変わっていった。
たまにしか帰らなくても、蔵馬は樹利亜が確実に女になっていくのを感じていた。
そしてたまたま帰った時、樹利亜が他の男に花を贈られるところを見てしまったのである。
樹利亜は嬉しそうに花を受け取り、部屋に飾った。
蔵馬は樹利亜はいずれ、自分のものになるーと考えていた。
だから、若い彼は焦ってしまった。
つまりは無理やり、性交に及んだのである。
当然、樹利亜は必死に暴れ蔵馬の片耳を食いちぎった。
自分の鮮血が樹利亜の白い肌に落ちていくのを見た蔵馬は、樹利亜の首筋に歯を立てた。
樹利亜はショックで気を失い、蔵馬も致命傷にはならないが、樹利亜の首に跡が残る傷をつけてしまったことに後悔する。
その時は薬草のことに知識が長けていなかったので蔵馬は自己流で樹利亜を手当てをして、家から離れることにした。
それから数百年。蔵馬と樹利亜が顔を会わせる機会はなかったが、蔵馬は使い魔を使って時々、樹利亜の様子をうかがうことにしたいた。
使い魔から樹利亜の姿が確認できないーという報告が入った時、蔵馬は樹利亜を探しにいった。
会ったとき、樹利亜は鎖につながれた生活をしていた。
ショックだったのは彼女の下腹部が大きく膨れ上がっていたこと。
誰かの子を身ごもっている。
見ないでーと樹利亜は言った。
泣いている樹利亜の首筋には、くっきりと自分の牙の後が残っていた。
樹利亜の鎖を切り、解放してやるのは簡単だ。
しかし、このままだと樹利亜は違う男との間の子を産むことになる
子供を殺す樹利亜も、いつくしむ樹利亜も見たくはなかった。
なので、殺した。
飲ませた毒は、すぐ樹利亜の全身にいきわたり樹利亜は数分で息絶えた。
息絶えた樹利亜の指には昔、蔵馬が買ってあげた指輪がはめられてあった。
蔵馬はそれを、樹利亜の遺品として持ち帰った。
そして数年後。
強くなった蔵馬は、樹利亜をとらえてた妖怪をもっとも残虐な手口で殺した。
その妖怪の子孫も、一匹残さず殺した。
それ以来蔵馬は愛することを忘れ、欲しいものはどんな手段でも手に入れるようになっていった。
樹利亜を襲った妖怪は、自分の国を作ろうとしていた。そのために駒となる自分の子供を作るために必要な女をさらっていた。
特に妖狐から生まれる子供は強い妖力を持つと言われているので、妖狐である樹利亜は妖怪にとっては格好の標的。
樹利亜はあっさにと捕まり、子を身ごもらされてしまった。
のちに蔵馬も国を作ることを目標に生きることになる。
気が付いたらココアのいい香りがした。
目を開けると蔵馬がキッチンに立って朝食を作っている。
「おはよう。眠れた?」
「お・・はよう。うん」
昨日は眠れないと思ったのにーいつの間に寝ていたのだろう?
「パン屋さんで焼きたてのクロワッサンを買ってきたんだ。食べるだろう?」
「うん」
「卵はどうする?」
「スクランブルエックがいい」
「OK」
そして海は気が付いた。自分がパジャマを着ていないことを。
素早く、布団を体にまきつけお風呂場に向かった。
そしてシャワーを浴びる。
(昨日は大変だったなぁ。蔵馬もに悪いことしちゃった。けど、辞めてくれなかった蔵馬も悪いよ)
そして着替えを持ってこなかったことに気が付いて、再び体に布団を巻き付け衣装ケースから一式取り出し洗面所に戻った。
「早くしないと、冷めちゃうよ」
着替えて居間に出ると、カフェで出されるようなようなモーニングが出来上がっていた。
「素敵」
「良かった。食べたら図書館に行こう」
「うん」
海は頷いた。
体はまだ下半身に違和感がある。でも蔵馬には言いたくなかった。
朝食を終え、車で図書館に向かい昨日見た推理ドラマの原作本を探す。
蔵馬は経済のほうを見てくると言って、別の階に行ってしまった。
(あった、これだ)
ついでに海は同じ作者の本も何冊か借りた。
本を借りていると、蔵馬も気になるものがあったらしく列に並んでいた。
「蔵馬もいいの見つかったんだ、良かったね」
「まあね。それよりどこか行きたいところある?」
「特には考えていなかったけど?蔵馬はないの?」
「今日は休日だからなぁ。町も混んで知るだろうし」
「私の部屋に行く?」
「そうだね。休日だしごろごろしているか」
2人は適当に食品を買い海の部屋に戻った。
早速、昨日のドラマの続きを見たくて小説を開く。
海は一気に読み終えてしまった。
(ううう・・・悲しすぎる。こんなピュアな人がいたら。こんな素敵な人がいたらいいなぁ)
ふと見上げると、蔵馬も本に目を落としている。耳にはガーゼ。
悪気がないとはいえ、なんだか痛々しい。
会社や家族になんて言われてしまうか心配になった。
(やっぱり男同士だと「彼女が処女で、かまれたんだ、最悪だった」とか話したりするんだろうか?)
そんなことを考えたら、こっちにも言い分はある!と言いたくなる海であった。
「もうお昼だけど、食べに行く?それとも何か作ろうか?」
「スパゲティで良かったら作るよ?」
「いいね、楽しみに待っている」
海はキッチンに行き、冷凍庫から手作りのトマトソースを取り出した。
ひき肉と玉ねぎのみじん切りを炒め、ミートソースを作っていく。
アドガボとエビのサラダに野菜のスープ。蔵馬にはブラックコーヒー、自分にはカフェラテ。
「できたよ、蔵馬。食べよう」
「うん、美味しそうだね」
食べ終わって海が食器を洗っていると、蔵馬が後ろからそっと抱きしめてきた。
「お皿洗っているから、離れて」
「このままでも洗えるだろう?」
そう言われればそうだが、なにやら恥ずかしい。
蛇口を閉めると、本格的に蔵馬は抱きしめてきた。
うなじに唇がつけられる。
「やだ、蔵馬。恥ずかしいよ」
。
「時間はたっぷりある。今日も泊っていくしね」
(え?今日も?)
「あの・・・昨日したばかりで、今日はちょっと」
「体が辛いの?」
「う、うん。あんなことされて平気だと思う?凄いびっくりしたんだから」
「ふうん・・・」
蔵馬はいたずらっ子のように言った。
「本当に分かっている?」
「うん、でも毎日やったほうが早く慣れるよ?1カ月は大丈夫なはずだろう?」
「確かに、ピルは貰ったけど・・・」
「大丈夫、そのうち気持ちよくなるって」
「・・・なんでそんなこと知っているの?」
「だてに長年生きてやしないさ」
「・・・女の人とそういう仲になったことがあるの?」
「無かったーと言ったら噓になるな」
「くーらーまー。私は初めてだったのに」
「誰にでも初めてはあるよ、そう思わない?」
(やだ・・・蔵馬って恋人はいないけど女性関係はあったんだ。色情魔だったなんて)
「嫌だな、目的は恋愛じゃないよ。情報収集のためとか、性欲解消のためとか。オレも男だからね」
「・・・そうね。私に声をかけたときもライバル会社への情報が欲しかったからよね?」
ここで蔵馬はしまった、と思った。
確かにそういう風な出会いにとらえられても仕方がないが、あれは本当の目的は海にあったのに・・・って言っても今は信用してくれないだろうな。
「オレが海に触りたいのは、愛しているからだよ。これは誓って本当」
「今は信じれない」
海はご機嫌斜めになってしまった。
「夏はどこか旅行に行く?プールとかで遊ぶ?軽井沢とかにでも行ってみる?」
「・・・それは後で考えましょう。蔵馬は家で仕事したいんじゃない?」
「この耳で帰ったら何言われるか分かんないでしょ。明日には治るからここにいさせて」
「え?そんなに早くは治らないでしょ?」
「オレは植物使いだからね。この位の傷ならすぐに治せるの」
「蔵馬っていつの間に、そんな力つけたの?今は本当はすごく妖力が強いのよね?」
「まぁ、霊感のない海には分からないけどね。大丈夫。人間界でS級妖怪にはならないから」
「それって元の姿の蔵馬ってこと?」
「そういうことだね」
海の中では思春期の頃の蔵馬しか覚えていない。大人になった蔵馬は一体どんな姿になっているんだろう?
興味が湧いてきた。
だけど、魔界でしかその姿はお目にかかれないし、今の海は魔界には行けない。
ーので、諦めることにした。
目に入ったのは、シャツを着る蔵馬。
「起きた?海」
「・・・・・」
「後で迎えに来るから、会社に行く支度をしておいてね。じゃあ、オレは実家に行ってくるから」
蔵馬の耳のガーゼは無くなっていた。本当に治ったらしい。
海はまた布団にもぐった。
昨日のことを思い出すと、もうどうしていいか分からない。
(ああ・・・あんなところ舐められて、もてあそばれて・・・汗で体は濡れているし)
それでも時間は止まってくれない。
海はお風呂場に行って入念に体を洗った。
(このままいったら、私の体はどうなっちゃうんだろう?あんなに頻繁にしたら膣が広がってしまうのではないだろうか?)
鏡を見ながら薄化粧をしていたら、チャイムがなった。
海は化粧ポーチをしまい、玄関に向かう。
「会社に行こうか?」
と、助手席のドアが開けられる。
いつもながら、スマートな手つき。
海は蔵馬の車で会社に向かった。
昼休み。
海が職員とお弁当を広げていると、女性職員から買い物のお誘いがきた。
「ちょうどバーゲンやっているからさ。見るだけ見てみない?」
「たまには海ちゃんと外で話したいしね」
そう言われると断れないし、女同士の買い物も素敵に思える。
なので、蔵馬に今日は一緒に帰らないことをメールした。
だいぶ、時間がたってから
”分かった”
とだけ返事が来た。
就業時間が終わって、女子社員と町に行った海。行先は老舗メーカーの下着屋さんだった。
ものはいいのだが、高いので海は持っていない。
「どう?海ちゃん、これなんか?」
と見せられたのは、噂のTバック。
「そ、そんなの無理です~」
「え?パンツ履くときシルエットが綺麗にみえるし、彼氏も喜ぶよ?」
「海ちゃんの彼はどんな下着が好きなの?」
「し、知らないですよ。見せたことないですもん」
「ええ?あの、関係は持ったことあるのよね?」
海は赤くなって頷いた。
「彼氏、好みの下着とかリクエストしてこない?」
「そんな!部屋を真っ暗にして、さっさと脱いじゃってますもん」
女子社員は顔を見合わせ
「殆どの男は脱がせるのが好きだよ?」
「せめて下着ぐらい見せてあげたら?」
と、アドバイスしてきた。
それからーこれが似合うだの、あれがいいだの強引な流れでワンセット買わされた。
白を基調としているのはいいのだが、パンツの生地が少なすぎて・・・しかも紐で結びつけられていてちょっと・・・どうするんだ私ーと思っていた。
セールであっても1万円は軽く超えたし、他の下着を買うなんて不可能だ。
そのあとは、女子会。
カクテルがなんと100種類もあって、5千円以下の食べ放題。
先輩のペースに合わせていたら、ついつい飲みすぎてしまった。
(カクテル4杯はきつい・・・だめだ、タクシーで帰ろう)
お金がもったいなかったが、タクシーでうちまで向かった海。
鍵を開けて中に入る。
冷蔵庫の中のお茶を取り出し、飲み干した。
そして鏡の前に座って、下着を取り出す。
(やっぱり、このパンツは抵抗あるなぁ)
「へ~、嬉しいなぁ。海がオレのために下着を買ってくれるなんて」
と、誰もいないはずの部屋から声がした。
「え?」
「わりと遅く帰って来たね」
後ろでは蔵馬が腕組して立っていた。
「来てたんだ」
ーと、下着に気が付いて隠した。
「もう見ちゃったよ。さ、着てみて」
「えええ~、それは嫌」
「見たい、早く。寝る時間無くなるよ?」
「って、まさか・・・」
「勿論、今日も泊るよ」
「嘘でしょう?」
「1カ月有効に使わなきゃ」
「~~~~」
「さ、着替えてきて」
海は仕方なく、洗面所に向かった。
そして、着替えていたら再び酔いが回ってきてそのまま眠ってしまうのだった。