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竜崎
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「いい夏休みを過ごすように!解散!」
先生の声が教室に響く。
その瞬間――
「っしゃあああ!!」
「夏休みだぁぁ!!」
一気に空気が弾けた。
「おわったぁ……」
渚が机に突っ伏す。
「テストからの解放感すごいね」
紅葉がくすっと笑う。
「てか、予定立てようぜ。遊びたい!」
陽向が立ち上がる。
「いいね〜!プールとか行きたい!」
「海もいいね」
「さすがに……全部は無理だろ」
雪斗が呆れたように言う。
「えーじゃあ何するのよ」
「まず最初は……」
紅葉が口を開く。
「週末、花火大会なかったっけ?」
「あー!あったあった!」
「マジ?」
「じゃあそれ行こうぜ」
「決まり!」
教室内にさまざまな話が流れてくる。
そんな会話も耳に入らず、こはるは窓から青空に浮かぶ白い月を見ていた。
(……夏休み)
(……あと、どれくらい………)
「……る」
「…はる」
「こはる、聞いてる?」
「!!?」
紅葉の声で我に返った。
「は、はい!何でしょう!?今日のお昼は野菜スティックです!!」
「ぷっ!」
「何言ってんの(笑)」
「もっと食べないと体力持たないよ!」
少し顔が熱くなるこはる。
「いや、週末の花火大会。こはるも行くでしょ?」
「あ、はい!もちろんです!」
「だよね〜!」
渚がニヤリと笑う。
「ねね!祭りの日、こはると紅葉はうちに集合ね!」
急な提案に頭を傾げる2人。
「ん?いいけど」
「どうかしましたか??」
「ん?俺らも行くなら行こうか?」
家を知っている雪斗が問いかけるも……
「男子は来なくて結構!」
ピシャリと断られてしまった。
「あんたらは期待して待ってなさい!」
この顔は何か企んでいる顔だ……
雪斗と陽向は長年の付き合い。
それ以上は何も聞かなかった。
⸻
祭り当日 渚の家
「へぇ…渚着付けできるんだ。」
「ふふふ……私だってちゃんと女の子やっているのだよ」
そう言って紅葉に浴衣の着付けをしている。
「それにしても、よく3人分も浴衣ありますね」
「なぜかうちの家系、女子には着付けを覚えさせる伝統?みたいなのがあるらしくてね」
「お母さんやおねぇちゃん。なんなら従姉妹もみんな出来るし、その浴衣とか着物がうちに置いてあったりするのよ。」
「そうなんですね……」
そう言いながら貸してもらった自分の浴衣の着付けをするこはる。
「…って言うか……しれっとこはるも着付けしてるじゃん」
紅葉がこはるの方を見て驚愕する。
「お、いつの間に!って言うか普通に綺麗に着付け上手いし」
渚も手を止め、こはるの着付けをまじまじと見ていた。
「あ、いえ……昔ちょっと教えてもらったので……」
少しだけ視線を逸らす。
「でも、これで男子はびっくりするだろうね(笑)」
そう言いながら、紅葉の着付けを再開した。
「陽向に見せたいもんね」
ニヤリと笑う紅葉。
「ちちちち違うよ!」
図星を突かれ、動揺する渚。
「い……いたたたたた!!いたいいたいいたい!!」
帯を締める手に力が入ってしまったようだ。
「ごめん!謝るから少し緩めて!」
完璧に自分の着付けを終わらせたこはる。
そんな2人のやり取りを見て、くすくすと笑っていた。
⸻
雪斗と陽向が集合場所の商店街で待っていると、遠くから声が聞こえた。
「おーい!」
声の方を見ると、浴衣姿の渚が大きく手を振って歩いている。
後ろには同様に浴衣姿のこはると紅葉。
「雪斗……俺明日死んでもいいわ」
「ご自由に(笑)」
浴衣姿の3人に手を合わせて心底嬉しそうにしている陽向に、呆れたように笑う雪斗。
しかし実際、女子の見慣れない浴衣姿の破壊力は雪斗も知っている。
陽向とは異なり、心の中で手を合わせていた。
「お・ま・た・せ♡」
2人の前につくや否や、早速ポーズをとる渚。
「遅くなってしまい、すみません!」
「ごめんねー」
明るく元気な渚は、白をベースに、赤い花模様が入った浴衣。
落ち着いていてクールな紅葉は、紺色をベースに、名前の通り水色の紅葉模様が入った浴衣。
そして、どこか天然で不思議な雰囲気のこはるは、淡い黄色をベースに、水彩タッチの花模様が入った浴衣。
3人の浴衣姿に、ついつい目が奪われる雪斗と陽向。
「全然大丈夫!ってかみんな似合いすぎ!」
「気にしなくて大丈夫だよ。俺らも今来たところだから。」
2人のリアクションに満足したのか、機嫌良さそうな渚。
「それじゃ、みんな揃ったし、早速行こう!」
そう言い、先陣を切って花火会場へ向かっていった。
⸻
屋台の明かり。
甘い匂い。
遠くから聞こえる太鼓の音。
「うわ、人多っ……」
「でもお祭りって感じするね〜!」
「何食べる?」
「焼きそば!」
「たこ焼き!」
賑やかな空気の中、みんなで屋台を回る。
「こはる、それ持てる?」
「あ、はい!」
手にした紙袋を少し持ち直す。
(……すごい、人……)
少しだけ圧倒されながらも
(……楽しい)
自然と、表情が緩んだ。
気付けば、辺りはすっかり夜の色に変わっていた。
「そろそろ花火始まるんじゃね?」
「やば、だいぶ人もっと増えてきたね」
ざわざわと、人の流れが大きくなる。
「ちょ、離れるなよ〜!」
「はぐれたら終わりだって!」
渚と陽向は自然と手を繋ぎ、そのまま人の流れに乗っていく。
⸻
押される。
流される。
(……あ、やばい)
一瞬、足元が揺れる。
その時――
ぎゅっ
「……!」
気づけば、無意識に雪斗の服を掴んでいた。
「大丈夫?」
「……あ、はい……すみません……」
そのまま、手を引かれる。
⸻繋がったままの距離。
(……あ……)
⸻
人の流れの中。
紅葉は、少しだけ足を止めた。
遠ざかっていく渚と陽向。
「ちょっと待って、渚たちが……」
そう言いながら立ち止まり、こはると雪斗の方に目を配る紅葉。
「……」
ほんの少しだけ、様子を見る。
「……まぁ、いっか」
⸻
スマホを取り出す。
『渚といるから大丈夫〜 あとで合流しよ』
送信。
少し間を置いて……
『こはるといるから大丈夫〜 あとで合流しよ』
⸻
(……これで大丈夫)
「あー……暑い」
ふらっと視線を横に向ける。
屋台の明かり。
「……かき氷でも食べよ」
小さく呟き、人混みの中へ紛れていった。
⸻
遠くで、ざわめきが大きくなる。
ドンッ!
パラパラ………
夜空に、花火が咲いた。
⸻
気づけば、周りの人の流れは少しだけ落ち着いていた。
少し離れた場所。
屋台の明かりが、遠くに揺れている。
みんなと逸れたことに気づき、不安そうなこはる。
「みんな……大丈夫かな」
「まぁ紅葉もいるし平気だろ」
スマホを見ると、メッセージが一件届いていた。
『渚といるから大丈夫〜 あとで合流しよ』
(……よかった)
小さく、息を吐く。
⸻
――ドンッ
「おぉ……」
思わず、見上げる。
色とりどりの光が、暗い空に広がる。
(……きっと、まだ届かない)
(……でも)
隣を見る。
少しだけ近い距離。
繋がったままの手。
(……それでも)
⸻
ドンッ
⸻
(……今なら)
(……聞こえない、よね)
⸻
「……ありが――」
ドンッ
⸻
大きな音に、言葉はかき消された。
「……」
少しだけ、満足そうに息を吐く。
「何か言った?」
「いいえ?何も言ってませんよ♪」
にこっと笑う。
夜空には、まだ花火が続いている。
(……でも)
クレープを食べながら、はしゃいでいる陽向と渚。
(……いつか)
かき氷を食べながら、遠くの光を見ている紅葉。
(きっと…)
そして……手を繋ぎながら空に咲く華を眺めるこはると雪斗。
繋いでいる手に、少しだけ力がこもる。
夜空の遥か遠くには
綺麗な満月が、花火に負けないくらい強く輝いていた。