「いやぁ……お前すげぇなw」
一通り笑い合った後。堪えきれないとばかりにぽつりと言葉を溢す彼。
「長い爪、尖った耳、鋭い牙。吸血鬼って言われたら吸血鬼としか信じられねぇ見た目してんのに、目の前にある事実より書物で判別するとか…wwほんと馬鹿だねぇ、神父サマは」
「じょ、冗談じゃないですか……別に疑ってるわけじゃないです」
「ん”はっwww」
何がそこまでのツボだったのかが分からないが、目の前の吸血鬼のそれはもう見事なまでの大爆笑だった。
「はーっ、おもろ…w」
「複雑な心境ですよ……笑ってくれたことに喜べば良いのか、笑われたことに羞恥を覚えるべきなのか…」
「久しぶりにこんな笑った………ん?」
「? どうかしました?」
不意にラグーザが動きを止める。人の気配がするのかと思ったが、今日のミサは定休日なので違うかと思い直す。
「お前、遊戯(チェス)すんのか?」
「チェスですか」
どうやらクローゼット脇に置いていたチェスに反応したようだった。そういえば出しっぱなしにしてしまっていたな。
「ええ、よくやりますよ。ミサに来る街の人とも偶に対戦してみたり…。もしかしてラグーザも出来るんですか?」
「まあ……。けど、あんま良い思い出はねぇな」
「ありゃ、そうなんですね…楽しいのに勿体ない」
せっかく共通点を見つけたかと思えば、彼はチェスに良い思い出がないらしい。僕自身チェスやゲーム全般が好きなので、なんだかそれが勿体ないことのように感じた。
でも彼にチェスを嫌っている様子はない。
なら本当に、彼にとっての良い思い出がないだけなのだろう。
それなら_
「じゃあ、僕と一緒にチェスしません?」
楽しい思い出を作って、 上書きしてしまえばいい。
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