コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
男性のひとり(最初に倫之に話しかけてきた人)が目を丸くして言ったことは、その場の人たちの共通認識だったと思う。高校時代の私は本当に地味だったから。
行きたい大学があったから、そこを目指して勉強漬けの毎日。年齢らしいオシャレはしなかったし友達も多くはなかった。けれど「原田倫之の幼なじみ」という事実で、なぜだか必要以上に名前と顔は知られていたのだ。
「地味は余計だけど、そうだよ。柴崎由梨」
倫之が確定発言をしたのと、その倫之が私を連れているという状況に、何を想像されているのかは、彼ら彼女らの目を見れば想像はつく。
いよいよだ、と思って心の中で身構えた。
「三組の人たちはあっちのテーブルにいるよ。なんでこっちに」
こっちにいるの、と廣井さんが言い終わる前に「実は」と倫之が口を開いた。
「皆に報告しとこうと思って。俺たち付き合うことになったから」
「ええっ」
さっきとは違う、実際の声での反応で、場がどよめいた。
その声に、さらに外側にいる人たちまでが振り返り、何事かと注目してくる。
輪の中心にいるのが倫之だと気づいてか、ひそひそと何かを話し合う人たちも中にはいた。
視線の数と、好奇心で満たされた空気に、思わず縮こまる。それとほぼ同時に、倫之の手が私の肩に添えられた。
反射的にドキッとしたが、これも芝居の一環に違いない。
背筋を伸ばして顔を上げ、ぎこちないと思いながらもなんとか笑顔を作る。
「じ、実はそうなんです。こないだ久しぶりに会ったら、お互いひとりだし付き合ってみようかって話になって」
嘘が苦手な性格が災いして、つい、ほぼ本当のなりゆきを言ってしまう。まずかったかな、と思っていると「違うだろ」と肩に置かれた手に力がこもって引き寄せられた。
「俺がいい男だって、やっと気づいてくれたんだろ」
「──ちょっと、言ってもいないこと言ったふうに語らないでくれる?」
「照れるなって」
「照れてないっ」
肩を撫でられながらそんなことを言われて、思わず人前で叫んでしまった。
そんな様子に、周囲の人はぽかんとしている。
「……な、仲良いね」
「ほんと。びっくりした」
「けど柴崎さん綺麗になったし、けっこうお似合いじゃないか?」
中の一人の発言に、うんうん、と何人かがうなずいている。自分の今の格好と、それにそぐわなかった振る舞いを今さら思い返して、顔に血が上った。