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昼餉の後に、リアムの父上のバイロン王に会いに行くことにした。 ゼノに頼んで今から伺うと伝えてもらう。すぐにゼノが戻ってきて「よい」と返事をもらったので、身なりを整えリアムと部屋を出た。
王の部屋へ向かう道中、リアムがしきりに僕の心配をする。昨日のことやリアムの父上との面会に緊張して、僕があまり料理を口にしなかったからだろう。
熱があるのかと額を触ったり、部屋で休んでいた方がいいのではと足を止めたりする。
その度に僕は大丈夫だと笑って、リアムの手を引き前に進んだ。
何度も止まりながらバイロン王の部屋の前に着いた。細かな模様が彫られている重厚な扉には、結界が張られていない。
「王の部屋なのに…大丈夫なの?」
こっそりとリアムに聞くと、リアムが僕の手を握って頷いた。
「大丈夫だ。俺達が来るから解除したんだろう。フィー入るぞ」
「うん」
僕はリアムの手を強く握りしめる。
リアムはもう一度頷くと「失礼します」とよく通る声で言った。
すぐに内側へと扉が開く。入口にゼノと同じ年恰好の騎士が立っていた。騎士は僕…というより主にリアムに頭を下げると、「こちらへ」と部屋の奥へと案内する。扉から最も離れた場所に大きなベッドがあり、金髪の中年の男の人が、同じく中年の側近らしき男の人に、背中を支えてもらいながら座っていた。
リアムが王の前に立ち「久しぶり」と無表情で言う。
僕は片膝をつこうとして、リアムに止められた。
「いい。フィーはそんなことをする必要はない。父上と対等の立場だから」
「でも…僕はもう、王ではないよ」
「王と変わらぬ地位にある。父上、挨拶が遅くなったが、この人は俺の伴侶だ。半年前に結婚して一緒に暮らしている」
「はじめまして。フィルと申します。イヴァル帝国から来ました…」
「そうか」
ずっと黙ってリアムを見ていた王が、掠れた声を出して僕に目を向けた。王はリアムと同じ金髪だけど、目は青色だ。病のせいか少し濁っているけれど、昔は美しい青色をしていたのだろうか。
王は長く息を吐き出すと、弱々しい声で話し出した。
「イヴァルの前の王に…よく似ている。前の王は、君の母親か」
「はい」
「イヴァルに王子がいたとは驚きだ。今の王は、君の姉か妹か」
「姉が…跡を継ぐはずでした。だけど母上の後を追うように、病で亡くなりました」
「…なるほど。では跡を継いだ女王というのは、君のことだったか」
イヴァル帝国の秘密を話していいものだろうかと迷ったが、リアムの父上に嘘はつけない。
僕は「はい」と深く頷き、王の目を見つめ返した。
王は淡々と話し続ける。
「女王になった君が、なぜリアムといる」
「父上、もういいだろ…」
「リアム」
王と僕の間に入ろうとするリアムを止める。
僕は聞かれたことには、正直に答えるつもりだ。
「僕は大丈夫」
「フィー…嫌なら話さなくていいからな」
「わかった」
僕が笑って頷くと、リアムがしぶしぶ僕の隣に並んだ。
「リアムと出会ってからいろんなことがありました。でも詳しく話すと長いので割愛します。ただいろんなことがあった中で、僕と同じ血筋の者に出会いました。王族の証である銀髪で、僕よりも才のある人です。僕のように呪われていないので、その人が王になるのに支障はなかった」
「ああ…イヴァル帝国は女王でなければならないという裏にあった呪いか。聞いたことはあったが、本当だったのか」
「はい。男である僕は呪われていました。いよいよ死ぬかもしれないと気づいた時に、リアムの傍にいたくて王位を譲りバイロン国に来ました。実際死にかけましたが、母上やリアムや、たくさんの人達に助けられて生きてます。この先は、リアムを助けながら、イヴァルとバイロンの架け橋となりたい」
「そうか」
バイロン王が、フルフルと震える右手を上げる。やせ細り、腕も指も骨と皮だけだ。
僕に向かって差し出されたその手を、リアムと繋いでいた手を離して握る。 思っていたよりも冷たくて、一瞬背中が震えた。
僕の手を握ったまま、王が静かに聞く。
「リアムを…愛しているのか」
「はい、心から愛しています」
「いかなることがあろうとも、イヴァルに戻らずリアムの傍にいるのか」
「絶対に離れません」
僕がはっきりと答えると、部屋に入ってきた時からずっと怖い表情だった王の顔が、少し和らいだ気がした。
「リアム、おまえはどうだ」
「俺も心から愛している。そもそも人を好きになったのも、フィーが初めてだ。父上が母上を想うよりも、俺はフィーのことを想ってるよ」
「ははっ、えらそうに。おまえの母親は大人しかったのに、誰に似たのか」
「アンタだろ」
「まあ…そうだな。なあリアム、病になると気が弱くなってかなわん。王としての立場があったとはいえ、おまえにひどい仕打ちをした。すまない」
「別に…俺のことはどうでもいい。だけど、昨日のことは怒ってるよ」
「そうだな…。フィル、昨日はすまなかった。二人を試すようなことをしてしまった」
「あ…」
大丈夫ですとは言えなかった。だって本当に嫌だったから。まだ胸の奥ではモヤモヤしている。僕ってこんなにしつこかったんだと自分でも呆れるけど、本当にすごく嫌だったんだ。