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僕は王から手を離した。自由になった手を、素早くリアムが握りしめる。別に手じゃなくてもいい。身体のどこかがリアムに触れていると、それだけで不安や嫌な気持ちが薄らいで安心する。 そしてリアムは僕の気持ちをわかってくれている。だから僕の言いたかったことを代わりに言ってくれた。


「謝罪は受け取る。だが俺もフィーも許すとは言えない。俺達の関係が気に入らないなら、くだらないことをせずに口で言えよ」


バイロン王が「そうだな」と呟き、もう一度「すまない」と謝った。

何度謝られても許すとは言えない。だからもう、謝らなくていい。ただ二度と試すようなことはしないでもらいたい。

そう口にしたかったけど、さすがに病で弱っている人を責めることはできない。

僕は複雑な気持ちで俯いていた。

するとバイロン王が、弱々しい声で、だけどはっきりと言った。


「リアム、俺はおまえ達の結婚を…祝福する。二人で支え合い、幸せになれ」

「父上…ありがとう」

「ありがとうございます…」


リアムが驚いたように目を丸くしながら言い、僕も顔を上げて、リアムに続いて口を開いた。

よかった…認めてもらえたんだ…嬉しい。昨日のことがあったから反対していると思っていたのに。すごく安心した。嬉しい。

僕の喉が震えた。溢れそうになる涙を拭こうと手を上げるよりも早く、リアムが僕の頭を抱き寄せた。


「むやみやたらに泣くな」

「…ごめん」

「おまえの泣き顔を人に見せたくないんだ」

「なにそれ…」

「かわいいから」

「ばか…」


リアムの胸に顔を埋めていると、すぐ傍から視線を感じて顔を上げた。

バイロン王が「おまえのそんな顔は初めて見た」と苦笑している。

リアムが僕の肩を抱き寄せながら「父上だってそうだろ」と息を吐いた。


「母上や王妃にしか見せない顔があっただろう?俺は父上を厳しい人だと思っていたが、母上は優しい人だと話していたからな」

「アリスがそう話していたのか…そうか」


アリスとは、リアムの母上の名前だ。その名を口にするバイロン王の顔が、とても優しい。すごく大切に想っていたのだろうな。

王が傍にいる騎士に頷き、支えてもらいながらベットに横になる。


「疲れた…。部屋へ戻っていいぞ。明日は俺は出席しないが、おまえ達はクルトの姿をしっかりと見てきてくれ」

「ああ。俺達は即位式が終わればすぐに帰る。だから父上、もう会うことはないと思う。どうか身体を大切に」

「いつまで持つかわからんが…わかった」

「バイロン王、お会いできて嬉しかったです。リアムとのこと、認めて下さりありがとうございます」

「フィル…リアムのこと、頼んだぞ」

「はい」


バイロン王が、ふぅ…と息を吐き出し目を閉じた。

僕とリアムは、何度か振り返りながら王の部屋を後にした。


リアムに手を引かれながら歩いていると、部屋とは違う方角へ向かっていることに気づいた。

この城の中はよくわからない。だからリアムに任せて僕は黙ってついていく。廊下を曲がり階段を上がって小さな扉の前に来た。

リアムが取手を握って押すと、扉は簡単に向こう側へと開いた。中はリアムの部屋の半分くらいの広さで、小さなベッドや棚らしき物に大きな布がかけられている。

僕は中を見回しながら「ここは?」と聞いた。


「俺が子供の頃に使っていた部屋だ。今は二階に俺の部屋があるが、昔はここ四階に父上と母上、俺の部屋があった」

「そうなんだ。クルト王子の部屋は?」

「兄上とその母親の部屋は三階だった。俺がこの場所を気に入って、ここに部屋を作ってもらった。母上は俺のことが心配で隣の部屋に移ってきた。母上と離れたくなかった父上もついてきたのさ」

「ふふっ、リアムの母上はバイロン王にとても大切に想われていたんだね」

「そうだな。まあそのせいで、兄上の母親は、俺たち親子のことを嫌ってたんだけど」

「複雑だね…」


僕はリアムを見上げて呟く。

自分の愛する人が、他の人を愛してるなんて辛いだろう。イヴァル帝国では、代々女王には一人の伴侶しかいなかった。僕の母上も、父上だけだ。本来ならリアムも、たくさんの妻を娶ってもいい身分だ。だけど僕を選んでくれた。僕だけを愛してくれる。僕が愛する人が、僕だけを愛してくれるってことはもう、奇跡だと思う。姉上も、愛する人を見つけて幸せになってもらいたかった。次は健康な身体で生まれて、どうか幸せにと願わずにはいられない。

ふいに頬を撫でられて、リアムと目を合わせる。考えごとをして、ぼんやりとしてしまった。


「フィーは優しいから、兄上親子のことを心配してるんだろ?大丈夫だ。兄上の母親は正妃だし、父上も大事にしている。ただ王妃は、自分よりも身分の低い出自の俺の母上が、大切にされていることが気に入らなかったんだ。それに母上が意地悪をされるたびに、ラシェット伯父上が厳しく抗議していたし、母上を慰めていたから、母上もそんなに落ち込んだりしなかったよ」

「でも…リアムも辛かったんじゃ」

「全く。俺は王妃に言い返してたから余計に怒らせてたな」

「なにを言ってたの?」

「くそババアとか意地悪ババアとか」

「えー…それはひどいよ」


元は王妃が悪いとはいえ、王妃はきっと強い矜恃を持ってただろうに、そんなことを言われたら、そりゃあリアムのことを憎らしく思うだろう。

王妃のことを少し気の毒にも思ったけど、文句を言う幼いリアムを想像して、僕は思わず笑ってしまった。

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