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第5話
〖亜幻想郷〗
――場面は変わる。
亜霊夢がいた世界。
亜幻想郷。
夕暮れの博麗神社。
静寂だけが支配する境内で、一人の女性が縁側に立っていた。
大人びた余裕を纏い、どこか達観したような表情。
この世界の――八雲 紫。
亜紫「霊夢……少し休んでらっしゃい……」
誰もいない神社に向かって、優しく呟く。
前にも話した通り。
この世界の霧雨魔理沙は、二年前に亡くなっている。
不治の病。
魔法でも。
永遠亭の医術でも。
奇跡ですら届かなかった。
そして――
最期を看取った亜霊夢は、心を壊した。
博麗神社に引きこもり。
笑わなくなり。
異変も最低限しか解決せず。
誰にも会おうとせず。
ただ、失った親友のことだけを思い続けていた。
そんな姿を。
紫は、ずっと見てきた。
巫女としてではない。
幻想郷の管理者としてでもない。
もっと昔から。
泣き虫だった少女を。
強がりな少女を。
笑顔で賽銭箱を蹴飛ばしていた少女を。
ずっと――親のように見守ってきた。
だからこそ。
これ以上、あの子が壊れてしまう前に。
紫は、別世界の自分に頼んだ。
亜紫『少しでいい……』
亜紫『だから霊夢を任せていいかしら』
そして。
オリジナル世界の八雲紫は、それを受け入れた。
だから今。
亜霊夢は、別の幻想郷にいる。
親友が生きている世界。
笑い声が聞こえる世界。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
傷を癒せるかもしれない世界。
亜紫「……あの子は頑張りすぎたわ」
静かな風が吹く。
誰もいない境内。
一人きりの紫は、空を見上げた。
亜紫「だから今くらい……
親友と、馬鹿みたいな喧嘩でもしてきなさい」
そう言って。
彼女は微笑んだ。
それは妖怪の賢者の笑みではなく。
まるで――
娘の幸せを願う、親のような優しい笑みだった。
――これは。
亜霊夢世界の紫の。
親のように育ててきた者の優しさが招いた、小さな奇跡。
コメント
1件
亜霊夢側の紫、めちゃくちゃ沁みた……。管理者とか巫女とかじゃなくて、ただ「親」として育ててきた子を壊れさせたくなくて、別世界に送り出すところ。魔理沙が生きてる世界で、馬鹿みたいな喧嘩してきなさいって送り出す優しさが泣ける。静かで切ない回だったのに、最後の小さな奇跡って言葉でじんわり温かくなった。続きも気になるわ。