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「っ!まっ、、」
瞬間、視界に赤が飛び散った。
首を切った反動でふらついた彼の体は、コンクリートにしゃがみこんだ。ナイフの落ちる音が鮮明に聞こえた。そのまま、たぱたぱと命を零しながら地べたに這いつくばって、何回も何回も咳き込んで、声帯が機能しないのか声にならない声で呻く。あんなにへらへらとしていたくせに、見たことないくらいもがき苦しんでいた。転がる白いシャツには朱色が染みていて、ああ、あれは取れないだろうな、なんて呑気なことを一瞬思った。
何も出来なかった。呆然と見ているしか出来なかった。全身の力が抜ける代わりに、自分の心の1番大事な部分に風穴を開けられたような気分だった。
あと、セミの声がうるさいせいで、まるで何かの映画のワンシーンみたいだった。白昼夢という最近知った言葉を思い出した。夢の中では上手く動けない感覚が現状と重なった。_視界がぼやけていく。
ちゃんと現実に戻れたのは、それから何分も後だった。もう物に成り下がってしまった彼に近づいたが、こっちは見てくれなかった。その喉の傷を治したくて触れても、ただ赤色を塗り広げてしまうだけで、魔法なんて使える訳がなかった。
静かに自分の呼吸が狂っていくのを感じた。辺りに漂う鉄の匂いと、蒸し暑さが気持ち悪くて、喉から這い上がってくる吐き気を抑えられなかった。わずか数秒後、地面に染み込んでいく吐瀉物はほぼ胃液で、ここ最近ちゃんと食べていなかったことを思い出す。同時に流した生理的な涙は、いつしか精神的な涙に変わっていた。
、、、嫌だ。嫌だ。嫌だ。こんなの違う。じゃあ何が違うんだよと、別の自分が言う。最初からこうなることは決まっていたのだから、違う。勝手に着いてきて勝手に傷ついたお前が悪い、違う。生きる楽しさなんか知ったお前が悪い、違う!
、、、全部、違っていてほしかった。
もうこの苦しさを終わらせたくて、震える手でナイフを取った。彼と同じように首元に当てた。けれど、不意に最後の言葉がビデオテープのように脳内再生される。
「、、、だから、お前だけは死なないで欲しい、って思っちゃった。」
その声が心をぎゅっと縛り上げた。呪いのように深い痕を付けていくが、ナイフを手から取り落とすには十分だった。
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ほぼ意識を失っているに近しくて、気づいた時には見知らぬ大人達に囲まれていた。状況を飲み込む前に抵抗も虚しく車に乗せられた。制服から見るに、この大人達は警察だという事を知ってから、また社会に捕まってしまったことを悟った。
自分たちが時間をかけて歩いてきた道は、大分遠回りだったようだ。車窓の景色はすぐに見慣れたものに変わっていく。夢から現実へ無理やり引き剥がされたような気分だった。
それから、色んな人に色んなことを聞かれた。沢山の大人に問い詰められて、注意されて、心配されて、怒られた。でも、誰の言葉も心に留まらなかった。あの時から、何故か自分の頭にはフランスの言葉しか響かない。言葉じゃなくたってそうだ。買ったアイスのあの味が、2人並んだ影の色が、緑の草を踏む音が、遠くで聞こえたサイレンの音が、真っ暗な夜が、青空が、、、、貴方の笑顔が、ずっと頭の中を飽和している。
それは、どれだけの月日が経っても離れてくれなかった。あの日からしばらく経った後、ある程度収まりがついて、学校に戻ることが出来た。けれど、久しぶりに教室に入った時、心臓が止まりそうな思いをした。
花瓶を置かれていたのは、フランスの席だけだった。
フランスを虐めたあの人は、まだのうのうと生きていた。自分だけ友達もいて、家族もいて、普通の幸せを手にしていた。彼がどんな思いで死んでいったのかも知らずに。悔しかった。同じ思いをさせてやりたかった。気づかなかったクラスメイトも、関わろうとしてこなかった家族も、皆何も気にせずに普通の日常を送っているんだ。
でも、それは自分のせいだ。 もしもあの時、あと数秒でも気づくのが早かったら、今でもあの人は生きていたかもしれないのに。もっとあの人に寄り添っていたら何かが変わったかもしれないのに。もっと、ちゃんとした言葉で、少しだけでも心を救えていたら、今でも隣に居てくれたのかもしれないのに。あの件を経ても自分は、まだ命を捨てられずにいる。以前の人生は中身がなかったものだから、あのたった数日間だけの記憶が後遺症のように夢に出てくるようになった。毎日が水中で溺れているみたいに苦しかった。けれども、死ねなかった。
フランス、貴方のせいでこんなに苦しいのに、生きづらいのに、貴方の言葉が耳から離れてくれないんだ。その言葉のせいで、今日もまた私は息をしてしまう。なあ、貴方はなんて言って欲しかったんですか。あの時、私はどうすれば良かったんですか。私は、これからどう生きていけばいいんですか。
そう聞いても、誰も答えてはくれない。ただそのまま時は流れ、空っぽの毎日を繰り返している。
今年もまた、貴方のいない夏が来る。
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ウワー!!あとがきです!!
初めて死ネタ書きました。原曲だとこっちが正規ルートなんですよね、、、個人的にフラさんに激重クソデカ感情向けてるイギさんが書きたかっただけです。許せ。
日を跨いで書いていると文章がおかしくなることがありますがその割には色々詰め込めたんじゃないかなと思います!急にgr挟んですんません!この小説は全て作者の性癖で出来ています。
それでは長文お疲れ様でした!!良ければ♡とフォローよろしくお願いします!
ではまた〜(o・・o)/~