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あの日お互いを信じ合って約束をしてから、安心したというワケではないけど、しばらく会社の仕事とそれと一緒に同時進行しているある計画に数日集中する。
その間、何度か麻弥から連絡があったものの、オレは忙しいという理由で連絡も必要最低限の返事だけ、そして会いたいと言われたその言葉にも当然応えることも出来なくて。
ホントはオレが少しでも早く麻弥との話をどうにか解決して、透子を安心させてあげたかったし、麻弥にも少しでも早く納得させてやらなきゃいけないともわかっていたけれど、結局オレの勝手でしばらく話を進められずにいた。
正直、今どうしてもしなきゃいけないことが多すぎて、麻弥との話をどうにかする余裕がなくて・・・。
だけどようやくそれが形になり始めて、自分的に時間も気持ちも余裕が出てきた、ある日。
「いっくん。やっと会えた」
「ごめん、麻弥。ずっと会えなくて」
やっと麻弥との時間を作ることが出来て、会社の社長室へと麻弥を呼び出した。
「いっくん。忙しいからってずっと連絡もくれないし」
「ごめんな。わざわざ来てもらって」
「それはいいけど。てか、いっくんのお仕事いつ落ち着くの?そんなに社長業って忙しいの?」
まぁそれだけで忙しいワケじゃないんだけどね・・・。
「まぁ。まだしばらく続くけど。でもちょっと一旦落ち着いたから麻弥とちゃんと話しようと思って」
「じゃあそのお仕事落ち着いてからのがいいいよね、結婚式。じゃあそれまでにウエディングドレスも選んで~」
「麻弥・・・」
「あっ、いっくんのタキシードも楽しみだな~。式場はちょっと気になるとこあってね」
「麻弥」
オレが呼んでも麻弥は聞こえないフリをして話し続ける。
「今度さ、いっくん一緒に・・・」
「麻弥!」
あまりにもオレの言葉を無視して結婚の話をし続ける麻弥に、思わず声を荒げてしまう。
するとようやく黙る麻弥。
「麻弥・・・。オレ結婚出来ないって言ったよね?」
「・・・・」
「今日はちゃんとそのこと話合おうと思ってここに呼んだ」
「だから、結婚式の話でしょ」
わかってるくせに、わざと誤魔化す麻弥。
「麻弥。お願いだからわかって」
オレはとにかく麻弥に理解してもらえるまで説得するしかない。
「・・・そんなこと言っていいの?」
「え? 何が?」
「いっくん断ったら、会社困るんじゃないの・・・?」
「・・・麻弥。それ知ってたんだ」
「だからいっくんは私と結婚しなきゃダメなんだよ」
「確かに。麻弥と結婚したらこの会社は救えるだろうね」
「なら・・!」
「でも。それとこれとは別。会社の為に、オレは麻弥と結婚するつもりはない」
「なんで・・いっくんにそんな権利あるの?」
「あるよ・・・。オレの気持ちもオレの人生もオレのモノだから。親父の為でも、会社の為でも、麻弥の為でもない。オレの為に、麻弥とは結婚しない」
「私のこと・・・そんなに嫌?」
オレが言った言葉に、悲しそうな表情をして尋ねる麻弥。
「麻弥・・・。そうじゃない。麻弥のこと嫌いになるなんてことないよ。ずっと昔から大切な存在に変わりない」
「だったら・・・」
「だけど。今は麻弥よりもっと大切な人が出来たんだ。オレはその人じゃないとダメなんだ」
「そんな話聞きたくない!」
「麻弥。お願い。聞いて」
「ずっといっくんの大切な人は私だけだったのに・・・。ずっといっくんのそばにいたのは私だったのに・・・」
確かにずっとそうだった。
麻弥が寂しい時は、オレがそばにいて慰めて。
オレが落ち込んでる時は、麻弥が元気づけてくれた。
お互いそんな風に支え合ったからこそ、お互い大切な存在になっていた。
だけど、今思えば、それは家族として妹として、大切な存在だったんだとわかる。
恋愛感情はもちろん持ったこともないし、手も出したこともない。
だからこそ、麻弥を傷つけたくない。
「ごめん・・麻弥・・」
「その人・・・どんな人・・?」
「オレには勿体ないくらいの人。ずっと憧れてて、尊敬してて・・・。だけど強く見えてホントはそれは誰も頼らず一人で頑張ってるだけで・・・。だからオレが守ってあげたい・・・。そう思える今オレにとって誰より一番大切な人」
一つ一つ言葉にすると、その言葉にする分、透子の良さを実感する。
そしてどれだけオレが透子を好きなのかも・・・。
麻弥にこうやって伝えてるだけなのに、オレは透子にたまらなく会いたくなる。
「私よりも・・大切・・?」
「大切さはまた麻弥とその人とは違うから」
オレの中ではどっちも大切な存在。
だけど、麻弥は幼馴染として兄貴的な感情での大切さ。
「知らなかった・・・。いっくんにそんな人がいたなんて・・・。いっくん誰にも本気で好きになることなんてないってずっと言ってたくせに」
「そうだね。オレもこんなに誰かのこと本気で好きになれるなんて思ってなかった」
本気の恋なんてオレには縁のないモノだと思ってた。
こんなにも自分より大切だと思える人に出会えるだなんて思ってなかった。
誰よりも愛しくて大切な人。
「いつから・・?」
「うーん。この会社入社して出会ったから・・もう何年経ってんだろね」
透子に出会って、好きになって。
そこからがむしゃらに頑張って仕事出来る男になって。
どれだけの年月がかかったのだろう。
あっという間のようで、長かったようで。
だけど、そこからのオレの時間は間違いなく透子だけで。
透子をずっと想いながら過ごして来たこの数年は、間違いなく今まで生きて来た人生の中で一番満ち足りていた。
例え透子がオレの存在を知らなくても、例えオレの片想いなだけでも、それでも透子を好きでいれたことで、オレは幸せだったから。
「同じ・・会社の人・・? 憧れてたって・・先輩・・?」
「あぁ・・えっと・・まぁ・・」
これは麻弥に伝えるべきなのだろうか。
麻弥と透子は顔見知りで、麻弥は直接透子に結婚を伝える程の仲。
そしてオレは透子の彼氏でもあり、麻弥の結婚相手。
よく考えてみたら、オレすげー状況だな・・・。
だから、なんとなく、麻弥に透子が好きな人だと伝えるのを少し躊躇してしまう。
透子が麻弥とのことを知ってあんなに傷ついて不安になってしまったように、麻弥も透子のことを知ったら傷ついてしまいそうで。
昔から麻弥のことを知ってるからこそ、そこは伝えない方がいいような気がして。
「私の知ってる人・・・?」
「いや・・どうかな・・」
「誰・・・?」
「麻弥が知っても仕方ないだろ」
「私は知る権利あると思う。相手によっちゃ納得出来るかもしれないし・・」
その麻弥の言葉は本当かどうかはわからない。
だけど、麻弥にこのまま普通に諦めて納得してほしいというのも一方的な気もして。
だからといってこのまま伝えるのが正解なのかどうか・・。
「ねぇ・・・もしかして・・・それ・・透子・・さん?」
「・・・え?」
伝えるか迷っている途中で、まさかのその名前が麻弥から告げられる。