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一通りの探索を終え、俺たちはぶらぶらと玄関に戻ってきていた。
「出られそうなところ……ないな」
「ないな。どうするよ……」
「どうしようね。ちゃんと考えてる?」
「ん? ん……」
上の空で返事を返しながらキョロキョロと辺りを見回していた桐島は、ふと台所のカマドの横に置かれた大きなカメに目を止める。ふらふらとそちらへ近づいていく。特に止める理由もないので、俺もそのあとに続いた。
「見ろ。大きなツボがあるぞ」
「カメだろ」
「ツボだよ」
「違うって。それはカメだ。……雰囲気的に。ツボはもっとこう……スリムな感じ」
「ふうん?」
彼女は俺の言葉を聞き流しながら、カメに乗っかっていた木のフタを持ち上げる。
「水が入ってるぞ。飲めるかな……」
「え、やめとけって」
「でも、綺麗に見える。変な臭いもしないし」
「いやいや。こういうよくわからない場所で、その辺のものを気軽に口に入れない方がいいって」
「…………」
「底の方に何が沈んでるかわかったもんじゃないし、生水は危な……って、言ってるそばから口をつけるな!!」
「ううー……」
「まったく……?」
呆れながら桐島を睨んでいると、視界の端で何か黒いものが動いた気がした。咄嗟に目をやると、囲炉裏の間の障子窓に人影が浮かび上がっているのが見えた。障子の向こう、廊下に誰かいるのだ……!
「おいっ、あれ……!」
「!」
俺の指摘に振り返った彼女が、返事もせずに飛び出していく。俺もそれに続いた。
玄関へと飛び込み、廊下へと続く戸を勢いよく開け放つ。直前、突き当たりの引き戸がスッと閉まった。戸が閉まる直前、ちらりと黄色の着物が見えた気がする。あの黄色い着物は。
「木にぶら下がってた奴だ……!」
俺の心を読んだかのように、桐島が同意した。
暗い廊下。行燈の灯りに、突き当たりの戸がひっそりと浮かび上がっている。あそこは確か仏間だったはず……。
「…………」
「…………」
なんとなく二人で顔を見合わせた。
「……よし、行ってみるか」
「おう」
二人は仏間に入る。畳敷きの座敷の奥には、壁に埋まるようにして仏壇が設置されている。その仏壇の前に、男がひとりかがみ込んでいた。仏壇の下の戸棚を開けて、何かを探しているようだ。部屋の中に、着物の少女の姿はない。
俺たちはもう一度顔を見合わせた。
あの子がここに入っていったのは、気のせいだったのだろうか? それに……なんだろう。この部屋の雰囲気は。妙に不安で落ち着かなくてなるような……。頬がピリピリと痛むような、この感じは……。
仏壇前の男は、俺たちに気づいていないようだ。背中を向けていて顔は見えないが、随分と痩せている。小柄で、薄汚れた着物を着ていた。ここの家の人だろうか? そうだとしても、この奇妙な状況の説明にならないが……。でも、誰もいないよりはマシだよな。とにかく話を聞いてもらって……。
俺はひとつ息を吸い込むと、部屋の中へと踏み込んだ。
「あの……すみません」
何を探しているのだろう。男は仏壇のあらゆる場所を開けたり引っ張ったりして、中を探っている。呼びかけに応じる様子はない。
「すみません!」
男の背後まで近づいて声を呼びかけてみたが、やっぱり男はこちらを向こうとしない。ただ近づいたおかげで、念仏のような男の呟きが耳に届いた。
「金目のもの……。まだ何か……。鬼の……」
(鬼……?)
その時突然、桐島が叫ぶ。
「香住っ!」
「え……」
突然振り下ろされた斧は俺の右肩を掠め、男の首の付け根を叩いた。
「!?……」
間近で飛んだ血飛沫に、悲鳴が凍りつく。仏壇に顎を打ち付けるようにして、男が倒れた。
「あ……あっ……」
俺の背後には、いつの間にか着物姿の少女が立っている。きはだ色の着物。明るい栗色の髪。間違いない。あの時中庭で首を吊っていた子だ……!
「まずはひとり……」
俯いた顔を髪で覆い隠したまま、少女が呟いた。その手には、赤い血に濡れた斧。
「あとよにん……」
「う……わああああっ!!」
思わず上げた悲鳴に、少女の首がぐるりと回る。
「コノ家ニ立チ入ル者ハ……ミナ……殺シテヤル」
斧が振り上げられた。
「よけろっ!!」
すくんだまま動けない俺を、桐島が乱暴に引き倒す。畳に倒された俺の頭上で、斧が空を切る。
「わ、わああっ!」
「立て!! こっちだ!」
俺は彼女に首根っこを掴まれ、仏間から引きずり出された。
「この裏に入れ!」
囲炉裏のある部屋に飛び込んだ桐島は、素早くかつ乱暴に部屋のすみに置かれていた屏風の裏に俺を押し込んだ。自分もその隣に蹲り、身を潜める。廊下から、きしきしと床の鳴る音が近づく。
蹲って床を凝視したまま、屏風の向こうから伝わる気配と物音に全神経を傾けた。足音が大きくなる。入ってきた……。耳鳴りで頭が割れそうだ。頬にピリピリとした痛みが走った。
「コノ家ニ立チ入ル者ハ……ミナ……」
うわごとのような少女の声が聞こえる。
「コノ家……ヒトリ残ラズ……」
ややあって、屏風の向こうの気配ふっと消えた。同時に耳鳴りと鳥肌もぴたりと治る。
コメント
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うわああ新刊来た!第5話読み終わったよ〜!!🌸✨ 桐島がカメの水を飲もうとするシーンで「ちょっと待てw」ってツッコミ入れたくなったんだけど、その後の展開が一気にホラー加速して凄かった…!斧持った少女の「あとよにん」で背筋ゾワッとしたよ😭💦 屏風の裏で息を潜める二人、続きが気になりすぎて今夜眠れないかも…!次話も楽しみにしてるね、サトルさん!🔥