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渡辺Side
人狼がこの村に紛れ込んでいる――
そんな噂が広まってから、
村の空気は一変していた。
夜になれば誰も外へ出ない。
笑い声も減り、
人々は怯えながら過ごしている。
その頃。
村外れの空き地では――
ひとり、剣を振るう男がいた。
💙「……っ」
渡辺だった。
人狼が現れるかもしれない。
そう思うと、
じっとしていられなかった。
💙「俺だって…」
💙「守れるくらい強くならねえと」
剣を振る。
何度も。
何度も。
💙「くそ…」
💙「全然うまくいかねえ」
そのとき。
後ろから静かな声がした。
♥️「力みすぎだよ」
渡辺は振り返る。
そこに立っていたのは――
宮舘だった。
💙「……なんだよ」
♥️「少し見ていただけ」
♥️「剣、貸して」
宮舘は渡辺の手から剣を取る。
そして。
静かに一振りした。
ヒュッ――
空気を切る音が美しい。
💙「……!」
💙「すげ…」
♥️「力じゃない」
♥️「流れ」
宮舘は優しく言った。
♥️「もう一度やってみて」
渡辺は少しムッとする。
💙「言われなくても…」
でも。
さっきより軽く振れた。
💙「……」
💙「あれ」
♥️「ほら」
♥️「できた」
宮舘はふっと微笑む。
その笑顔に、渡辺は少し戸惑った。
沈黙が流れる。
すると宮舘が言う。
♥️「怖い?」
💙「は?」
♥️「人狼」
渡辺は目を逸らす。
💙「……怖くねえよ」
💙「ただ」
💙「何もしねえのは嫌なだけだ」
宮舘は少しだけ目を細めた。
♥️「君は優しいね」
💙「は!?」
♥️「村をちゃんと守ろうとしている」
渡辺は少し照れてしまう。
💙「……うるせえ」
宮舘は小さく笑った。
♥️「じゃあ」
♥️「明日も付き合おうか」
💙「え?」
♥️「修行」
♥️「ひとりより、いいだろ?」
渡辺は少し考える。
そして。
💙「……まあ」
💙「来たいなら来れば」
宮舘は静かに頷いた。
♥️「ありがとう」
夕暮れの風が吹く。
その日から――
ふたりは毎日、
この場所で剣を振るうようになった。
まだこのときは。
誰も知らなかった。
この出会いが――
あまりにも残酷な結末へ
繋がっていくことを。
──────────────
それからというもの――
渡辺と宮舘は、
毎日のように村外れで剣の修行をしていた。
💙「…っ!」
ヒュッ
💙「……どうだ!」
宮舘は腕を組みながら見ている。
♥️「うん」
♥️「だいぶ良くなった」
💙「だろ?」
💙「俺、結構センスあるんじゃね?」
♥️「そうだね」
♥️「最初はひどかったけど」
💙「おい」
渡辺は思わず笑う。
少し前まで、
村は緊張した空気に包まれていた。
でも――
この時間だけは違った。
夕暮れの空。
風の音。
そして隣には宮舘がいる。
それだけで、不思議と心が落ち着いた。
💙「……なあ」
♥️「ん?」
💙「お前さ」
💙「なんで俺に付き合ってくれんの?」
宮舘は少し考える。
そして静かに答えた。
♥️「君が一生懸命だから」
💙「……」
♥️「放っておけなかった」
渡辺は少し目を逸らす。
💙「……そういうの」
💙「さらっと言うのずるくね?」
宮舘は微笑む。
♥️「そう?」
💙「…お前はさ」
💙「怖くねえの?」
♥️「何が?」
💙「人狼」
風が止まった。
ほんの一瞬。
宮舘の目が、少しだけ揺れた。
でもすぐにいつもの表情に戻る。
♥️「…怖いよ、もちろん」
💙「だよな」
渡辺は笑う。
💙「でもさ」
💙「もし出てきたら」
💙「俺が守ってやる」
宮舘は驚いた顔をした。
💙「修行してんのはそのためだし」
💙「仲間くらい守れるだろ」
♥️「……」
宮舘は少しだけ目を細めた。
♥️「ありがとう」
♥️「頼りにしてる」
渡辺は照れたように笑う。
💙「任せろ」
夕陽が沈みかけていた。
その光の中で――
宮舘は、
渡辺の横顔を静かに見つめていた。
この時間がいつかは終わることを
少しだけ惜しいと思ってしまった。
──────────────
渡辺は――
気づけば、もうとっくに宮舘に惹かれていた。
落ち着いた振る舞い。
柔らかい笑顔。
そして――
時々、自分に向けられる優しいまなざし。
宮舘との時間は俺にとって特別だった。
村に人狼が紛れ込んでいると疑い始めている中
(この人は人狼なわけない)
村の誰もが、そう思っていた。
渡辺も、そう信じていた。
――あの日までは。
──────────────
深夜――
村はすっかり眠りについていた。
風の音だけが静かに響いている。
渡辺はふと目を覚ました。
💙「……ん」
なぜか胸がざわつく。
理由はわからない。
ただ――
何かがおかしい。
渡辺は周囲を見渡した。
そして気づく。
💙「……宮舘?」
隣にいるはずの姿がない。
さっきまで、確かにここにいたはずなのに。
💙「どこ行ったんだよ…」
胸騒ぎが強くなる。
渡辺はそっと外へ出た。
夜の村は静まり返っている。
遠くで、森の木々が揺れていた。
💙「……」
足が、自然とその方向へ向かう。
やめたほうがいい。
そんな気もした。
それでも――
渡辺は森の奥へと進んでいった。
枝を踏む音が小さく響く。
💙(…?)
暗闇の奥で、
何かが動いた。
💙「……っ」
息を潜め、木の陰からそっと覗く。
そして――
渡辺は“それ”を見てしまった。
そこにいたのは、
紛れもなく宮舘だった。
だが――
渡辺の知っている宮舘ではなかった。
宮舘は、
村人の首元に噛みつくように顔を埋めていた。
血が、静かに流れ落ちている。
💙「……」
頭が真っ白になる。
💙(え………うそだろ)
足の力が抜ける。
渡辺はその場に崩れ落ちた。
その音に――
宮舘がゆっくり顔を上げる。
赤く染まった口元。
そして。
静かにこちらを見つめる瞳。
💙「……っ」
渡辺の喉から声にならない声が漏れた。
次の瞬間。
宮舘が、ゆっくりと立ち上がる。
そして。
渡辺のほうへ歩き出した。
声が出ない。
身体も動かない。
目の前に立つ宮舘を、ただ見つめることしかできなかった。
宮舘は渡辺の前まで歩み寄ると、
少しだけ悲しそうに微笑んだ。
♥️「そんな目で見られたら」
♥️「俺、悲しいな」
💙「そんな……」
💙「なんでだよ……」
震える声。
涙が次々とあふれてくる。
💙「なんで、お前が……」
宮舘は少しだけ目を伏せた。
♥️「ごめんね」
♥️「俺は……そっち側にはなれないんだ」
💙「……」
胸が締め付けられる。
信じたくない。
でも、目の前の現実は変わらない。
宮舘は静かに言った。
♥️「少しの間だったけど」
♥️「楽しかったよ」
その言葉は、
嘘とは思えないほど優しかった。
宮舘はゆっくりと手を伸ばす。
渡辺の首へ。
あと少しで触れる距離。
そのとき――
💙「……」
渡辺は、ゆっくりと目を閉じた。
涙が静かに頬を伝う。
♥️「……」
宮舘の手が止まる。
💙「俺は…」
💙「お前のことが…」
💙「好きだ…」
夜の森は静まり返っている。
風だけが、木々を揺らしていた。
💙「俺ももう……」
💙「この村にはいられないな」
長い沈黙。
そして――
♥️「……」
宮舘はゆっくりと手を下ろした。
代わりに。
渡辺の頭に、そっと手を置く。
💙「……?」
そのまま静かに、抱き寄せた。
渡辺の体が小さく震える。
宮舘は耳元で囁く。
♥️「ねえ」
♥️「このまま」
♥️「連れ去ってもいい?」
💙「……」
渡辺はゆっくり目を開く。
そして――
小さく、頷いた。
♥️「……」
宮舘は静かに微笑む。
二人は立ち上がり、
そのまま森の奥へ歩き出した。
月明かりの下。
二つの影が、ゆっくりと闇に溶けていく。
その夜
渡辺がどうなったのか。
村人は誰も知らない。
彼は――
生きているのか。
それとも。
人狼に喰われてしまったのか。
それを知るのは。
宮舘、ただ一人だけだった。
つづく。
コメント
4件
この物語すごく面白いです!🫠 続き楽しみにしてます!
