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#レムでリゼロを知り、今ではレムさんと握手を交わしている
どうしてこうなったのだろうかと、スバルは隣に座るラインハルトを宥めながら考える。機嫌があり得ないくらい悪い剣聖様はスバルの言葉には耳を傾けずそっぽを向いたままこちらの顔すら見ない。しかしそれでもスバルのズボンをしっかりと掴み、そばを離れることを許してくれる様子はない。「ら、ラインハルトさーん…?」
「………」
返事はないが、ズボンを掴む強さが上がった気がする。
このままだと太ももの肉まで一緒に握り込まれるかもしれない。
(肉がもがれる!!)
ラインハルトの力でそれをやられるともがれるというのも冗談では済まなくなる。
「悪かったよ! 約束破るつもりなんてなかったんだって! 不可抗力なんだってば!」
「………」
言い訳なんて聞きたくないと態度に滲み出している。
どうにか顔だけでも向けてくれないかと席を移動しようとするがズボンを掴まれているせいで立ち上がることもできない。
「ラインハルトぉ…」
いつもならこれで折れてくれるはずだと泣き落としに入ってみるが効果がある気配もなく、ラインハルトは顔をピクリとも動かさない。
横顔なら拝めないものかと覗き込むように体をどうにか動かすが、手で押し返され、元の場所に戻された。
あれをしてやるから、これを買ってやるからと幾つか条件を上げてみても全く心に響かないようで後頭部を眺めることしかできない。
「本当にごめんって…。なあ…」
ズボンを掴み続けている手を両手で握り込み、謝罪の言葉を並べてもやはり効果は無い。
「来年は絶対しないから! マジで! 反省してるから…!」
「………」
「マジで怖いって!! 怒ってるのは分かったからせめてこっち見てくんね!!?!?」
「………」
「怖い!! 怖いよー!!! 誰かー!!!」
呼んだところで誰か来るわけでも無いがそれでも外へ助けを求める。
部屋の空気に耐えられない。今すぐにでもドアや窓を開け放って換気したい気分だ。
相変わらず向きが変わる気配すらないラインハルトの形のいい頭をスバルは怯えながら眺めることしか出来なかった。
ラインハルトの誕生日を教えてもらった。
スバルの世界で言うところの元日がラインハルトの誕生日らしい。年明けに歳をとるなんて、世界と共に歳を重ねているようだとスバルは思った。
そして、ある『お願い』をラインハルトからされる。
「あのね、あのね、スバル。僕の誕生日は一日中側にいて欲しいんだ。本当にずっと側に。それでね、ケーキとか一緒に食べようよ」
世話係としてアストレア家に雇われることとなったスバルはそれはもうずっと一緒と言っていいほどラインハルトと共に生活を送っていた。朝食・昼食・晩食と同じ時間に取るし、剣技の指導を受けている際は少し離れた場所でラインハルトを見守る。休憩の際はスバルが教えてあげた『膝枕』をねだられ、ごろりと寝転がるのがお気に入りのようだ。この世界の文字が読めないスバルのために、することが無い時は簡単な絵本のようなものを書庫から引っ張り出してきて読み聞かせてくれているし、たまにスバルも自分の世界の童話や昔話をしてやった。それが中々面白いようで最近は寝る前に一つ話すことが決まりとなっている。
お風呂も同時に入っており、頭を洗い洗われ、湯船にゆっくり浸かって温まる。
ラインハルトが最初に言っていた「おはようと言いおやすみと言ってほしい」との要望通りスバルは欠かさずラインハルトに挨拶を忘れない。それが大層嬉しいようで、スバルがそう言うたびラインハルトはニコニコと微笑み返していた。
寝るときは抱きしめてほしいらしく、スバルの背中に手を回す。ラインハルトの思惑通りにスバルが抱き抱えると安心したように目を瞑ってそのまま夢へと落ちていく。そんな毎日。
トイレ以外はほとんどの時間を共有している自覚があるスバルにとってラインハルトの一日中側にいてほしいというお願いをどう達成するべきかという悩みになっていた。
(これ以上どう一緒にいればいいんだ…!?)
そんな目でラインハルトを見ていたら、少し照れくさそうにスバルの手が握られる。
「いつも通りにしてくれてれば良いんだよ。僕を一番にしてって言いたかったんだ。困らしちゃってごめんね」
「一番にって…もうとっくにお前が最優先事項だよ」
「…! そう! そうなんだね! えへへ」
スバルの腕に抱きつき、握った手をぶらぶら揺らす。ラインハルトの暖かい体温が伝わり、眠気に襲われ出したスバルはその眠気を倒そうと軽く背伸びをした。
「誕生日ケーキ、俺が作ってやろうか?」
「え」
「レシピ本も読めるぐらいにはなってきたし、お菓子作りなら実家で何回かやってたしな! ま、お前の口に合うか分かんねえけど」
普段からかなり上質な物を口にしているラインハルトにとってスバルの作るケーキで満足するとは思えない。しかし、ラインハルトにとってそれはとても魅力的な提案だったようで、握る手に力が入る。
「た、食べたい! スバルのケーキ!」
「お、そうか? よーし、じゃ、俺頑張っちゃうぞ〜」
「うん! 楽しみにしておくよ!」
この世界にもイチゴはあるのだろうか、スバルはそんなことを考えながらどんなケーキを作ってやろうかと吟味する。
これはスバルの好みであったが、どうせならふんだんにイチゴを使いたい。
「んじゃ、練習しなきゃなあ。俺、本番によえーし」
「それ、僕も手伝いたいな」
「いや、お前のケーキなんだし手伝ったらダメだろ」
「なんで?」
「うーん…、どんなケーキが出てくるのか楽しみにしてた方が良くない?」
「僕はスバルとケーキを作る楽しさの方を優先したいな」
「そーきたか…」
でもまあ、本人がこう言っているんだとスバルは軽く息を吐き、ラインハルトの頭を撫でる。
「なら、手伝ってくれな? お前もいてくれた方が美味いケーキになりそうだ」
「うんっ! 任せてよスバル!」
花が咲いたような笑顔という言葉はこう言う時に使う物なのかもしれないとスバルは微笑んだ。
ケーキというものはかなりたくさんの材料が必要なのだな、と紙袋の重さにげんなりする。
この世界と自分の世界では存在する食材としない食材があり、あると思って探していたものがなく、ないと思って探していなかったものがあったりして買い出しにかなり手こずった。
市場を行ったり来たりするのにかなり体力を持っていかれ、適当な場所で休憩をするため座れる場所を探す。
「スバル、大丈夫?」
「半分くらい大丈夫って感じ?」
「…? よく分かんないけどほら、僕が持ってあげるから紙袋渡して」
「やだイケメン…! …けど、かなり重いぞ? それこそ大丈夫かよ」
「平気だよ、鍛えてるもん」
両手をこちらに差し出しているラインハルトは自信満々に頷く。なら言葉に甘えてやろうと紙袋を渡すと、今まで石のように重かった体が羽が生えたように軽くなった。
「うわ…生き返った気分…」
「それは良かった」
ありがとな、といつも通り頭を撫でてやると大きな紙袋の下でにっこりと笑ってるのが分かる。
「一通り材料も揃ったし、帰るか」
「うん!」
アストレア家へ向かおうとした時顔にポツリと水滴が落ちてきた。地面にもどんどんと水滴が落ちだし、斑点模様から水玉に。そしてどんどん色を変えていく。
「雨…?」
「だね」
「はぁ〜、ついてねーな。適当にどっか入るか」
「うん」
ラインハルトとはぐれないように肩に手を置きながらあたりを見回す。
「あっち、宿があるんだ。一晩は降るから泊まって行こうよ」
「え? なんで?」
「なにが?」
「いや、なんで一晩降るって…」
「雨が降る日付や時間が分かる加護を授かったんだ」
「加護すげぇな! 天気予報じゃん!」
ラインハルトの言う通り中々止みそうにない雨にスバルは教えてもらった宿を見る。そしてポケット中から支給されている金を取り出し残金を確かめる。これから泊まれるかと金を握り、宿へと向かった。
「いやー、ラインハルトんち見慣れちまったせいか狭く感じんな」
「そうだね。本当に寝るだけって部屋だ」
案内された部屋にはベッドが二つと机と椅子しかなく、最低限の家具しか存在していなかった。
ラインハルトに持たせていた紙袋を机に下ろしてもらい、スバルはベッドに座り込む。
…硬い。
ラインハルトの家のベッドならば座ればもう包み込むかのような勢いで沈んでいくが、このベッドは沈むどころか押し返してきそうだった。
「ラインハルト、このベッドで寝られるか? 俺はヘーキだけど」
「僕はスバルがいてくれたらどこでも大丈夫だよ」
「お、おぉう…」
ラインハルトもスバルの隣に腰掛け、いつの間にか部屋に備え付けあったのだろうタオルを差し出してきた。
「髪とか濡れちゃったもんね」
ああ、拭けと言ってるのかとスバルはそのタオルでまずラインハルトの頭を拭いてやる。
「んえ? スバルの分なのに」
「いいっていいって、風邪ひいたりしたら大変だろ?」
「風邪…、僕が風邪か…。っふふ、そうだね」
何がおかしいのか分からないと首を傾げるスバルを横目に、ラインハルトはスバルに体を預ける。
「おし、こんなもんだろ」
「交代する?」
風呂場でいつもやってるように、ラインハルトはスバル手からタオルを受け取り、靴を脱いだ後ベッドに登った。
ギシギシとベッドから悲鳴が上がり始めるが気にせずにスバルのその珍しい黒髪に白いタオルを乗せ拭き始める。
初めて頭を洗ったときはその加減が分からずスバルにかなり我慢させてしまっていたようだが、毎日毎日頭を洗うことでスバルがちょうど良いと思えるほどの力加減を覚えることができた。現に今も頭を拭かれているスバルは穏やかな表情をしており、目をしわができるくらい瞑っていたり、唇を噛み締めていたりもしていない。
よかった、練習した甲斐があった。
ラインハルトは目を細める。
「…なあラインハルト」
「なあに?」
「お前、雨降るのわかってたろ」
ギクリとした。
ラインハルトの手が止まる。
「雨が降ってきたとき分かったような顔してたもんな。つーか、宿の場所まで調べてるとか準備万端すぎるだろ」
「ち、違うよ、たまたまお父様と泊まりにきたことがあったから」
「雨の方は否定しないんな」
「あっ…」
しまったと思う。
ラインハルトは嘘をつくのがかなり下手であった。今まで嘘をつく機会がそう無かったせいか、どう誤魔化せば相手が納得するのかも分からず、その場しのぎの言い訳しか言えない。
スバルはそんなラインハルトを「いい子に育ってるんだな」と褒めるが、ラインハルトにとったら口がとても上手いスバルが羨ましかった。
最初はスバルことを怪しげな者を見る目で見ていた使用人達もいつの間にかスバルと仲を深めており、愛称で呼ばれている者もいる。あのハインケルでさえも、たまに、本当に稀にスバルに自分から話しかけに行っているのだ。
───羨ましいと、ラインハルトは思う。
「ごめん、その。違うんだよ、スバル」
「違うって?」
「迷惑、かけるつもりじゃ…」
消え入るような声で呟くと、慌ててスバルが後ろを向き、ラインハルトの顔を見ながら言った。
「分かってるって。怒ってねえし。ただなんでだろーって思っただけ! なんかお前、いつも大袈裟だよな…」
手を引かれ、スバルの腕の中に閉じ込められる。
「…に、…て」
ぽんぽんと背中を叩いてやっていたらラインハルトが溢す。
「え?」
聞き取れず、聞き返すと、ラインハルトはその腕をスバルの首に回し、続けた。
「二人に、なりたくて。お泊まりとか、してみたかったんだ」
「…あー、ね。そゆこと」
泣きそうな声でスバルに言う。
「スバルと、なら、みんな良いよって」
「あ、ちゃんと言ってきたのか。それは良かった」
屋敷でラインハルトが帰ってこないと騒ぎになってたら困るなと考えていたスバルにとっては朗報だった。
「スバル、怒らないで…」
怒ってないよ、とあやす様に言う。
「つーか、泊まりたいんならそう言えよ。こんな騙すようなことしないでさ」
「…断られたらって」
「でも聞かなきゃ断られるか分かんねーだろ?」
「そうだけど、でも」
「お前は考えすぎなんだって。色々と」
顔が見えるようにラインハルトから腕を離し、きちんとその碧眼に自分が映っているのを確認する。
「子供なんだから、もっとわがままにいこーぜ。今だけだぞ? ぐずって泣いてもしょうがないねって笑ってもらえんの。大人になってそれやったら可哀想な目で見られるからな!」
「わがままに?」
いいの? と言いたげなその顔に良いんだよ、と返すように笑いかける。
「気楽に行こうや。そんなんじゃ生きていくのに苦労すんぜ」
せめて、と続ける。
「俺の前だけでも、ちゃんと子供やってみね?」
何かがラインハルトの中でストンと落ちた。そしてまたスバルに抱きつき、首元に顔を埋める。
「───……大好き」
「…? おう、俺も大好きだよ、ラインハルト」
ラインハルトの中で、スバルに対する『好き』が少しずつずれ始めていた。
一晩泊まった後、そういえば食材は大丈夫だろうかと紙袋を覗き込んだ。そこにあったのは昨日と同じ綺麗な食材達でスバルはほっと息をつく。
「大丈夫だよ、スバル。昨日のうちに僕が触れた食材が腐りにくくなる加護を授かっているから」
「何それ!? 超便利!」
またラインハルトが紙袋を抱え、宿を後にする。スバルとは違い、片手で軽々と紙袋を持つラインハルトの腕は一本空いている。その手を取り、握ってやるとラインハルトも握り返してきた。
「スバルの手はおっきいね」
「お前も大きくなったらこれくらいにはなるだろ。背も高くなるんだろうなあ、ハインケルさんもだいぶあるし…」
親子だもんなあ、と伝えると、ラインハルトの表情が曇る。
「親子、か…」
ラインハルトがスバルを見上げ、瞳を揺らす。
「そう見える?」
質問の意図が分からず、「そりゃまあ」と曖昧に返したは良いものの、ラインハルトは納得がいってないようで視線をずらした。
「…ハインケルさんのこと、苦手?」
「うーん…」
ラインハルトはそれ以上ハインケルとの関係には言及しなかった。スバルも、これは自分が触れるべき問題ではないのだと口を閉じる。
ラインハルトには『眠り姫』という症状に陥った母親がいる。スバルも一度だけ彼女を目にする機会があった。奇々怪界な言葉や話をするスバルがもしかしたら現状の打開につながるのではないかとハインケルに連れられて部屋に入ったのだ。
そこに眠っていたのは、とても美しい女性で、なるほどこれはラインハルトの母親だと心の中で頷く。
「なんか分かるか?」
「…俺んとこでは眠ってるプリンセスに王子様がキスをすれば目覚めるってのが通説なんだけど」
「口付け程度で目覚めてんなら苦労してねぇよ」
「だよなぁ」
酒瓶に口をつけ、中の液体を一気に流し込む。ハインケルはかなりの酒飲みのようですれ違うたびアルコールの匂いが鼻をついた。とはいえ潰れてベロベロになっているわけでもなくそれなりに会話もできると言うのだから耐性はある方なのだろう。
「いつからなんだ?」
「アイツが二つになるかならねぇぐらいん時からだよ。何人か医者にも見せたんだが、病気の類じゃねぇみてぇだからどうしようもないんだとよ。役立たず共が」
舌打ちをし、ベッドから細く白い綺麗な手を取り出し、優しくさする。
口は悪いが、腐ってもラインハルトの父親ということもあり、その慈しむ瞳はラインハルトと瓜二つだ。綺麗な赤髪も、誰かを想うその態度も。
「奥さんのこと大切なんだな」
「ハッ」
鼻で笑われ、しっしっと追い払われる。これからは二人の時間なのだろう。邪魔しないように大人しくスバルは退室した。
スバルはそれなりに歳を重ねているおかげで雑に扱われるのにもまあそう言うものだと自分に言い聞かせることができるが、しかし幼いラインハルトは如何だろうかと考える。
一緒に帰ろうと言われただけでここまでスバルに懐いたのだ。
今まで、誰かに頭を撫でてもらえていたのだろうか。本を読み聞かせもらえたことは? お風呂に入れてもらえたことは? トランプやオセロなどのボードゲームで遊んだことは?
多分、とスバルは目を閉じる。
使用人達の態度やあの父親のやさぐれっぷりから、ラインハルトはかなりの割合放置されていたのだと思う。
ラインハルトは聞き分けの良い賢い子だ。その上、この歳で『剣聖』という自分の立場を理解し、それに相応しい振る舞いをしようと志している。
さぞ手のかからない都合の良い子供だっただろう。だけど。
(それじゃダメだろ)
ラインハルトのこのスバルへと執着は自分を見てくれる存在ということが大きいということが推察できる。それはつまり、今まで誰もラインハルトを見てやれていなかった。
寂しかったんだ、コイツは。
(なら、そんな立場も過去も加護も知らない俺が)
(───『剣聖』からただのガキに引き摺り下ろしてやる!)
今まで見られてなかったであろう分、穴があくまで見てやろう。頼られてきた分頼ってもらおう。甘やかして、遊んで、一緒に過ごして、特別じゃない、普通の暮らしを送らせてやる。
人知れずそう決意したのだった。
アストレア家に戻ると早速キッチンに移動して、買ってきた材料を並べる。
レシピ本も用意し、手を洗い、必要な調理器具を用意した。準備は万端だ。
「ええと、まずは…」
こちらの世界の薄力粉を篩にかけ、ダマをなくす。その間にラインハルトにはバターを溶かしてもらっていた。その後に買ってあったケーキの型に生地がくっつかないようにとクッキングシートもどきを敷く。
ボウルに卵を割り入れ、レシピ通りに砂糖を入れ、湯煎しつつ泡立てた。
バターを溶かし終わったラインハルトにはオーブンの管理を任せ、湯煎から外したボウルにダマをなくした薄力粉、そしてバターを入れて混ぜ込む。
出来た生地の元を型に流し込み、オーブンへと投入し、焼き上がるのを二人で待つ。
「結構時間かかるみたいだし、使い終わったやつ洗うか!」
「うんっ」
しばらくするとスポンジから漂う甘い香りがキッチンに漂い、焼き上がったことを伝えてくれる。オーブンを開け、きちんと膨らんでいることに胸を撫で下ろし、粗熱を取るため、机の上に置いた。
冷めるまでの間にイチゴのヘタを取ったり、生クリームを泡だて、トッピングの準備をする。
スポンジを二枚に切り分け、中に生クリームを塗る。均等に半分に切ったイチゴを乗せ、もう一枚のスポンジで挟み、全体にクリームを塗り薄く塗り広げる。
上に残った生クリームを絞り、好きなようにイチゴを並べる。そして。
「できたー!!」
二人の前にはそれなりに見えるホールケーキが出来上がった。
「よし、食うか」
「もう食べちゃうの?」
「出来立てが一番うまいって言うじゃん?」
可愛い顔をしてかなりの量を平らげるラインハルトがいるのだ。ホールケーキぐらいペロリといってしまうだろう。
ナイフを取り出し均等に切り分け、小皿に移す。
「ほら、ラインハルト」
さて気に入って貰えるだろうかと反応を待つが、ラインハルトは中々ケーキに手をつけようとしない。
「どした?」
「…これ、その」
「?」
「お父様にも、とか、思っちゃって」
小皿を持ちながら、ソワソワしている。
「おー、いいじゃん。食ってもらおうぜ」
「貰ってくれるかな…」
「どーだろな、甘いもん嫌いだったりすんの?」
「そうじゃなくて、ほら、僕が作ったって聞いたら、って」
「…あー」
受け取りそうにない。
それでも。
「持って行こーぜ。要らないなんて言われたら俺が口に捩じ込んでやるから!」
「そんなことしちゃダメだよ!」
「そうだな…」
正論で返され苦笑いを返す。
出してあった二本のフォークのうちの一本を掴み部屋を後にする。ケーキが乗る小皿を持つラインハルトの手はかすかに震えていた。
「いらねぇ」
「ですよねー…」
「………」
小皿を差し出して早々突き返される。
「でもほら、ラインハルトが初めて作ったケーキだしさ!」
「いらんっつったろ」
「中々の出来栄えだと思うよ俺は! ほら見てこの断面! 超綺麗!!」
「持って帰れ」
「これケーキ屋開けるって! なあラインハルト!」
「えっ…? あ、えっと…」
「ウルセェなあ…」
鬱陶しそうに一瞥し、酒瓶を傾ける。コポコポと口に流れる酒の音が部屋に響いた。
「…ラインハルトが作ったんだよ」
「あ?」
「だから、一口でいいから食べてやれって言ってんの! お前に食べさせてやりたいってここまで持ってきてくれたんだぞ」
「知らねぇよ」
「知れ! 少しは! 自分の息子だろーが!」
「知らなくてもガキは勝手にデカくなってくんだよ。…そいつは特にな」
「お前はどうだったんだよ。親から放置されてたわけじゃねーだろ」
「俺とそいつは作りが違う。一緒にするな」
「作りって…、ラインハルトを物みたいな言い方すんなよ…!」
「なら子供のことを宝物っつー親にも文句言えよ? ソイツもガキを物扱いしてんだからよ」
「そんな屁理屈聞いてんじゃねえんだよ。…ケーキ、食べてやれって」
「…だから、いらねぇってんだよ。さっさとお前らで食ってこい」
また言い返してやろうと思っていたところをラインハルトに腕を引かれたことにより制止される。その顔には諦めの表情が浮かんでおり、早く出て行こうとハインケルの部屋の出口に視線が向いていた。
「お邪魔しました、お父様」
ラインハルトの言葉に、ハインケルは何も反応を返さない。
───ダメだ、壊れてる。
自分とよく関わろうとしてくれていた両親を思い返しつつ、ラインハルトとハインケルの冷え切った関係にスバルは目眩を覚えた。
放置というレベルではない。
自分のテリトリーに入ってくるなというその態度。ラインハルトも、ハインケルも双方が怖がっている。
お互いに壁を作り上げ必要以上に、いや、絶対に触れないように。
「ラインハルト、皿貸せ」
「え?」
なら、その壁をぶち壊してやる。
踏み込まれなくない場所に土足で踏み荒らしていくのがナツキ・スバルという男であった。
そして、スバルは宣言通り。
「いいから黙って食えや、ハインケル・アストレア!」
ケーキをハインケルの口に捩じ込み、その行動に驚き、何もできないハインケルを良いことに無理矢理飲み込ませた。
「っ! テメェ!」
「ほらほら、美味えだろうが! 二口目いるか?? なんだったらもう一個持ってきてやるよ! ホールで作ったんだ! 元から二人で食うには多かったんだよ!」
「ふざけんな!! クソッ…、服が汚れたじゃねえか!」
「さっさと自分で食わねぇからだろ! はーい、ハインケルさーん、二口目どうぞ〜?」
「やめろ!!」
手掴みでケーキを握っているため、指の間からクリームが零れ落ちる。こんなところを親に見られたら「食べ物で遊ぶな」と叱られてしまうかもしれないが、スバルは止まらない。
「っはは、やっぱ上手に出来てんなあ。美味いわ」
モチャモチャとハインケルの口に入れ損ねたケーキを食べる。
「ほら、もう一口!」
まだ手に残ってるケーキを差し出すと凄い形相で睨まれる。
「食いかけなんか食うか!」
「食いかけじゃなきゃ食うんだな? 新しいやつなら食べてくれるんだよな?」
「分かった! 分かったって言ってんだろ!! 顔になすりつけんな!」
顔にクリームを塗りたくられる勢いで押し付けられる不快感に顔を歪ませた。言質を取ってやったと満足げに笑ったスバルはラインハルトに告げる。
「言ったな!? よしラインハルト! お前とコイツの分二つ持ってこい!!」
「えっ…? あ! 分かった!」
コンコンと小気味いい靴音を鳴らしながらキッチンへと走る。
スバルは二つと言った。
(お父様と、食べられる…!)
目は爛々と輝き、ハインケル部屋へ向かう震えとは真逆の震えが身体中を駆け巡った。
ハインケル部屋は書類整理をしなくてはならないため大きなテーブルが置かれている。そのテーブルを挟むように赤いソファが設置されているため、二人は向き合うように座った。
真っ白な皿に乗る赤いイチゴの乗ったケーキ。
ハインケルはため息をつきながらフォークで食べやすい大きさにするとケーキを口に運んだ。
「…!」
食べてくれた。
ラインハルトは真似をするようにケーキを食べ、その甘い味にうっとりする。
スバルの言った通り美味しく出来ていた。
当のスバル本人は手についたクリームを洗ってくると席を外している。きっと親子二人きりにしてやろうという気遣いなのだろうとラインハルトは考えた。
ケーキはハインケルの口に合ったのだろうかと目の前に座る父親を見上げる。
「あの…、お味の方はどうでしょうか…」
シェフがお客様に問いかけるように話しかけると、ハインケルは考えるように黙り込み、フォークを机に置いた。
まだケーキは残っているのに置いたということは不味かったのだろうか。不安になり、自分もケーキを食べる手が止まった。
「………───ルアンナも」
「…?」
「よく菓子を作っていた」
「……お母様、も」
「……アイツには及ばねえが、まあ、程々だな」
父親の見たことのない顔、態度、ラインハルトにはそのどれもが新鮮で。
「似たな」
その言葉が、何よりも嬉しかった。
結局ハインケルが食べたのはその一切れのみで残りは二人で平らげることとなった。
「本番は…もっと上手く作るからな…」
腹が膨れたスバルは苦しそうに机に突っ伏している。そんなスバルの背中をさすりながら「期待しているね」とラインハルトは笑った。
「ゔぇ…、もー無理…晩ご飯いらない…」
「じゃあ僕も食べないでおくよ」
「お前は食えよ…成長期なんだしさ…」
俺はもう終わったけどなんて言いながらどうにかこうにか重い体を動かし、食器を流し台へ移動させる。
「任せればいいのに」
「ばーか、お片付けまでがお料理ですってな。これぐらいやんねーと俺まじで最近ニートな気分だから…」
ニート、というのは働かずに家でゴロゴロとしている人のことだとスバルから聞いた。それはスバルには当てはまらないだろうとラインハルトは疑問視する。スバルはラインハルトの世話係なのだ。つまり、ラインハルトの側で助けになることをすればそれはすなわちスバルは仕事を果たしていると言える。
今日も昨日も一昨日も、スバルは約束通りおはようからおやすみまでを共に過ごし、ラインハルトの拠り所になっていた。それだけでも十分だというのに。
ラインハルト一人では絶対になしえなかった父親とケーキを食べるというイベントを起こした。
「そんなことないのに」
それはラインハルトの心からの言葉であったが、お世辞だと捉えたスバルは受け流し食器洗いを開始する。
「スバル、僕も何か手伝うよ」
「サンキュー、なら拭くの頼むわ」
(さんきゅうは、ありがとうだっけ)
スバルとやるのなら食器洗いも特別なものに思える。ラインハルトは楽しげに渡された食器を布で拭き水気をとった後立てかけた。
「誕生日さ」
「うん?」
「一緒にいてね」
「分かってるよ、楽しくすごそーぜ」
ヘラヘラ笑うスバルだが、とある問題が起き、誕生日はラインハルトと過ごせなくなってしまった。
そして話は冒頭に戻る。
コメント
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FF外から失礼します。 失礼だと思いますが、この小説の文章をpixivなどで見た事があり、コメントした次第です。もし、無断転載なのなら転載した作品達を消しては貰えませんか?私は第三者ですが1人のリゼロファンです。そして貴方が無断転載したであろう小説のファンでもあります。私は昨晩無断転載しただろう小説を見て、腸が煮えくり返るような気持ちになりました。しかし、小説を投稿するっていうのは悪い事ではございません。私は、貴方の小説を見てみたいのです。 長文となりましたので結論とさせてもらいますが 無断転載した小説達を消す、というのがこちらの要望でございます。 もし、無断転載でないならコメントしてもらいたい所存です。 長文失礼しました。
ごちそーさまでしたー
最高でした...