【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
青さんに彼女がいる(いた?)設定ですので、苦手な方はお気をつけください
「おつかれー」
軽いノックと同時に、間延びした声をかけながらも返事を待たずに扉を開ける。
一歩その中へ踏み入るといつも通りの甘い香りがした。
ルームフレグランスからの香りに鼻をすんと一度鳴らしていると、中でないこが意外そうに首を傾げながらこちらを振り返る。
「あれ?まろ、今日こっち来る日じゃないよね?」
会議用の資料だろうか、ないこは紙の束を机に並べパソコンに向かい合っていたらしい。
「ん」と小さく頷いて、俺はソファにドカッと座った。
社長用のデスクの前に備え付けられた、応接用のソファとテーブル。
座るなり足を組み、ないこの方へと視線を返す。
「ちょっと時間できたから、手伝いに来た」
今日は土曜だし、本業の仕事の方は休みだ。
空いた時間の有効活用がないこの手伝いくらいしか思いつかないところが、悲しいことに自分らしいとは思う。
「…え、それは助かるけど…」
わずかに戸惑ったように言葉を濁しながらも、ないこは立ち上がった。
手にしていた資料をこちらに寄越しながら、少しばかり申し訳なさそうに眉を下げる。
「まろ、今日彼女の誕生日じゃなかった?」
継がれた言葉に、資料を受け取りながら俺は座ったままの態勢でないこの顔を見上げた。
恐ろしく整った顔がこちらに向けられている。
「…よう覚えとるな」
人の彼女の誕生日なんか。
感心するというより驚きを隠せずに、俺はそれだけ答える。
「記憶力いい方だからさ。記念日とか覚えるの得意なんよね、俺」
あぁそれは分かる。
付き合って何か月記念とかイベントごととか、こいつはしっかりと覚えていて恋人をちゃんと喜ばせそうだ。
「別れた」
俺が即座に返したそんな一言に、ないこは笑っていたはずが途端に真顔になった。
「…え?」と小さく声を漏らす。
「…あれ?結構早くない?まろのことだからもっと長続きするかと思ってた」
「俺もそのつもりやったけど、浮気されたから」
「え…」
「この前ライブ会場からちょっと早めに帰れたやん。家に帰ったら男連れこんどった」
「うわ…」
あー…と同情するような声を出し、ないこは言葉を失ったようだった。
しばらく天井を仰ぎ見てから、眉を寄せて俺の顔を振り返る。
「…なんかごめん」
「憐れむなよ。余計腹立ってくるわ」
無神経なことを聞いたと思ったのか、申し訳なさそうに表情を歪めていた。
それに「んはは」と笑って応じ、俺は手渡された資料をパラリとめくる。
「まぁしゃーないよな。こんな活動しとったら時間もあんまないし、満足に構ってあげられへんかったし」
紙をめくる音に合わせて声を乗せると、ないこはまた眉間の皺を濃くした。
「それは浮気していい理由にはならないけど」
「…意外に潔癖やもんな、ないこ」
楽しいことが好きでおもしろければ何でもいいように見えて、ないこは実はこういうところは真面目だ。
…女の子に告白されたからと言って、好きでもないくせに「好きになれるかも」と考え付き合ってしまった俺とは違う。
…いや、違う。
正確には好きになれる自信はあった。
だけどそれは「人間的に」とか単なる「好意」の部類であって、それ以上の感情に育つことがなかっただけ。
その先の感情を、もう自分は知ってしまっているから。
そしてそれが叶わないことも。
だから俺は彼女に浮気をされたと知ったときも悲しくもなかったし、ただ自業自得だとしか思えなかった。
先に彼女に返してやれるだけの気持ちが足りなかったのは、自分の方だ。
「まぁ、また次のチャンスが来るって」
励ましのつもりなのか、ないこはそう言いながら俺の隣に座る。
同じように資料を手にしていて、これから2人でのミーティングを始める気になったらしい。
「チャンスねぇ…。あんまり自分に来るとは思えんけど」
…そんなもの、俺には一生来ないよ。
ないこを好きになって、それを告げることもできないと自覚したあの時から。
それは俺にとって紛れもない「真実」だ。
「んーん、チャンスは平等に来るよ。それを掴むか掴まないか、掴めるか掴めないかはその人次第」
続けたないこの言葉に、思わず鼻であしらって笑ってしまう。
「語るやん」と揶揄するように言うと、「たまにはね」とにっこりと笑顔を返された。
…まったく、誰のせいだと思ってるんだ。
未だに息ができないほど苦しくなる原因は、浮気されたことでも彼女と別れたことでもなくて、ただ心の奥底でずっとお前を想い続けてしまうからなのに。
話が一段落したと踏んだのか、ないこが「これなんだけどさ」と次の企画の資料を指さした。
こうなったら忙しいないこに合わせて仕事に没頭してしまおう。
そう思ったけれど、その瞬間テーブルの上に置いてあった俺のスマホがブルリと震えた。
その振動音に、ないこが打ち合わせを始めようとしていた口を噤む。
俺もスマホに目線をやったけれど、画面を見た瞬間にもう無視することを決めた。
着信は別れたばかりの彼女からだった。
ないこからは名前は見えなかったかもしれないけれど、俺がすぐに出なかったことで相手が誰なのかは何となく感づかれただろう。
「ごめん、何やっけ」
無視して仕事の話を続けようと資料に視線を落とす。
着信のバイブレータはしばらく放置したら鳴りやんだ。
それに表面上は反応せず、ないこの方に向き直る。
「あ、えっとここが…」
丁寧に作りこまれた企画書の一部を指さして再び説明を始めようとしたとき、一度止んだはずのバイブがまた鳴動した。
2人して同時にスマホに視線をやる。
俺が小さくため息をつくのと、ないこが苦笑いを浮かべるのが同時だった。
「出なよ。無視してもずっとかかってきそう」
「……ごめん」
打ち合わせ中なのに私用の電話に出るのも気が引けたけれど、これはもう致し方ない。
ソファから立ち上がり部屋の隅まで移動して、俺は「…はい」とその通話に応じた。
壁に額がつきそうなくらいの態勢で、ないこに背を向ける。
通話が繋がった途端漏れ聞こえてきたのは、別れたばかりの彼女の泣き声だった。
すすり泣くような声で悲痛な響きを含み、ただ「ごめんなさい」を繰り返す。
よりを戻したい、と訴える言葉に、冷えた心が揺り動かされることすらない。
…いや、正確には「冷えた」という表現も違う。
だって最初から、彼女に対して熱くなったこともなかったから。
「…怒ってないから謝らんでえぇよ」
向こう側に、短くそう告げる。
でももう無理なんだ。もう戻れない。
君のところにも、そして何より、ないこのことを好きになる前にすらも。
他の誰かと幸せになってくれとは、さすがに言えなかった。
だけど俺がもう諦めてしまった「チャンス」を、君ならまだ掴めるかもしれないから。
「ごめんな」
代わりに、短いそんな言葉を口にした。
「…よう覚えとるな」
驚いたようなまろの声が響いた。
俺がまろの彼女の誕生日を覚えていたことが意外だったようだ。
そりゃ覚えてるよ。
だって彼女の誕生日を知ったその時、まろが当日身動きできないくらいに仕事を押し付けてやろうかと思ったくらいなんだから。
…いい大人だから、そんなこと実際にできるわけはないけれど。
まろが彼女と別れていたのは意外だった。
順調そうに見えていたし、何よりまろは付き合うと決めたらそれはそれは大事にしてくれそうだ。
だからこそ、別れただけでも驚いたのにその理由が彼女側の「浮気」だと聞いて思わず絶句してしまった。
…何その贅沢。
まろに愛されていながら、それでも足りないっていうわけ?
俺がずっと欲しくても叶わなくて、諦めてしまったその手を自分のものにできたっていうのに?
「チャンスは平等に来るよ。それを掴むか掴まないか、掴めるか掴めないかはその人次第」
息ができないほどの苦しい感情を押し込んで、にっこり笑いながらそんなセリフを吐く。
まろを励ましたかったのか、諦めるしかなかった自分を慰めたかったのかは自身でも釈然としなかった。
スマホが鳴ったとき、まろは最初出ようとしなかった。
その表情だけで理解してしまう。
そのしつこい着信が彼女からだということ。
そして多分、泣き喚いて謝ってでも2人の関係をやり直したがっているんだろうということ。
「出なよ。無視してもずっとかかってきそう」
俺の言葉に、まろは諦めたように席を立った。
この社長室の隅に移動して、こちらに背を向ける。
通話に応じた低い声は、それきりあまり声を発しなかった。
向こう側の彼女がただひたすら謝っているんだろうということが想像できる。
「…怒ってないから謝らんでえぇよ」
やがて応じたまろの声。
…少しは怒ればいいのに。
浮気されて悲しいって、腹立たしいって。
こんな時まで相手に優しく接するまろは正直バカだと思うし、それに甘えるその女にも腹が立つ。
「ごめんな」
よりを戻そうとする彼女を拒むまろ。
それでも彼女が泣いている間は通話をぶった切ることもしない。
ただ、繋げたままのその向こうですすり泣いているだろう声に耳を傾ける。
どこまで優しいんだよ。
チッと舌打ちをして、俺はソファから立ち上がった。
まろの背後へ静かに…だけど大股で歩み寄り、後ろから手を伸ばす。
「!?」
奪い取るようにスマホを取り上げると、まろが声を失ったまま驚いて振り返った。
そんなまろに構うことなく、俺は画面の通話切断アイコンをタップする。
漏れ聞こえていた女の泣き声がプツと途切れた。
身勝手すぎるこの女に、チャンスなんてもうやらない。
もう二度とまろの元に戻れないように。
許して欲しいなんて期待も、二度とさせないように。
「…諦めてたけど、気が変わった」
通話を切ったスマホをまろの手に返しながら、俺はそう言葉を継ぐ。
驚いて目を丸くしたまろは、スマホを受け取りながら「…ないこ?」と訝し気に俺の名を呼んだ。
まろが幸せならそれでいいと思ってたよ。
でもそうやって引いているうちに、まろと付き合っていながら浮気するような女に奪られるなんて二度と御免だ。
「今度は俺にも、チャンスちょうだい」
言いながらまろの首に腕を伸ばす。
数センチだけ背伸びをするように踵を持ち上げ、俺は言葉を失くして立ち尽くすまろの唇に自分のそれを重ねた。
コメント
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こっちでは初コメ失です! 控えめに言って最高ですね…
青くん浮気されたの、、、? 可愛そすぎる、、、!それを慰める?桃さんかっこいい!そんな人現実世界にいてくれたら嬉しいなw