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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第15話 〚気づかれない反発〛(恒一視点)
……おかしい。
そう思ったのは、
誰かに直接何かを言われたからじゃない。
「早く帰れ」
「今日はもう下校だ」
ただ、それだけ。
なのに。
胸の奥が、ざわついて仕方なかった。
◇
校門を出る瞬間、
恒一は一度だけ、振り返った。
校舎。
窓。
廊下。
――視線が、増えている。
それは確信だった。
教師たちが、
いつもより“見ている”。
別に、俺は何もしていない。
澪に触れたわけでもない。
声を荒げたわけでもない。
規則も破っていない。
なのに。
「……なんでだよ」
小さく、吐き捨てる。
◇
頭に浮かぶのは、
澪の倒れた姿。
そして、
その瞬間に彼女を抱き上げた海翔。
(……あいつ)
恒一の指先が、
無意識に握りしめられる。
奪われたわけじゃない。
まだだ。
なのに。
世界が、
少しずつ“俺から離れていく”感覚。
◇
放課後のカフェ。
窓際の席で、
恒一はコーヒーを前にして座っていた。
本を開いている。
けれど、文字は頭に入らない。
周囲の会話が、耳に刺さる。
「最近さ、先生うるさくない?」
「見回り多くね?」
――やっぱりだ。
俺だけじゃない。
皆も、気づいてる。
でも。
誰も、理由を知らない。
◇
「……守られてる、ってことか?」
その言葉が、
やけに癪に障った。
澪は、
守られる側。
海翔は、
守る側。
そして俺は――
(……排除される側か?)
笑いそうになった。
馬鹿げてる。
まだ、何も起きていない。
◇
恒一は、スマホを取り出す。
りあとのメッセージ画面。
《最近、先生たち変じゃない?》
少し間を置いて、返信が来る。
《思った!》
《でもさ、逆にチャンスじゃない?》
チャンス。
その言葉に、
恒一の目が細くなる。
(……そうだ)
皆が“守り”に入るなら。
逆に、
見えない場所が増える。
◇
恒一は、ゆっくりとコーヒーを飲み干した。
焦る必要はない。
澪は、まだここにいる。
俺の視界の中にいる。
大人たちは、
俺の“中”までは見ていない。
――気づいていない。
この静かな反発が、
確実に形を持ち始めていることに。
◇
「……準備しよう」
誰にも聞こえない声で、
恒一は呟いた。
まだ、動かない。
でも、止まりもしない。
歯車は。
音を立てずに、
逆方向へ回り始めていた。
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