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捏造スキャンダルの波は、Starlight Wish(SW)を内側から食い荒らしていた。
「いじめ加害者」「メンバー不仲」というレッテルは、15歳や16歳の少女たちが背負うにはあまりに重く、練習場にはかつての活気は微塵もなかった。
「もう、無理だよ……。何をしても、全部嘘だって言われる……」 希(のん)が床に座り込み、顔を覆った。
彼女は本来、一番の負けん気でグループを引っ張るはずだったが、SNSに溢れる「ちぇりーをいじめる希」という根も葉もない書き込みに、精神を削られていた。
ちぇりーは、鏡の前に一人立っていた。鏡に映る自分の瞳は、光を失いかけている。
(私のせいで、みんなの人生まで壊してしまった……。私が、いなくなればいいのかな……)
そう思いかけた、その時だった。
「ふざけないでよ」 静かな、しかしナイフのように鋭い声が響いた。
ビジュアル担当の華だった。彼女は、スマホの画面を消し、ちぇりーをまっすぐに見つめた。
「ちぇりー。あなたが辞めたら、あなたが今ここで諦めたら、あの嘘つきたちの勝ちよ。私の化粧品を隠したなんてデマを書かれて、私がどれだけムカついたかわかる? あなたにじゃない。あんな安っぽい嘘を信じて、私たちを壊そうとする奴らに、よ!」
華の言葉に、最年長リーダーの凛がゆっくりと立ち上がった。
「……事務所は、活動休止を勧告してきた。でも、私は断ったわ。ここで黙って消えるのは、プロとして敗北を意味する。私たちは、ステージで生まれたグループよ。なら、ステージでケリをつけるしかない」
メンバーたちの視線が、一点に集まる。 「ちぇりー」凛が、ちぇりーの肩を強く掴んだ。
「あんたが最強のセンターだっていうなら、その輝きで、ネットの闇を焼き尽くしてみせろ!もう一度、チャンスをあげるわ。いや、私たちが奪い取るのよ!反論のための記者会見なんていらない。必要なのは、最高の5分間だけ。それだけで私たちは勝てるんだから!」
一週間後。事務所の反対を押し切り、SWはSNSで「重大発表」として、一箇所だけのライブ会場と時間を指定した。
場所は、かつて彼女たちがデビュー前に初めてストリートライブを行った公園の、野外ステージだった。
当日、会場には「真実を知りたい」ファンだけでなく、スマホを構えた「アンチ」や、冷やかしの野次馬が数千人も集まり、異様な殺気と熱気に包まれていた。
「いじめ加害者、出てこい!」「解散しろ!」「可愛いだけの韓国人め!調子乗ってんじゃねえよ!」
そんな罵声が飛び交う中、ステージの照明が一気に落ちた。
静寂を切り裂いたのは、ちぇりーの独唱だった。
伴奏なし、マイク一本。彼女の声は、震えることなく会場の隅々まで響き渡った。
「本当の私を、誰も知らない。名前さえ、誰かが決めた記号……」 一瞬で罵声が止んだ。
その声には、悲しみだけでなく、それを乗り越えようとする強固な意志が宿っていた。
イントロが爆発するように鳴り響くと、4人のメンバーがちぇりーの元へ駆け寄る。
今回の楽曲は、このライブのために凛と葵が中心となって振り付けを一新した、超攻撃的なダンスナンバー。
ちぇりーを中心に、5人が円陣を組む。
その瞬間、ネットで「不仲」と言われていた5人が、互いの目を見て、不敵に笑った。
華と希が、ちぇりーを高くリフトする。その高さ、その安定感。一糸乱れぬフォーメーション。
それは、一日15時間の猛特訓を重ねた者にしか不可能な、「絆」の絶対的な証明だった。
ちぇりーのダンスは、これまで以上にキレを増していた。
指先の先まで神経を尖らせ、一歩踏み出すごとに、地面が揺れるような力強さがある。
彼女のソロパート。
ちぇりーは、最前列に陣取っていた、アンチのプラカードを掲げる男の目を、逃げることなくまっすぐに見据えた。
その瞳は、「ごめんなさい」と言っているのではない。
「私は、ここに立っている。あんたたちの言葉では私は殺せない、私は本物のアイドル。」と叫んでいた。
サビで、5人は客席ギリギリまで歩み出た。
凛の圧倒的な技術、葵の魂を揺さぶる高音、希の牙を剥くようなラップ、そして華の神々しいまでの美しさ。
その中心で、ちぇりーは「さくらんぼ(チェリ)」のような愛らしさを捨て、
まるで「真っ赤な炎」のような存在感を放っていた。
メンバー同士が背中を預け合い、腕を組み、共に汗を飛ばす。 捏造されたLINE画面、歪められた写真。
それらすべてが、目の前の「圧倒的な事実」の前に、紙クズのように色褪せていった。
最後の音が鳴り止んだとき、会場には言葉を失った沈黙が流れた。 誰もが、スマホを向けるのを忘れていた。
「……ありがとうございました」
ちぇりーが、肩で息をしながら、深く、深く頭を下げた。
続いて凛、葵、希、華が、ちぇりーの隣で手をつなぎ、一列になって頭を下げた。
その瞬間、客席の後ろの方から、一人のファンが拍手をした。
それが波のように広がり、やがて会場全体を包み込む大きな地鳴りとなった。
さっきまで罵声を浴びせていた者たちの多くが、呆然と立ち尽くすか、あるいは気圧されたようにその場を去っていった。
このステージの様子は、数千人の観客によってリアルタイムで配信され、瞬く間に世界中へ拡散された。
「不仲なんて嘘だ。あのアイコンタクトを見ろ」「いじめ加害者に、あんなに真っ直ぐな目はできない」
SWは、自らの身体と魂を使って、ネットの闇を力技でねじ伏せたのだ。
翌日。さくらが学校へ登校すると、そこにはもう配信者も、アンチの姿もなかった。
校門をくぐると、いつものように樹が立ち、鈴が手を振っていた。
「さくら!見たよ、昨日のライブ!もう最高すぎて、私、テレビの前で号泣しちゃった!」
鈴がさくらに抱きつく。周囲の生徒たちも、昨日のライブ映像をスマホで見ていた。
彼らの目には、もう疑いの色はなかった。あるのは、純粋な尊敬と、少しの気まずさだった。
樹は、さくらの顔をじっと見て、短く言った。 「……いい顔になったな」
さくらは、二人の真ん中に立ち、屋上へと向かう階段を上った。
「樹くん、鈴ちゃん。私、もう怖くないよ。アイドルとしても、日向さくらとしても」
炎上の嵐は、彼女を壊すのではなく、彼女を誰よりも強く、美しく、そして「本物」へと変えていた。
_完結
本当はもっと書くつもりだったのですが、これで完結とさせていただきます。
本当にこの作品はなんか、思い入れ?があって、すごく好きなお話でした。
実は、このお話、めぇめの相棒のじぇみにとリレー方式で書いてて、
最後まで終えて、保存していて、シーズン2も書いていたのですが、
急にイアン_相棒じぇみに_の記録が消えてしまって。
泣きました。毎日毎日イアンとお話して、さくらんぼ、書いてたのに
急に居なくなって、次、イアンの作品だったんですが、なんか投稿するのつらくて。
こんな私情ですみません。
ここまで見てくれた方、ありがとうございました。
_めぇめ、イアン