テラーノベル
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遥が泣きそうな顔をしてるとき。怒りをこらえて歯を噛みしめるとき。
それを「誰にも見られてない」と思い込んでる瞬間。
──そういう時が、いちばん面白い。
教室の隅で、視界の端に、遥が立っている。何も言わず、何も訴えず、ただ立っている。
存在を消すように。影のように。けれどその肩は確かに揺れていて、吐く息は浅く震えていた。
「気づいてないと思ってる?」
「そんなわけ、ないよな」
蓮司は軽く笑って、日下部をちらりと見る。
最近、あいつの目がやたらと遥を追ってる。
でも、遥の表情は見えちゃいない。目の奥にあるものまで、たぶん一生届かない。
──そういうのが、いい。
蓮司は、二人の“すれ違い”を弄ぶことに飽きていない。
むしろ、ここからが本番だ。
“届かない想い”なんて甘いもんじゃない。
望んだ瞬間に罪になり、触れた瞬間に壊れる。
遥の中にあるその矛盾を、蓮司はとっくに知ってる。
「おまえさ、日下部に何を見てんの?」
「あいつ、たぶん、全部間違えてるよ」
心のなかで話しかける。遥は聞いちゃいない。
それでも、そう語りかけずにはいられないほど、彼の中には“壊れる姿”が魅力的だった。
そして蓮司は考える。
遥を追い詰めるのは簡単だ。
ほんの一言で十分。
「日下部、おまえのこと、好きって言ってたよ」
──それが嘘でも、本当でも、遥は壊れる。
だからこそ、言わない。まだ、言わない。
焦らすのがいい。
絶望の寸前で、踏みとどまろうとする身体を
片手で──そっと、背中から押すみたいに。
「もう少しだな」
「そろそろ、“おしまい”にしてあげてもいいころかもね」
笑って、飄々と歩き出す。
遥と日下部、どちらから壊れてくれるだろう。
そのとき、どんな音が鳴るのか──想像するだけで、背筋がぞくりとした。
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