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こそあど短編集

2 - 向田苑日の代わり映えしない日常

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2024年06月19日

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#一次創作 #日常 #ゾンビ


ぱちりと目を開き、おもむろにベッドから起き上がる。点けっぱなしのテレビからはいつもと変わらないニュースが流れていて、その他で特筆するような音はない。

がそごそと戸棚を漁り、缶を一つ手に取った所で気が付いた。

(あ、これで最後か)

足で扉を閉め、慣れた手つきで缶を開ける。とびきり美味しい訳でも、とびきり不味い訳でもない、いつもと変わらない食事で特に空いてもいないお腹を満たす。

(ここも終わりだな。次に移ろう)

缶切りをさほど大きくないバックの中に詰めて、俺のものではない家の扉を開く。

扉の向こうでは、生ける屍達が今日も今日とて足取り重く徘徊していた。


彼らが発見されたのは大体一ヶ月ほど前の話。

原因不明の伝染病で、世界がその存在に気付いた時には既に手遅れという段階まで来ていた。爆発的な速度で世界中に広まっていく彼らに対し、人類の文明は成す術なく崩壊した。テレビの中で、彼らは人間の『生きたいという欲望』に反応して襲いかかってくると言っていた専門家も、その次の日には姿を消した。

俺が、どうやら世界が滅亡したらしいと気づいたのは大体三週間ほど前の話。どブラックな修羅場を乗り越えてようやくゆっくり眠りにつけた翌日、満員電車に揺られ、会社にいつも通り出勤したときの話。久々の睡眠のお陰でいくらかしゃっきりした目で見た同僚達は、皆生ける屍であった。

「……」

(もうちょっと寝れるな)

そう考えてそのまま家に帰った。

帰りの電車に揺られる中、何故自分だけが生きているのかを考えてみた。曜日も昼夜もわからなくなる程がむしゃらに働かされていたせいなのか、はたまた気づかなかっただけで元からそういう性分なのかはよく分からないが、 自分はどうやら生きたいとも死にたいとも心の底から思っていないらしい…というのが、俺の頭で考え出した精一杯の結論だ。その証拠となるかは謎だが、俺は彼らに襲われたことが一度たりともない。

会社が潰れてやることもないし、死ぬのにも労力がかかるからという至極単純な理由でただのんびり過ごすことにした。人間の適応能力というのはなかなか有能らしく、一週間も経てば彼らとの生活もすっかり”日常”になった。

そしていずれ食料の備蓄も尽きる。

だから旅に出ることにした。

そして今に至る。


ゾンビ達とお互い何の興味もなしにすれ違いながら、町中を地図を見ながら歩き回る。たった一瞬すれ違うだけの他人との距離感は今も昔もさして変わらない。

家を出て、住宅街の中の公園を抜けて、突き当たったなかなか大きい道路の歩道橋を渡る。車なんてもう通っていないが、道路を横断歩道でもない所で渡るのはなんとなく抵抗があるので。ルールやらモラルやらは、人がいなくなって不必要になっても人を縛るのだなぁなどとぼんやり考えながら歩道橋を渡っていく。

かたんっ。

「…!おっと…」

考え事をしながら歩いていたため階段を踏み外し、体が重力に引っ張られる。手すりに乗せていた手に力を入れたため、体はがくんと衝動を受けながら急停止した。

突然の事態に心も体も驚き、心臓がばくばくと脈打つ。その代わりに、頭からは熱がさっと引いていく感覚がする。その鼓動から、その事実から、 自分が生きていることを痛い程実感させられた。…あぁ、そうか。

俺は、生きているんだった。

瞬間、俺の”日常”が牙を剥いた。

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