#一次創作 #ショートショート
病院の待合室で一組の男女が不安そうな顔でひそひそと話をしている。
「あぁ、もし本当に私が大病を患っていたらどうしましょう…」
「…きっと、大丈夫だよ」
青い顔をして震える女に、男は心底心配しているという表情で慰めを口にした。
「落ち着いて聞いてください」
二人が看護婦に呼ばれ診察室へ入ると、老年の医者は重々しく口を開いた。
「奥様は大病を患っておられます。大変残念ですが、治療は不可能でしょう」
「そんな…」
女は自分の口元を押さえて戦慄きながら小さく声を溢した。より一層悪くなった女の顔色に負けず劣らず、男の顔色も今度こそ血の気が引いて真っ青に染まっていた。
そんな二人に対し、医者はにこりと笑って続けた。
「ですが、安心してください。奥様が患っているのは”死に至る病”です」
それを聞いた二人の顔色はみるみるうちに良くなり、やがて安心しきった表情で笑い始めた。
「それを早く言ってくださらないと!もう駄目かと思いましたわ 」
「あぁ、本当に良かった。妻が”死に至らない病”だったらどうしようかと思ったよ!」
笑顔で喜び合う男女を見て、医者も嬉しそうに笑った。
「えぇ、本当に。私も、患者が死ぬこともできずに苦しみ続ける様を見るのは辛いですからね」